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婚約破棄ありがとう!  作者: つばき
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婚約破棄


「アテニア、君とは婚約を破棄する!」


アルフレッド皇太子が、卒業パーティーの場で宣言すると、

参加していた同級生がどよめきはじめる。


私、アテニアにとっても青天の霹靂、あまりの驚きに言葉もでない。


「君は、皇太子の私の婚約者である、ということを盾にして、

様々な罪を重ねてきたね。

私がそれに気づかない愚か者とでも思ったのか?」


(いえ、全く身に覚えがないことなのですが・・)

アテニアは驚きが一周回り、段々と王子の発言に、心の中で突っ込み始めた。

しかし周囲をさっとみると、動揺しながらも、王子がいうことならと、

伯爵令嬢でもあるアテニアを不審な目でみる同級生が増えてきたようだ。


14歳から3年間、ともに学んできた友人と、

それぞれの努力をいたわりあう、卒業パーティーの場。

学園の伝統より、教職員は参加せず、卒業生のみが参加することとなっている。

その伝統の場として、幾年も幾多もの卒業生を見守ってきた、

学園のホールで、皇太子による婚約破棄が先生されたのは、

これが初めてではないだろうか。


(これは、まずいですね。)

あくまで臣下である自分が、婚約者とはいえ皇太子であるアルフレッドの発言を、

さえぎるわけにはいかない。

アテニアは、果たしてどう対処すべきかと思案を始めるが、

王子の告白は止まらない。


「庶民であるというだけで、このミルフィを散々コケにしたようだな?

こともあろうに、この女神のように美しいツヤのある赤毛さえ、

庶民の証であるとして侮辱したと聞く。」

金色の髪をホールの照明に輝かせ、皇太子は嬉々として話し続ける。


(はて、何のことかしら・・というより、そもそもどなたのお話しかしら。)

アテニアが全く見当もつかない、といった不審な表情をしたからか、

アルフレッドはさらに言い募る。


「まさか、忘れたとは言わせない。

アテニア、君は、自分が僕の婚約者だから、

庶民風情が近寄るのもおこがましいと、ミルフィに説教したと聞いているぞ。

そのねじ曲がった性根は、王妃としてふさわしくない。

よって、僕は、君との婚約を破棄する。

そして、ミルフィを新たな婚約者候補として、指名する!」


会場のざわめきが一気に増し、アテニアはついに頭痛がしてきた。

皇太子のとなりには、事の発端であるだろう少女、ミルフィと思われる少女が、

下を向いて寄り添っている。

愛くるしいストロベリーのふわふわとした髪を、小刻みに震わせながら、

それでもしっかりと皇太子の服の裾を握っている。


(彼女はたしか、特別枠として、この学園に入ってきた方ですね。

同じ学び舎で3年を共に過ごしたとはいえ、一度もお話ししたことはないはず。)


アテニアは自分が持っているミルフィの情報をかき集めようとするが、

全くといっていいほど接点がないため、それくらいのことした思い出せない。


(一度もお話ししたこともない方に、説教ですか・・

どうやら彼女はどうしても私を婚約者の座から蹴落としたいようですね。)


ふぅっと、皇太子にばれないようにため息を一つついたアテニアは、

これはもしかしていい機会なのでは、と思いを巡らせる。


(確かに皇太子とは、月に一度お茶会で顔を合わせる程度の付き合いですし、

好きという気持を感じたことはありませんわ。

あくまで臣下として、妻として、支えなければいけない対象でしかありませんもの。

その重い責務を逃れて、大好きな読書に専念できるのであれば、

これは願ったりの展開なのかもしれません!)


ここまで考えると、アテニアは途端に胸を弾ませ始める。

見た目だけでいえば、烏の濡れ羽のようにしっとりとした黒髪、

黒曜石のように輝く瞳を持つアテニアは、

常に冷静沈着、何があっても動じない氷のような令嬢として扱われてきた。

そのため、周囲から見れば、突然婚約者に婚約破棄を言い渡されながらも、

心を全く動かしていない、まさに氷の令嬢だ、と思われていようなどとは

露にも思っていないのである。


(婚約破棄して、王妃教育から逃れたら・・

あまりの忙しさに積んだままとなっているあの小説たちを、

好きなだけ読むことができるかもしれません!!)


もうアテニアには、続けざまに断罪する皇太子の言葉など一つも耳に入ってこない。

しかし、これだけの妄想を繰り広げながら、アテニアは眉一つ動かさず、

あくまで凛として佇まいを崩さないのだ。

パーティーだからと、皇太子の金色の髪と同じ色のドレスを着させられたアテニアだが、

その明るいドレスでさえ、彼女の氷の令嬢と呼ばれる冷徹な見た目を緩和することに、

全く貢献できていない。


「・・・以上が君が、ミルフィに対して行った罪の数々だが、、

おい、アテニア、聞いているのか?

