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調香師は時を売る  作者: 安井優
開花祭編

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213/232

プレゼント選び

 マリアとシャルルがサントノーレに舌鼓(したつづみ)をうっているころ、王城の警備を終えたケイは、城下町へと向かっていた。シャルルが休みをとっているので、報告する相手もおらず、ケイも今日は直帰である。そんな訳で、騎士団本拠地に戻らない分、時間に余裕のあるケイは、珍しく一人、寄り道をしていた。


 城下町の一角。普段なら絶対にケイが踏み入ることのない、女性もののアクセサリーや雑貨の並べられた店の前で、ケイは足を止めた。ショーウィンドウは、たくさんの花飾りで(いろど)られており、明らかに開花祭を意識した展示になっている。

「何かお探しですか?」

 ショーウィンドウをまじまじと眺めていたケイに声がかかるのも当然で、店の扉を開けた店員と思しき女性がひょこりと顔を出した。


 この時期は、男性の方も彼女さんへのプレゼント選びに良く来られるんですよ、と女性がケイを店内へ招き入れる。店内は、目がチカチカしてしまうのではないかと思うほど、きらびやかな商品が所せましと並んでいた。そういった場に慣れていないケイは、仕事以上に緊張で体をこわばらせる。唯一ケイにとって良かったことと言えば、

「ご自由にご覧になってくださいね」

 と女性の店員がケイから離れたことくらいであった。


 ケイは並べられた商品を物色しながら、マリアのことを思い浮かべる。手に取った商品を身に着けるマリアを想像しながら、どんなものでも似合ってしまうせいで決め手がない、とケイは顔をしかめた。

(何を渡しても、喜ぶのだろうな……)

 マリアのことである。いつもの愛らしい笑みを浮かべて、ケイにお礼を言うに決まっているのだ。それがまた、ケイを悩ませる。もっと分かりやすくわがままであってくれれば、プレゼントの選択肢も必然的に減るのに、などとそんなことを考えてしまう程度には、ケイも追い込まれていた。


「彼女さんへのプレゼントですか?」

 そんなケイを見ていられなくなったのだろうか。いたたまれない、という表情で、先ほどの店員がそっとケイに助け舟を出す。いや……店内でかれこれ十五分以上は険しい顔をして悩んでいる人を見て、ほおっておける店員など、どこにいるというのだろうか。

「もしよければ、お手伝いさせていただきますが」

 ごく(ひか)えめな提案だったこともあってか、ケイも表情を少し(ゆる)めて

「すまない」

 と小さく会釈(えしゃく)した。


「その、彼女……ではないんだが……」

 ケイがおずおずと話を切り出せば、女性店員は、まぁ、と口元を手で(おお)う。開花祭で、異性に贈り物をする、というのは愛の告白を意味するに等しい。

「そうでしたか!」

 店員はキラキラと楽しそうに目を輝かせて、ケイの言葉に相槌(あいづち)を打った。どうやら、全く知らない他人の恋愛(れんあい)沙汰(ざた)にも食いついてしまうタイプらしい。

「どんな方なんですか?」

 先ほどまでの奥ゆかしい雰囲気とは打って変わって、前のめりな質問に、ケイは苦虫を()(つぶ)したような表情を隠すことが出来なかった。


 どう答えるべきか、とケイは逡巡(しゅんじゅん)したが、

(これも、ぴったりの商品を選ぶために必要な質問かもしれない……)

