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第2話 神域にて

「く……う……」


身体の軋むような痛みに悶えながら、僕は目を覚まし、白い空間の中で起き上がる。

上半身が起きたところで首を回して辺りを見回しながら、記憶を辿る。


確か、学校に向かって登校していて……あれ?誰かと会った後の記憶がない。抜け落ちてる……?


「流石に、死ぬ瞬間の記憶は保持できないよ」


背後から声がして振り返ると、金髪碧眼の少年が立っていた。

少年は身体に巻かれた布に指を当てながら僕に目線を合わせる。


「君は死んだ。それは理解しているよね?」

「……ああ。記憶はないが、確かに死んだことが何となくだけど分かる」


つまり、ここは死後の世界か。……案外殺風景な場所だな。


「ここは死後の世界じゃなくて僕の神域。白いのは僕の趣味だ」


……心が読めるのか。


「当たり前だよ。だって、僕は神だもん」


ケラケラと笑う自称神が指を弾くとテーブルと椅子が現れる。


手を繋がれて立ち上がらされ、椅子に座ると自称神は僕の対面に座る。


「君は死んだ。死んだ君は魂そのものと言える。そこから心の中身を読むことは容易いよ」

「それで、神サマは僕に何のよう?」

「……そういう不遜なところ、直した方が良いと思うよ。まぁ、いっか」


そういうと自称神はテーブルに指で円を描く。その瞬間、僕の周りに様々な画像が現れる。


「魂は元の世界とは違う場所に送られ、新しい生物に生まれ変わる。君たちの言葉で例えると転生って言うのかな」

「この画像は?」


見慣れない景色に……ドラゴンか?元の世界とは違うと言っていたが、こうもファンタジー色が強い世界だとはな。


「この世界以外にも工業化が進んだ世界や異形が跋扈する世界もあるけど……うん、君にはこの世界が合ってる」

「それはどうも」

「この世界の名前は……あー、決めてなかったな。適当に呼んで。君の想像通りの剣と魔法の世界で、君のような人……人族以外にも魔族と呼ばれる人間や魔物と呼ばれる怪物がいる世界だ」

