キングスコロンの新商品
マリアは街の広場で、目的の人物を見つけて駆け寄った。
「カントスさん!」
「ミス・マリア!」
振り返ったカントスの表情はパッと明るくなる。ブンブンと手を大きく振るさまは、相変わらずだ。
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
マリアがペコリと頭を下げると
「こちらこそ。ミス・マリア」
とカントスも丁寧にお辞儀した。新年のあいさつ、というには少し日がたっているが、挨拶をしないというのもなんだか落ち着かない。
二人は近況報告をしながら、キングスコロンへと向かう。
「それにしても驚いたよ! まさか、マリアさんからキングスコロンへの招待状が届くなんてね」
「招待状だなんて、そんな」
大げさですよ、とマリアが笑えば、カントスもクツクツと肩を揺らす。
「マリアさんといると、退屈することがないな!」
それはこちらのセリフだ、とマリアは内心で呟きながら、目の前に見える工場を指さした。
「ここが、キングスコロンか!」
想像以上の大きさだったのだろう。初めてキングスコロンを訪れた時のマリアと同じ表情を浮かべて、カントスはその建物を仰ぎ見た。
「これは驚いた! 素晴らしい! まさにアメージングだ!」
カントスは子供のように目をキラキラと輝かせる。そんなカントスの様子にマリアも思わず笑みを浮かべた。
受付を済ませ、エントランスホールで口の止まらないカントスをなんとかマリアが落ち着けた時、ちょうどマリアの後ろから声がかかる。
「すまない。会議が少し長引いて、待たせてしまったな」
パーキンはマリアのもとへと駆け寄ると、マリアの隣に立っていた人物を見つめて、不思議そうに首をかしげた。
「カントスが来ると聞いていたが」
「彼がそうですよ、パーキンさん」
「初めまして。私がカントスだ」
パーキンの少し失礼な言葉に動ずることなく、カントスは満面の笑みを浮かべて手を差し出す。パーキンは、そんなカントスを頭の先からつま先までじっくりと見つめた後、驚いたように目を丸くした。
「いや、すまなかった。あの王宮画家、カントスと聞いて……もっと、年のいった人物だとばかり思っていた」
パーキンは慌てて手を差し出すと、
「キングスコロン社、社長のパーキンだ。本日は遠方からようこそ、わが社へ」
と丁寧なあいさつをして、カントスとかたい握手を交わした。
「こちらこそ。よろしく」
年齢が近いせいか、それともカントスの人柄か、二人はすぐに打ち解け、フランクに話し始める。いつもの商談ルームへ通されるころには、すっかり旧知の仲だったのでは、と思うほどで、マリアもそれには驚きを隠せなかった。
「いや、本当に助かったよ。マリアから送られてきたアンケートの回答はもちろんだが、カントスからもアドバイスをもらえるなんてね。これで、今年のわが社の開花祭は良い売り上げが期待できそうだ」
パーキンは満足げにうなずいて、コーヒーに口をつける。
「なんでも聞いてくれたまえ!」
ドンと胸をたたくのはカントスである。まったくどこからそんな自信がわいてくるのか、マリアにはいつも不思議で仕方がないのだが、それがカントスの良いところなのだろう。少なくとも、王宮画家として、そして、調香師としても間違いのない腕を持っているのだから、それを誇るのは当たり前のことだ。
「本当に頼もしいな。期待しているよ」
パーキンは、それじゃぁ早速、とマリアが先に送っていたアンケートをパラパラとめくった。
三人は顔を突き合わせて、ああでもない、こうでもない、と意見を交わす。とりわけ、マリアの女性目線とカントスの芸術家としてのアドバイスが、パーキンには新鮮だったようだ。何か一つの質問に二人が答えれば、興味深そうに次の質問や意見が飛び出て、次第に三人の中から新しいアイデアが生まれる。
普段一人で調香をしているマリアとカントスにとっても、貴重な経験であった。
最後に、三人は新たに考え抜いた商品に名前を付ける。
「まずは、このお香だな」
マリアが最初に選んだコーンタイプのお香を、開花祭用のパッケージにするという。カントスの提案もあり、箱は少しだけ華やかなデザインに見直すようだ。
「うぅん。ライムとレモングラスの爽やかな香りが伝わるようなお名前がいいですよね」
「そうだな。女性に受けそうな……かつ、分かりやすい名前か」
「ナチュラルシャワー、なんてどうだろう」
カントスがポツリと呟く。マリアとパーキンはぱっと顔を上げる。
「いいですね。ナチュラルシャワーって響き、とっても素敵です」
「あぁ。爽やかな雰囲気もあるし」
満場一致で名前が決まり、カントスも満足そうにうなずいた。
「よし、それじゃぁ、もう一つも!」
三人に活気が戻り、今度はユーカリのバスオイルに三人とも視線を注いだ。
マリアが、あ、と声を上げる。
「じゃぁ、あなたを思う時間、なんてどうでしょう」
少し照れくさいが、カントスとパーキンは、ふむ、とうなずいた。
「いいんじゃないか? 女性も好きそうだ」
「そんな素敵なバスオイルをもらって、使わない男はいないだろうね!」
マリアの名前が採用され、ようやくこれで全ての仕事が完了である。
「それじゃぁ、最後に、私からこの香り二つにつけるブランド名を」
キングスコロン社から売り出すものだが、マリアとカントスの二人に感謝を示すため、パーキンが考えてくれていたらしい。
「特別感も出るし、ちょうどいいと思ってな」
パーキンはそういうと、二人の前に一枚の紙を差し出した。
花冠のモチーフが描かれ、中心にはピー・シー・エムの三文字。
「これって……」
「ありきたりだが、三人のイニシャルを使ったんだ」
少し照れくさそうに言うパーキンがふっと微笑むと、カントスががっしりとその手をつかんだ。
「感動した! 素晴らしい! 素晴らしいよ、パーキン!」
商品が出来るのが楽しみだ、とカントスは満面の笑みを浮かべた。
「商品が出来たら、君たちにも必ず送ろう。ぜひ、使ってくれ」
パーキンは、玄関先でマリアとカントスを見送った。二人も、感謝の言葉をそれぞれ述べてお辞儀する。カントスは最後まで手を振り続けていた。
「良い経験になったよ、ありがとう」
「私もです。たくさん勉強になりました」
また三人で集まろうという約束を胸に、マリア達はまた新たな香りを作ろうと決意するのであった。
いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!
久しぶりにカントスも登場し、王国でも名高い調香師三人が一堂に会するちょっと豪華(?)な回となりましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
まずは一つお仕事が終わりまして、これから本格的にミュシャの調香依頼に取り掛かりますよ~!
お楽しみに♪
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