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調香師は時を売る  作者: 安井優
クレプス・コーロ編

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占い師ヴァイオレット

 ヴァイオレットは、ごそごそとローブの中をまさぐった。

「これ!」

 小さなヴァイオレットの手に握られていたのは、一枚のコインだった。

「お姉ちゃんのこと、特別に占ってあげる!」

 ヴァイオレットはずいとそのコインをマリアに差し出す。

「え?」

 パチパチとマリアが(まばた)きをすると、ヴァイオレットは無理やりにそのコインをマリアに握らせ、満足げに笑みを浮かべた。


「それじゃぁ、まずはお姉ちゃんのお名前を教えてください」

 ヴァイオレットは、扉の前に行儀(ぎょうぎ)よく正座する。可愛らしい占い師である。

「えぇっと……マリアです」

 コインを握らされたまま、マリアもつられてその場に座る。こうなってしまっては仕方がない。

「はい。マリアさん、こんにちは」

「こんにちは」

 ヴァイオレットにつられてマリアが頭を小さく下げると、ヴァイオレットは嬉しそうにふふん、と笑った。


「マリアさんは、何を占ってほしいですか?」

「え? えぇっと……」

 なぜかマリアが占ってほしがっているような展開になっているが、マリアにとっては予想外の展開である。普段から、神様や運命といったことにはほとんど興味のないマリアは、特にこれといって知りたいこともすぐには浮かばない。

「ふふ~ん。ヴァイオレットちゃんにはわかるよぉ。お姉ちゃん、運命の人が知りたいんでしょぉ!」

 全くかすりもしていないが、ヴァイオレットのドヤ顔がほほえましい。


「大人の女性は、恋愛の悩み事の一つや二つはあって当たり前よ!」

 ペチン! とヴァイオレットは大きく床をたたく。一体どこでそんな言葉を覚えてくるというのだろう。

「えぇっと、じゃぁ、それで……」

 結局、ヴァイオレットの愛らしさに負けたマリアが小さくうなずくと、ヴァイオレットは「へい! お待ち!」とこれまたどこで覚えたのか分からない言葉を発して、パン、と両手を打ち鳴らした。


「それじゃぁ、お姉ちゃん。そのコインを投げてみて」

 それぞれの面には太陽と月の絵が描かれている。マリアは言われるがまま握っていたコインをポン、と軽く床へ放り投げた。しばらく床の上をコロコロと転がったコインは、月の絵を上にして止まった。

 ヴァイオレットは、再びローブの中をごそごそとまさぐって、ペンと紙きれを取り出す。何やら棒線を引くと、マリアに「もう一回投げて」と指示を出した。


 こうしてヴァイオレットに言われるがままに、マリアがコインを三回投げ終えると、ヴァイオレットが顔を上げた。

「なるほどぉ」

 ふむふむ、とヴァイオレットはその結果をもったいぶる。

「えぇっと、ヴァイオレットちゃん?」

「知りたい?」

「え、えぇ。まぁ」

 どんなに興味がなかろうと、一度片足を突っ込んでしまったのだ。結果くらいは聞きたくなってしまう。


「えぇっとねぇ……」

「こら、ヴァイオレット。こんなところで何してるの」

 マリアの背後から(うるわ)しい声が聞こえ、ヴァイオレットとマリアはその声の方へと視線を向けた。

「あら?」

「グィファンさん!」

 マリアとグィファンの声が重なった。


 グィファンは、どうやら昼休憩で外に出ていたらしい。

「それで、ヴァイオレットにつかまっていたのね!」

 マリアがグィファンに会いに来たのだと告げると、事情を察したグィファンはクスクスと笑う。

「ヴァイオレットは、座長の娘なの。さすがに、この年齢じゃ舞台に参加させるわけにもいかないんだけど、お客さんを集めたりするのを手伝ってくれてるのよ」

「なるほど。それで、占い師さんを……」

「不思議なことに、結構当たるのよ。これが」

 グィファンがにっこりとほほ笑むと、ヴァイオレットは自慢げに胸を張った。


「で? 何を占ってもらってたの?」

「お姉ちゃんの運命の人!」

「あら。いいわね」

 ヴァイオレットのハキハキとした返事に、グィファンも興味がわいたのか、マリアの隣に腰を下ろした。

「結果は?」

「うぅん、それがね……」

 ちらりとヴァイオレットはマリアを見つめる。もったいをつけるのがうまいのは、さすが占い師、といったところだろうか。


「アタシが代わりに見てあげよっか」

 しびれを切らしたグィファンがヴァイオレットの手に握られていた紙切れを取り上げると、「あぁ!」とヴァイオレットが声を上げる。

「えぇっと、月、太陽、月、だから……あら。残念。運命の人はまだ先みたいね」

 グィファンがあっけらかんというと、ヴァイオレットがうなだれる。

「あんまり結果がよくなかったから、言いたくなかったのね」

「なるほど」

 グィファンが、ごめんなさいね、とマリアに謝るので、マリアは慌てて頭を左右に振った。もともと、占いはあまり信じるタイプではないのだ。


「ま、当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦っていうし」

 グィファンが優しくヴァイオレットの頭を撫でると、ヴァイオレットは

「当たるもん」

 と頬を膨らませて、グィファンをキッと(にら)む。

「お姉ちゃんはね、今、悩んでるんだよ! 何か、困ってることとかがあるの! ヴァイオレットちゃんにはわかるの!」

 マリアは、そのヴァイオレットの言葉に、思わず「え」と声を漏らす。

「何? 恋の悩み事?」

 グィファンもマリアの反応が意外だったのか、驚いたような瞳をマリアに向けた。


「えぇっと……その……」

 マリアの言葉はしどろもどろになり、次第に小さく消える。

「あら。やるじゃない、ヴァイオレット。それじゃぁ、このお姉さんが今悩んでる相手は、運命の人かどうかもわかるの?」

 グィファンは再びあっけらかんと言い放つ。

「へ?」

「分かるよ!」

 先ほどまで怒っていたはずのヴァイオレットの瞳が輝く。


「お姉ちゃんが今悩んでる人は運命の人じゃないよ。だから、悩んでるんでしょう?」

 ヴァイオレットは年齢にはその似つかわしくない真剣な瞳で言う。まるで、マリアの抱えてるシャルルへの思い――そのモヤを見透かしたように。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!

新たなブクマ、そして7,200ユニーク達成、大変嬉しいです♪

本当にいつもありがとうございます!


今回は、新しいキャラクター、ヴァイオレットが登場し、マリアの恋の相談役に!?(笑)

占いについては詳細を活動報告の方へ記載しておりますのでご興味ありましたらそちらもぜひのぞいてみてください*


少しでも気に入っていただけましたら、評価(下の☆をぽちっと押してください)・ブクマ・感想等々いただけますと、大変励みになります!

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― 新着の感想 ―
[一言] シャルルさん、ばっさりいかれたぁ! 素敵な人なのだけど、恋人としては別、なのかなぁ...
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