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調香師は時を売る  作者: 安井優
王城編

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別荘での会食

 三日目、四日目の会食は、ハザートの件があったことで延期となった。ディアーナはそのことに内心ほっとしていた。この会食が終われば、実質的には婚約者を決めなければならないのだ。それが、延期になっている。決して良いことでないので、おおっぴらに安心はできないが、ディアーナとしては不幸中の幸いといったところだった。


 シャルルが頻繫(ひんぱん)に訪れるようになったのも、ディアーナにとっては嬉しいことだった。もちろん、これも本来は喜んではいけないことだ。騎士団長であるシャルルが王城へ訪れる、というのは国に何かしらの危険が迫っている、ということなのだから。それでも、シャルルの姿を見るたび、ディアーナは心がはねるのをおさえられない。


「何かわかったかしら」

 ディアーナのもとに訪れたシャルルに、ディアーナは尋ねる。

「そうですね。いくつか面白いことが……」

 シャルルは珍しくもったいぶった口調でそう言った。


 ディアーナがシャルルを見つめると、シャルルは首を横に振る。

「ですが、完全ではありません。決定打にかける、といったようなところでしょうか」

「どういう意味?」

「そのままの意味です。証拠は集まってきましたが、絶対的な何かが足りないのです」


 シャルルの様子に、ディアーナは眉をひそめた。

「何か、言いたそうね」

「さすがはディアーナ王女。隠し事は出来ませんね」

 にこりと微笑むシャルルの顔が、ディアーナには作り笑いだということが分かる。この男は時々こうして、私の前でも偽りの仮面をかぶるのだ。ディアーナはそのことに胸が締め付けられる。分かっているのよ、とでも言えばいいのだろうか。(いな)、ディアーナにそのような度胸はなかった。


「実は、会食を開いていただきたいのです」

「会食?」

 シャルルから発せられた言葉に、ディアーナは首を傾げた。なぜ、わざわざ延期した会食を今開くのか。ディアーナには全く見当もつかない。


 シャルルは、必要なのはきっかけだ、と言った。

「できれば、なるべく広い場所で、もう一度ハザート様とお食事されては」

 柔らかな笑みの裏にくすぶる強い光が、ディアーナを射抜く。国を守り抜く、その覚悟を宿す強い瞳。ディアーナは、はぁ、とため息をついた。

「わかったわ……。その代わり、お父さまとお母さまに進言する時には、一緒にいてちょうだい」


 ディアーナとシャルルが両親に、ハザートとの会食を申し入れると、両親は少し考えたのち、うなずいた。シャルルが言うのであれば、ということだろう。西の国の第三王子、トーレスにも不審な動きはない、ということもあり、ハザートも渋々といった感じではあったが、その申し出を受け入れた。


 会食の場所には、王家の持つ別荘が選ばれた。シャルルがなるべく広い場所、出来れば人の少ないところが良い、と言ったからだ。別荘は王城から東へ行った森の奥にあり、周りには森と小さな湖があるだけだ。一番近い村までは数キロほど離れており、人もいない。


 そして、別荘にはディアーナと王、王妃の三人と、ハザートと執事の姿があった。さらには別荘の周りを騎士団の衛兵が囲う。その中には、エトワールの姿もあるが、今日は衛兵として招集されたのだ。


 本来であれば婚約者候補を、別の婚約者候補の会食に呼ぶ等というのはあり得ない。しかし、

「今日は、多分……大変なことになるからね」

 とシャルルに直接、衛兵として別荘の警護を頼まれた。エトワールもシャルルに頼まれては断るわけにもいかず、出来るだけ目立たないようにだけ注意しながら、別荘の警護にあたっていた。


(何事もないと良いが……)

 シャルルに頼まれて、ハザートの見張りを続けていたケイがそんなことを考えているうちに、会食は始まった。普段と場所が違うこともあって、どこか和やかな雰囲気だ。庭からは湖を望むことができ、開放感もある。


 しばらくして、ケイは違和感に気が付いた。

(あの執事はどこだ……?)

 ハザートのそばにいたはずの執事がいなくなっている。先ほど、ハザートに言われて飲み物を取ってくる、と席を立ったはずだが、それにしては遅い。

 ケイは慌てて、別荘の中へ急いだ。


 シャルルは、目の前にいる人物に唖然(あぜん)としていた。

「どうして、ここに」

「シャルルさんこそ……」

 別荘の中でアロマキャンドルを()きながら、図鑑を眺めている女性もまた、シャルルの姿に驚いていた。


「先日から、ディアーナ王女のご気分がすぐれないようでしたので、少しでも気が楽になれば、と同行させていただいていたんです」

 マリアは図鑑をしまって、ペコリと頭を下げる。シャルルは自らの失敗に額をおさえ、珍しく、はぁ、とため息をついた。


(……こんなことなら、ディアーナ王女にすべてを話しておくべきだった)

 まだ相手は子供だ、と余計な心労を与えないようにするため隠していたが、情報が少ない、というのも相手にとってはストレスだったであろう。先の見えない事柄は、余計な不安に結びつく。


「シャルルさん?」

 普段、柔らかな笑みを浮かべているシャルルが、珍しく悩んでる様子だった。ただならぬ雰囲気を感じ取ったマリアは、シャルルの名前を呼ぶ。

「……ごめんね。これは僕のせいだ」

 シャルルはそう言うと、そっとマリアの頭をなでる。

「詳しくは話せないけれど、今日一日、マリアちゃんは僕のそばにいてくれるかい?」

 シャルルはいつもの柔らかな笑みを浮かべた。


 ハザートと両親の会話が盛り上がっており、ディアーナは退屈していた。湖を望みながら、立食形式で行われている会食は、ハザートが両親に取り入るのにはちょうど良いチャンスだった。

(命を狙われている人が、こんなにお酒を飲むものかしら……)

 ディアーナはハザートを横目にそんなことを考える。もっと緊張感のある会食になるのではないか、と思っていたが、ディアーナの予想は大きく外れた。


 ディアーナは、ざわざわとする心が晴れず、少し席を外す、と両親に告げた。マリアがいるであろう別荘の一室へと向かう。今頃、マリアがいつものようにアロマを()いてくれているはずだ。好きな香りに包まれれば、そのうちに心も落ち着くだろう。


 席を外したディアーナを見ていたのはエトワールだった。隣にいた衛兵に、ディアーナ王女を護衛する、と言えば、隣の男はうなずいた。ハザートに見つかってしまえば、何を言われるか分かったものじゃない。エトワールは出来るだけハザートと接触しないよう、わざと遠回りをしてディアーナの後を追った。


いつもお読みいただき、本当にありがとうございます。

20/6/27 ジャンル別日間ランキング 44位、週間ランキング 78位をいただきました!

皆様のおかげです、いつもありがとうございます。


大変申し訳ありませんが、次話の内容の関係で、次回よりR-15とさせていただきます。

ご了承くださいませ。


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