「物騒な世界だな」

「君たちの世界が平和なだけさ。他の世界は君たちの世界よりも遥かに危険な事が多いよ」


となれば、こいつが僕と話している理由は……おおよそ、転生先の基礎的な情報を教えて生き残る確率を上げていると言ったところか。


確かに、平和な世界から危険な世界に転生しても向こうで生きれる可能性が高い訳ではない。その際、邪魔になるのは元の世界の倫理観だ。


世界が違えば倫理観も違う。その違いを最初に教えておけば少しは生存率が上がる……気休め程度にしかならないとは思うけど、やる価値はある。


そうだろ、神サマ。


「そうだよ。理解が早くして助かる。で、話は戻すけど、基本的な国や宗教は一応教えておくね。細かいのは自分で調べてね」


神サマは指を弾くと画像が代わる。代わった画像にはヨーロッパ風の建築物が並んでいるのが分かる。


「ヴィクシム法皇国。人族最大の国家で人族至上主義を掲げる大国。工業、商業、農業、全てにおいて高い水準を維持していて、他の国と比べると比較的治安も良い」

「へぇ。それじゃあ良い国じゃん」

「欠点もある。それはこの国が人族至上主義である事だ」


そういうと画像を消して二つの画像を出す。


二つの画像にはそれぞれ別の金髪の青年が写し出されている。


これの間違いを探せ……と言うことか?だが、人が違う以外に何が……。


「あ、左側の人の手に変な紋様がある」


左側の画面に写る人の手の甲を指差し、物珍しそうに見つめる。


紋様は円の中にとぐろを巻く蛇のような形をしているが、恐らくこれは個人差があるだろうし、特に大きな意味はないだろう。


「そう。この左側の人が魔族だ。これを見て君はどう思う?」

「……魔族と人族に分けられてるとは言っていた癖に、身体の一部に模様があるだけでそれ以外は特に変わらないな」

「まぁ、他にも魔族には種類がいるけどね」


画像が消え、代わりに幾つもの画像が出現する。

エルフを連想する魔族、獣人を連想する魔族、蜥蜴人間かと見間違える魔族……様々な種類がいるな。


画像の一つに触れていると神サマは少しニヤけながら口を開く。


「君は彼らをどう思う?」

「別に、どうとも思わない。少し変わってるけど人間だろ」

「あはは、確かに、君の言うとおり、彼らは人間だ。……ここまで言えば、分かるかな?」

「……ああ、そう言うことか」


神サマに問いかけの答えに少し悩んだ後に気付き、少しだけ不快感を覚える。


向こうの世界では国家ぐるみで差別が行われている、と言うことか。


「その通り。他にも色々と欠点はあるけど今は省こう。自分の目で見てくれればそれが顕著だからね」


そう言って指を弾くと画像が消え、新しい木造建築の画像が写し出される。

画像に写し出される木造建築を見ながら、僕は神サマに問いかける。


「これは?」

「ケルニア王国。魔族の国さ。見た通り、死ぬ前の君が生きた国の伝統建築に似てるだろ?これは昔この国に転生した魔族が建築方法を教えたからなんだ」


ケルニア王国は魔族の特性から考えて多民族国家近いと考えていいか?


「うん、そうだよ。魔族何て一括りにされてるけど実態は十数種類の種族によって構成されてる。君のような人間を人族、それ以外の人間を魔族と考えていいよ」

「なるほど。まぁ、そろそろ良いかな」

席を立つと神サマの前に歩き、見下ろす。

「そろそろ転生させてくれないか?」

「おや、もう良いのかい?」

「ああ。知りたい事は向こうの世界で知りたい」


それに、この神サマの事だ、もう既に僕の転生先は決まっている。


「さあ、それは言えないね。それじゃあ、新たな人生を楽しんでくれ」


そう言うと、神サマは僕のこめかみに手を当てる。

その瞬間、意識が遠退き空中から落ちるのような浮遊感が襲う。


怖い……という感情は不思議と浮かばない。新たな人生というのはどんなものか分からないが、地獄であることは勘弁してもらいたい。

それが――今の僕の願いだ。



くくっ、本当に面白い人間だった。

僕はのんびりと椅子に座りながらテーブルを見つめる。テーブルにはとある青年の一生の映像が流れる。


恵まれない子として産まれ、何度も生死の境を彷徨い、同胞に生まれで、容姿で傷つけられ、最後は有能さ故に殺された、哀れで滑稽な青年の一生。


気紛れで呼び寄せて転生先について話して見たけど、うん、歪んでる。魂そのものが酷く摩耗し!傷つき、継ぎ接ぎだらけの見るに耐えないものだった。


「まあ、当然か。彼の人生は不幸そのものと言えるものだ」


この世に生まれる事すら否定され、自分の生きる意味を見いだせず、傷つく事にも慣れ、恐怖心が麻痺しきっている。

種としては人だが、そのあり方は怪物そのものだ。


彼が元いた世界にはミノタウロスの伝承がある。神の約束を破った王に対する呪いで王の妃が醜い牛と交わり、生まれ、迷宮に閉じ込められ、生贄の子供たちを食らって生きた哀れな怪物。


常識が通じない狂気を保有する彼は現代のミノタウロスなのだ。


「でも、だからこそ実験にはちょうど良い材料になる」


僕がそんな事を呟いていると目の前の席に麗しい女性が座る。


僕は女性を半眼で睨み付けるが女は素知らぬ顔で茶を啜る。最後は僕が諦めて女に話しかける。


「ああ、来たのか、クリミア」

「ええ、私も終えたもの」


相変わらず、食えない女だ。


クリミア、僕と同じ神で他の神よりも地上に干渉する事が多いのが特徴。何時もは魂の管理を行っている。


「彼の方は上手くいったかい?」

「勿論。上手くはぐらかし、彼の用件を上手く呑みながら掌に押し込めたわ」

「はは、僕のほうの彼は欲という欲がなくて助かった。お陰で、ちょっと魔法の適性を弄くっちゃった」

「あら、良いの?貴方の事だからそう言う事はしないと思っていたけど」

「君が選んだ彼ほど過剰に恵まれた人間じゃない。それくらいしないと彼に追い付けない」

「……確かに、私が選んだ子は天才よ。そこに私の改造も加わって反則クラスよ」

「だから、上手く調整できた」


僕らの目の前に二つの画面が写し出される、そこに写る二人の対比を見る。


彼らの対比はまさに月と太陽を想起させる。同じ星に影響を与えているのに、交わることのない星。

僕らをして、この世界でどういう人生を送るのか分からない。けど、僕たちを楽しませてくれる人生を頼みたいところだ。



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