 と思えば、正直に答える方がよいだろうという結論が導き出されるわけで。ケイが口を開けば、店員は好奇心に満ちた瞳を(おく)することなくケイへ向けた。

「その……花のような、女性、といえばいいだろうか」

 少し悩んで、マリアに似合うぴったりの言葉が見つからず、ケイは曖昧(あいまい)に言葉を(にご)す。


「花のような……」

 店員は、ケイの言葉を繰り返して、それからクスリとほほ笑んだ。

「ふふ、素敵な女性なんですね」

「あ、あぁ」

 どうやらしっかりと意味は伝わったようである。はにかむ女性に、ケイは胸をなでおろした。


「その方は、お花もお好きですか?」

「そうだな。花は好きだ。それから、甘いものも」

「アクセサリーなんかはされます?」

「そういえば、派手なアクセサリーはつけているのを見たことがない。だが、服や雑貨は好きそうだ。どんな服も着こなしていて……」

 店員の質問に答えるケイの顔は、だんだんと柔らかなものになっていく。マリアのことを思えば、(ほお)(ゆる)んでしまうのだ。


 慈愛(じあい)に満ちた瞳でマリアを語るケイを、店員も穏やかな瞳で見つめた。

「その方のことを、すごく、大切に思ってらっしゃるんですね」

 店員の言葉に、ケイは思わず口をつぐむ。ベラベラと余計なことまで喋ってしまったんじゃないか、と我に返れば、遅れて(ほお)が染まっていくのを感じる。ケイが黙り込んでしまうと、

「必ず、素敵なプレゼントをお贈りしましょうね!」

 と、ケイの真剣な気持ちが伝わったのか、店員はぐっと強く(こぶし)を握りしめた。


 俄然(がぜん)やる気を出した店員にすすめられるがままに、ケイもあれやこれやと商品を品定(しなさだ)めする。アクセサリーもあまり大げさなものは引かれてしまうから、と女性目線の意見ももらいつつ、これはマリアに似合いそうだ、とか、この色よりもこちらの方がいいだとか、ケイも少しずつではあるが注文をつけていく。ケイが棚に置かれていた小さなイヤリングを手にしたとき、

「そうだわ!」

 と店員が手を打った。


 少々お待ちください、と言われ、ケイはその場に取り残される。店員がバックヤードの方へと()けていくと、何やらバタバタと(せわ)しなく動く音が聞こえた。

「おかーさん! あれ、どこにやったっけー?」

 どうやら、店の奥に母親がいるらしい。ケイに接客をしているときの態度とは大違いの、年ごろの娘らしい声が筒抜けだ。

「あれってどれよぉ」

 母親の声が()いで聞こえ、ケイは、素知らぬ振りをした。


 イヤリングをまじまじと眺めていたケイに声をかけたのは、ふくよかな女性だった。店員の母親だろうか、人のよさそうな笑みを浮かべてケイに頭を下げる。

「お待たせしてごめんなさいねぇ。もうすぐ戻ってきますから」

 いえ、とケイが軽く首を横に振ると、店の奥から先ほどの店員が顔を出す。

「お客様、お待たせしてすみません!」

 なるほど、並ぶと(うり)二つ。体形は違えど、まさに親子、という雰囲気である。


 店員がケイの方へ差し出したのは、パールとビオラがあしらわれた美しいバレッタだった。

「これは?」

「バレッタです。髪留(かみど)めですね」

「髪留めか……」

 ケイは、ふむ、とそれを手にして、身に着けているマリアの姿を想像する。

 今まで手に取ってきたどの商品よりも、マリアにはぴったりなように思えた。


「実は、母の手作りなんです。あと何個か作ってから店に並べようかって話をしてたんですけど……お客様を見ていたら、出し()しみするのももったいなくなっちゃいました!」

 にっこりと笑みを浮かべる店員とその母親の商売の上手なこと。まんまと二人の巧妙(こうみょう)なやり口にのせられて、ケイは

「分かった。これにしよう」

 とうなずいたのだった。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

おかげさまで50,000PVを達成しまして、本当に嬉しい限りです。

お手に取ってくださっている皆様、いつも本当にほんとうに! ありがとうございます!!


さて、今回は、ケイのプレゼント選びのお話でした。お楽しみいただけましたでしょうか?

ビオラの髪飾り、無事にマリアに渡すことが出来るのか、今後にご期待くださいませ♪


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