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第3話 出会い

目が覚めると、知らない天井があった。


ここは……ああ、転生先の家か。


ベッドから起き上がりながら、この身体の記憶を確認する。


名前はレイン。名字はセルディア。男。魔族。三歳。三つ年上の姉と一つ年下の妹、両親を含めて五人で魔族の街で暮らしている。……何て言うか、他人の日記帳を見ている気分だ。


情報を整理し終え、ガラスに写る自分の姿を確認する。


紅色の髪に色白の肌、瑠璃色の右目に鳥羽色の左目。右目……と言うよりもおおよそ顔の右半分が虹色の線で描かれた蝶を想起させる紋様に覆われている。耳は母親程ではないが少し尖っている。

魔族の特徴が大々的に出てるな。……まぁ、人族に生まれ変わる保証はなかったからしょうがないか。


小さめだが実用的な木の机に置かれていた革製の眼帯で顔の右半分にくくりつけてベルトのように止め、黒、赤、白が複雑に絡み合って出来た紐で長めの髪を止める。


はぁ……また女装しているように見えてしまう。母親の記憶があるし、肉体的には母親寄り、そのためか父親のような顔立ちにはなれそうにない、か……。


前世のいじめを思い出し憂鬱な気分になるが頬を叩き、前を向く。


くよくよしている暇はない。前世何て、この世界には関係ない。僕は、この世界で前世とは違う生き方をするんだ。

前を向き、部屋の扉を開けて広間に出る。広間では母親が朝食を作っていた。


「おはよう、レイン」

「おはよう、オカーサン」


確か、こんな呼び方で良かったかな。……何か、むず痒い言い方だ。

食事を作りながらこちらを振り向く母親の笑顔に複雑な思いを感じる。


母親の名前は……確か、セリスだった筈だ。

金髪に瑠璃色の瞳のエルフでモデルのような抜群のプロポーションをしている。流石に親に欲情する事はないだろうけど、若い時は凄くモテたんだろうな。


「今日は早く起きたけど何かあるの?」

「ううん、何もないよ」

「それなら、パジャマを替えてきなさい」

「うん!」


元気よく返事をして自分の部屋に戻り、扉を閉める。そして、安堵の息を洩らす。


「まさか、早く起きる事で少し違和感を覚えられる何て、誰が思い付くのやら」


三年、僅か三年。されど三年。赤ん坊の頃から僕を見ていれば違和感を覚えられても仕方ない。そう解釈しておこう。


寝間着を脱いで畳み、服に着替える。


……?何か背中にあるのか?


服が皮膚とは違うものに擦れるような感覚がしたためついさっき着た服を脱ぎ、ガラスに写る背中を見る。

背中……いいや、両腕の上半分を装甲のように黒曜石のような黒い鱗が覆っている。よく見れば手の甲にも少し生えている。


十数種類も魔族がいれば両親の特徴を半々で受け継いでいる存在も生まれても仕方ないか。


服を着ていると部屋の扉が蹴り開けられ、赤髪の龍人が入ってくる。


「おい、飯だぞ」

「分かってるよ、おねーちゃん」

「ちっ、もう起きてたか。ならさっさと来やがれ」


粗暴な口調で広間に戻っていく姉を見送りながら姉の情報を取り出す。


確か名前は……クリアだった筈。粗暴を絵に描いている立ち振舞いをしているけど、実際は面倒見が良い。


「あん?テメェ、何もんだ?」


そして、勘が無茶苦茶良い。


「……うん?どうかしたの?」

「ちっ……何もねぇよ。さっさと着替えてこい」


内心冷や汗だらだらで広間に向かったのを確認すると安堵する。

僕が『レイン』ではなく『天月若葉』だって無意識だけど気づいた。勘が良すぎるのは今の僕にとっては困り種だ。


とりあえず、姉にだけはなるべく気付かれないよう『レイン』として振る舞おう。



朝食を食べた後、僕らは外に出る。


姉はこの国の教育機関に通っているし、妹は母親の世話を焼かれないといけないお年頃、母親は妹の面倒と家事があるため家を離れれず、父親は仕事。暇な僕は外で遊んでいる……というのがレインの毎日の生活サイクルだ。