なんにせよ、君とはもう会うこともないだろう。

早々にこの場から立ち去るがいい!」


かっこつけて話している皇太子が、退出の許可を与えたことにも、

想像の世界にいるアテニアは全く気付かない。


とはいえ、悲しいかな、厳しい王妃教育が存分にしみ込んでいるからか、

アテニアは完璧なカーテシーを無意識にしながら、とうとう一言も発さないまま

会場を後にした。


馬車の中でもアテニアは、まだ読んでいない本のことに、

胸をときめかせ続けていた。


(そうそう、あのシリーズの新刊も続きが気になっていたの・・

あら、いつの間に私は馬車のなかに?

アルフレッドさまからの断罪は一体どうったのかしら?)


ふっと我に返ったアテニアは、なぜ自分は会場ではなく、馬車に乗っているのか

全く状況に追いつけない。

自分では気づかなかったが、突然の婚約破棄に、思ったより動転していたのかもしれない。


「ふふっ」


隣でクスクスと笑う声がしたので、みると、大好きな親友が、

生来の色気を全く失うことなく、しかし大爆笑していた。


「アテニア、あなた途中から、婚約破棄したら何ができるのかと、

想像ばかりして、皇太子のお話しきいていなかったのではなくて?」


まさに図星を指されたアテニアは、ギクッと表情を固めてしまう。

とはいえ、周囲から見ると、全く表情を崩していないように見えるのだが、

親友である、トネットには氷の令嬢が全く通用しない。


「途中からうわの空で、皇太子がアホなことを散々言っているのに、

全く反論もしないのだもの。

確かに私たち臣下が、皇太子の言葉をさえぎってはいけないとはいえ、

最後に何か一つくらい反論するのかと思えば、

何も言わずに退出。

さすがの私も心配になって、ついてきてしまったわ。」


心配するこちらの身にもなってよね、と笑い涙をぬぐいながらいう彼女も、

この国では数少ない侯爵令嬢の一人。

私、アテニアとは幼いころからの付き合いで、

感情が読み取れないと評判の私の感情も、常に察してくれる。

双子のような存在だ。


とはいえ、双子のようなとは、精神面の話だけで、

見た目は太陽と月ほどに違う。

黒いまっすぐな髪に、何を考えているかわからないとよく言われる黒い瞳、そしてよくいればスレンダー、悪く言えば女らしくない体つきの私に対して、

トネットは、明るい、けれどしっとりとしたブラウンの髪に、丸くばっちりとしたダークブラウンの瞳、そして出るところの出たすばらしい体形。

夜の女王と太陽の姫の凸凹コンビと、巷ではつつましやかに囁かれているとか、いないとか。


「アテニアってば、ふらふらと馬車に乗り込むのだもの。

その様子だと、逆にアテニアのお父様に何かあったに悪い想像をさせてしまうといけないから、

説明係としてついてきたのよ。」


「トネット・・あなたって本当に最高の親友ね。

お礼に、そうね、、私の書庫から好きなものを一冊差し上げるわ!」


親友の優しさにグッとくる私に対して、トネットはあくまで冷静に


「いえ、結構よ。私はあなたのお父様に事情を説明して、

さっさとお暇するわ。」

とさっきまでの笑顔を引っ込め、冷たくあしらうのだった。


「ねぇ、アテニア。

随分と派手に婚約破棄されたけど、どうするの?

まさか、おとなしく書庫にこもっているわけではないわよね?」

上目遣いで、こちらをみてくるトネットは同性の私でさえぐっとくる、

悩ましい色気をむんむんに出している。

パーティのために薄い若草色のドレスを着ているが、

その瑞々しさが、逆に色気をかけたてるとは、

神様も不公平!

同じ若草色のドレスをアテニアが着ようものなら、

冷たい容姿と、何より平坦な体形が災いし、

どう取り繕っても、色気など出せないだろう。


「そうねぇ。本当はあなたの察する通り、書庫にこもりたいところよね。

変に反論して、また王妃教育が始まるのはごめんですもの。

ただ、このままですと、お父様とお兄様に申し訳がないのも事実。

どうしたものかしら。」


と悩む私に、トネットは

「なにいっているの、アテニア。

お父様とお兄様も喜んで、かつ彼らを見返せる簡単な方法があるじゃない!」


そういって、トネットは私に耳打ちを始めた。



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