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調香師は時を売る  作者: 安井優
クレプス・コーロ編

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182/232

陽祝い

 マリアのもとに届いた手紙の量に、両親はもちろんのこと、マリア自身も驚いていた。

「さすがに、これは読み切れないわねぇ」

 マリアの母親はクスクスとほほ笑み、父親は誇らしげに

「素晴らしい娘をもったもんだ!」

 とマリアを抱きしめた。


 星(まつ)りの期間が終わり、今日から新しい年が始まった。

 初日である今日はともかく、明日以降、王国は、()(いわ)いの期間に突入し、どこもかしこもおめでたいムードに包まれることだろう。


 手紙は、星(まつ)りの期間にマリアが出したものの返事もあれば、それとは別にお祝いを改めて送ってきてくれている人々のものもあるようだ。

「なんだか、年々増えてるわねぇ」

 母親はのんびりと手紙の束を見つめる。せっかくいただいた手紙だ。捨てるわけにもいかない。だが、あまりに多いと置く場所もなくなるというもので、マリアもどうしたものか、と苦笑した。


「それに、手紙じゃないものもあるみたいだよ」

 父親は、店の入り口に置かれた大きな荷物の送り主を「どれどれ」と確認して、声を上げた。

「クレプス・コーロ!? それにこっちは、騎士団一同……王妃様と王女様からもあるぞ! マリア! すごいじゃないか!」

 父親は興奮気味に目を輝かせて、リビングで手紙に目を通している娘を呼ぶ。

「ふふ、あの人が一番楽しそうね」

 母親の笑みに、マリアも思わずクスリとほほ笑んだ。


 手紙をいくらか読み終えて、父親が嬉しそうに眺めているプレゼントの山を見つめる。大きなものから、片手で持てそうなサイズのものまで、様々だ。目を引くのはやはり、王家の紋章(もんしょう)がついた贈り物だが、クレプス・コーロからの贈り物も可愛らしいイラストが箱いっぱいに書かれていて、マリアの目に()まる。

「パパ、箱を開けるのを手伝ってくれる?」

 マリアが笑うと、父親は嬉しそうにうなずいた。


 カントスからの香水のプレゼントに、メックからのドライフラワー、騎士団一同と書かれたプレゼントは、どうやらトーレスが主に手を回してくれたようで、品の良いガラスのキャンドルホルダーが入っていた。

「アイラさんのは、みんなにって書いてある」

 中には、異国のものと思われるお菓子とコーヒー豆が入っていて、両親は「お礼をしなくちゃね」と顔を見合わせた。


 リンネからの小包は可愛らしい手袋が入っており、寒い今の時期には重宝しそうだ。花の()しゅうがあしらわれており、白のレースとパールの組み合わせが華奢(きゃしゃ)で繊細なデザインである。

「可愛い!」

 マリアが思わず声をあげると、隣でそんなマリアを見つめていた父親がデレデレと情けない表情で

「つけてみないかい?」

 と提案する。もちろん、とマリアがそれをつけてみせれば、父親は、似合ってる、と嬉しそうに微笑んだ。


「こっちは、ミュシャからだわ」

 ミュシャには星(まつ)りの期間に香水やバスオイルなどを送るのがもはや習慣となっていて、ミュシャもまた、()(いわ)いの時にマリアへそのお礼を送るのが習慣となっている。

「パパとママは、こっちの紙袋だって」

 マリアはよいしょ、と箱の中から大きめの紙袋を取りだす。

「あら、今年はまたすごいわねぇ」

 いつの間にか母親も楽しげな様子に誘われたらしい。マリアの隣からひょこりと顔をのぞかせて、大きな紙袋を見つめた。


 両親が袋を開けると、そこには二着、似たようなデザインの可愛らしい服が入っている。

「わぁ! 素敵ね」

「ふふ、ミュシャくんに頼んじゃったの! うちの店の制服を作ってほしいって」

 マリアの歓声に、母親が微笑む。どうやら、ミュシャの独立記念、第一号のお客様は母親だったようだ。二人は制服を体に当てて、「どう?」とマリアの方へ向き直る。

 クラシカルで落ち着いたブラウンの色合いが、店の雰囲気にも良くあっているし、所々につけられたゴールドの装飾(そうしょく)に気品があった。


 マリアも、残った一つの紙袋に手を伸ばす。いつも素敵な服を送ってきてくれるミュシャだが、今回は果たしてどんな服だろうか、とマリアはワクワクしながら包みを解いた。

「わっ!」

 マリアはそこに入っていた美しいドレスに思わず目を見開いた。


 まるで星空のような、濃紺(のうこん)に淡い白のパールがちりばめられたドレス。腰より下の部分には淡い緑がかった青のレースがあしらわれている。襟元(えりもと)は大きくあいていて、肩ひもは大きなリボンと編み込まれた金糸が美しかった。

「まぁ! 素敵!」

「さっきの手袋とも合うんじゃないか?!」

 着てみろ、ということだろう。さすがに寒いのでマリアも断ったが、上から何か羽織(はお)れば春先には着ることが出来そうだ。どこへ着て行っても恥ずかしくはない素晴らしい作りだた。


 クレプス・コーロからの贈り物は意外なもので、マリアを最も驚かせたもの、といっても過言ではなかった。グィファンからの直筆のサインと、ヴァイオレットが使っていたコイン。そして、一枚の手紙。

『このコインを見せてくれれば、今度からいつでも公演に入れるようになるわ。今度の公演の香りもよろしくね』

 ルージュのキスマークはおそらくグィファンのものだろう。手紙の代わりにサインを見せれば、両親もまた驚いたようだった。


 最後に、王妃様とディアーナ王女からの贈り物を開ける。

「あら、まぁ」

 これまた豪華な作りの帽子である。ちゃっかり王家の紋章(もんしょう)が入ったボタンがついていて、ミュシャに見つかればまた羨望(せんぼう)のまなざしを向けられることだろう。

 帽子は冬用で、裏が起毛になっており、あたたかそうだった。

「マリアはたくさんのデザイナーさんのモデルね」

「本当だな」

 クスクスとほほ笑む両親も自ら作った服を幼少のころからマリアに着せているので、そのうちの一人に他ならないのだが、自覚はないようだ。


 マリアは、それらを一つ一つ丁寧にトランクへと詰めていく。入らないものは仕方がないので、両親が用意した紙袋に移し替えた。外の包みもとっておきたいところだが、こればかりは仕方がないので、綺麗にたたんで両親に捨ててもらうことにする。

 リビングへ目を向ければ、まだまだ机の上には手紙が山積みになっていて、こちらも早めに片づけなければならない。

「まぁ、()(いわ)いも始まったばかりだし。ゆっくり目を通せばいいさ」

 父親にわしゃわしゃと頭をなでられ、マリアも「そうだね」とうなずいた。


「今年も素敵な一年になるといいわね」

 母親の言葉に、マリアが

「パパとママにとっても、素敵な一年になりますように」

 とほほ笑んで見せると、両親は嬉しそうに目を細めた。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

おかげさまで、あっという間に41,000PV&8,400ユニークを達成し、本当に嬉しい限りです。

お手に取ってくださっているみなさまに感謝申し上げます。


さて、少し早いですが、マリア達の世界に新年が訪れました*

クレプス・コーロ編はこれにておしまい。次回からは新章です、お楽しみに♪


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