これなら、街に出ても怪しまれない。『レイン』の生活サイクルが単独行動ばかりしていてくれて助かった。


街の中を転ばないよう歩きながら辺りを見回す。

街は神サマが画像で見せてくれた通りの木造建築ばかりで石造りの建物は殆んどない。多くの商店や屋台が並んでいる商店街は活気に溢れてるし、子供たちも走り回っている。


この辺りは比較的治安が良い街なのだろう。そうでなきゃ、子供が外に出て遊び回る何て事は出来ないだろうしな。


それにしても……文字や数字はやっぱり異世界の言葉なんだな。

商店の看板に書かれている文字を見ながら解読しようとするがすぐに諦める。

英語やその系統なら何となくでも分かるけど、この文字に関しては日本語に近い。時間をかければ読めるようにはなるだろうが、今はそれをやる時ではない。やるのならもう少し時間が経ってからだ。

数字の方は十進法で問題無さそうだし、こっちは文字よりも早く覚える事が出来そうだ。


「きゃっ!?」


ふらふらと商店街の看板を見て歩いていると誰かとぶつかってしまう。


尻餅をついてしまい、痛みが頭に登ってくるがすぐに引いていく。

いてて……前方不注意だったか。


「すみません、前の方をあまり見てませんでした」

「いえ、私の方も前方不注意だったので……」


僕が頭を下げて謝罪すると、少女はあたふたと慌てながら地面に散らばった物を持ってどこか行ってしまう。


見た感じ、僕と同じくらいの年頃だろうけど、仕事の手伝いをしていて偉いな。まぁ、まだ三歳ぐらいだろうし、そうキツい仕事はしてないだろう。


「うん……?」


立ち上がって土埃を払っていると地面に真新しい本が置かれている事に気がつく。

さっきまで無かったし……あの子の本だよな。てか、服もそうだが、見た感じ日本風の建物のクセにこういったところはヨーロッパ風なんだよな。


本を持ち上げて土を払い、適当な段差に座ると、興味本意で本を開く。

……うん、読めない。けど、おおよそは分かる。日本語と近いしい、と思っていたが癖のようなものがそのまま文字に反映され、長い年月と共に原型が無くなっていった……と言う感じか。


だが、幾つかの文字は読める。主に平仮名や片仮名の部分は癖が出にくいのか殆んど変形していなかった。


まぁ、見た感じ学術書のようだから殆んどが漢字っぽい何かだし、難しいとは思うが……解読は捗りそうだ。とりあえず、少女が戻ってくるまでの間に少しくらい解読しようかな。


「――――――!!」

「うん……!?」


何か歌が聞こえたと思った瞬間、目の前に氷の塊が落ちてくる。


なっ……!?な、ななな……!?いきなり何だ!?


「返して!!」

「あ、さっきの……て、殴りかかるな!」


涙目で近づき殴りかかってくる少女の拳を掌を合わせて防ぎ、衝撃を弾く。


殴り方が雑だ。前世で僕を産んだ女の拳はもっと鋭かった。

蹴り方も雑だ。前世で僕を産んだ女の蹴りはもっと動作が短かった。


産んだ女からの虐待を耐えながらずっと見ていた僕からすれば、この少女の拳や蹴りは遅く、軽い。

それなのに、負ける訳がない。


「う~!」


少女はボロボロと涙を流し始め、腰から二の腕くらいの木の杖を取り出し、先端を僕に向ける。


あ、何か嫌な予感がする。


『水の聖霊よ氷の礫となり打ち払え【アイススプラッシュ】』!!」

「流石にそれは反則だろ!?」


杖の先に複雑な模様と文字の羅列が浮かび上がると同時に礫くらいの大きさの氷の塊が幾つも作られる。


周りには子供の喧嘩と侮っていた人がいる。そんな状況で魔法(多分)を使えば被害が免れない。その事も分からないのかよ!?


放たれた氷の礫が当たるよりも速く書物を上に投げる。


飛来する氷の礫を流れるように蹴りと拳で破壊し、打ち下ろして地面に叩きつけながら少女に近づき、足を払う。


「きゃっ!?」


可愛い悲鳴と共に倒れていく少女を見下ろしながら落ちてくる本をキャッチする。


これにて一件落着……と、言うわけにはいかないか。


後頭部をポリポリと掻いていると杖を地面に突いた老人が野次馬たちの中から姿を表し、少女を見下ろす。


蜥蜴みたいな人だな。神サマの画像に合った通りの人って結構いるんだ。


「ふぉっふぉっ。私の孫をこうもあっさりと退けるとは、お主、面白いのう」

「それはどうも。それで、何のようですか?」


流石に、今回の件は僕の方に非がある。けど、流石に魔法を使う程ではないと思うが。


「何、少し儂の家に来るかの。天狗になっていた孫の鼻をへし折ってくれた礼もしたいしの。拒否は……許さんぞ」

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