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第1話 愚者の死

「ふわぁ……」


小さく欠伸をすると、僕は髪の毛をくしゃくしゃと掻く。


僕の名前は天月若葉。日輪学園二年生だ。


周りの人たちが僕に視線を向けているのを感じながら、僕は横断歩道を歩く。


周りから視線をかなり向けられているけど、気にする事ではない。もう、慣れてる。


周りの様子に内心呆れながら、僕は右側の頬を人差し指と中指の指先で触れ、傷痕をなぞる。


僕は所謂、虐待を受けて育った子供だ。


僕を産んだ女は大層な遊び好きで高校生の頃から男遊びをしていた。そのため、すぐに妊娠し、僕を産んだそうだ。


遊びのつもりが、本当に子供が出来た。その結果、女は狂った。


食事を取らせないは勿論、服も変えてくれなかったし殴る蹴る暴行を受けた。酷い時は熱せられたフライパンを背中に押し向けられた事もあった。


殆どの傷は年齢が上がるにつれ、薄くなっていったが背中にはその頃の火傷の痕が今でもハッキリと分かる程に刻まれている。


その後、女の祖母に引き取られ小学校に通うことになったが、そこでいじめられる事となった。


理由は僕を産んだ女の事を親から聞いたから。


子供と言うのは無邪気で残酷なところがある。虫の足を一本一本抜いて殺すように、どれだけ残忍な事なのか分からないままいじめを加速させていった。


物が無くなる事や壊される事は当たり前、食事に泥を入れられたものを無理矢理食べさせられた事もあった。頭をバットで殴られるような事もあった。


中学に上がってからはよりいじめがエスカレートした。今まで傍観を決め込んでいた女子もいじめに加担していったからだ。


第二次成長期になってもそこまで大きくならない身長に、自分でも少女と見間違えるような顔立ち。そのせいで思春期の女子から嫉妬を買ってしまった。


クラス全体での無視やパシリのような事もした。女子からのいじめは陰湿で好事家に僕を売ろうとした事もあった。


あまりにも陰湿で端から見れば度が過ぎてるとも言われるいじめに耐えきれずに包丁で頬につけたのがこの傷だ。結局、いじめは収まる気配はなかったけど。


過去の嫌な思い出を頭を振って振り払いながら通学路を歩いていく。


けど、過去の事はもうどうだって良い。復讐は何も生まない。復讐したところで新たな復讐を生み出すだけで、何の価値もない。実際に、それを体験した事がある。


「あれ?男女じゃん」


背後から声をかけられて振り返ると制服を着た青年がいた、


男女というのは中学校時代の僕のあだ名だ。名前を覚えるのが苦手で名前は覚えてないけど、この人も同じ中学校の生徒だったのだろうか。


青年はのんびりと歩く僕の歩幅を合わせるように僕の隣を歩く。


「男女はどこの高校に行ってるんだ?」

「日輪学園」

「へぇ。彼女はいるのか?」

「いない。けど、慕ってくれる後輩はいる」

「成績はどれくらいだ?」

「上の下くらい」


矢継ぎ早に投げ掛けられる質問に丁寧に答える。答えていきながら、青年の顔は曇っていくのが何となく分かってくる。


何かあったのだろうか?まるで、誰かに対して殺意を持っているような……そんな感じだ。


「おい、危ないぞ!?」


青年の変わっていく雰囲気を注視していると、頭上から大声を向けられる。


何事かと上を見ると、工事現場の鉄筋が落ちてくるのが分かる。


まずい……!早く避けな……え?


咄嗟に落下地点から離れようとしたところで背中を押され落下地点の中央に押し戻される。


一体……何が……!?


「死んでしまえ、化物」


地面に倒れながら押された方を見ると邪笑と共に青年が呟いていた。


あまりの唐突さに唖然とする間も無く、鉄骨が真上から降り注ぐ。その瞬間、視界は一気に暗転する。



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