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9話 脅威来る。

 




 昼休みまで新たな事件は起きなかった。昨日まではこれが当たり前だった。

 非リア充を生きる者は、余程のことがない限り惰性で一日は過ぎていく。それに何か起きたとしても、それは不愉快なことだ。たいていリア充の被害にあうというのが、その内容。


 だが今日は違った。桜子の幼馴染として、オレにもカースト上位の仲間入りが許されたのだ。前の世界線でも桜子の幼馴染だったけど、当の桜子がそれを認めてくれなかったからなぁ。


 ただカースト上位の連中、クラスの人気者たちと付き合うのは疲れる。結局、根っこのところが違うのだろうな、コイツらとオレでは。


 昼休み、桜子が2人だけで昼食にしようと言ってくれたので、助かった。そして屋上へ向かう。前の世界線では、屋上は生徒に解放されていなかったが、こっちは違うらしい。


 屋上にはベンチまであり、そこで昼食も取れるというわけだ。小春日和にはもってこいだろう。桜子と隣り合って座る。

 桜子からは良い香りがする。この匂いはどこからくるのか。昔の詩人がそんな詩歌を作ってなかったっけ?肌から発する甘い匂いならば、それを体臭と書くのは無粋ではないだろうか。ではなんと呼ぼう。メスの匂いとか? 


「遼くん、難しい顔をして何を考えているの?」


「あ、ごめんな」


 難しい顔をしてアホなことを考えていたんだ。

 桜子を見やって、あることに気づいた。胸の大きさ。それは分かり切ったこと。だが見てみろ。ブラウスを着ているわけだが、その谷間の生地にできているしわを。これは巨乳ならではのしわと言える。


 オレが凝視していると、桜子が顔を赤らめた。


「もう遼くん、そこばっか見てる!」


「いや、そうじゃなくて、いやそうなんだけども」


 どうしても桜子とこんなに密着したことがないからなぁ。昼飯は先ほど買った学食のパンだ。桜子の愛妻弁当でないのは残念だが、朝食を作ってもらっておきながら贅沢な奴だな。


「なぁ桜子、聞きたいことがあるんだが」


「なぁに?」


「オレたちって──」


 付き合っているのか、と聞きたかった。だがこの質問を発するには、経験値がまだ足りなかったようだ。オレの質問は萎んでいき、桜子にふしぎそうな顔をされてしまった。


 美緒は、オレと桜子が付き合っていると確信していた。だから寝取るだのなんだの言ってきたわけだし。美緒の誤解ということはあるのか? 


 だけどなぁ、ただの幼馴染が朝起こしにくるか? いくら両親が不在で隣に住んでいるからって。ない。フツーはない。

 ということは桜子が恋人なのは、99パーセント確定。残り1パーセントを確かめるため、危ない橋を渡ることはないか。


 オレが自分の答えに満足していると、屋上に新しい生徒が上がってきた。すでにオレと桜子以外にも何人か生徒はいたが。


 この新手の生徒を見るなり、オレは硬直した。これは焼きそばパンを食べている場合ではない。桜子もその新手に気づいたようで、視線が鋭くなったように思う。

 その新手こそが、古崎美緒。黒髪をボブカットにした友達を連れていたが、たぶん綾香だろう。


「桜子。古崎と一緒にいる子は、誰だっけ?」


「田沼綾香という子だけど。遼くん、知り合い?」


 知り合いではないが、女子トイレでニアミスした仲ではある。


「知らないよ」


 美緒は視線を巡らせ、オレと桜子がいることに気づいた。てっきり回れ右すると思ったが、真っすぐこちらに向かってくる。

 恐ろしいことが起きるに違いない。オレは焼きそばパンを袋に戻した。食欲は消え失せた。


 桜子はベンチに腰かけたまま、近づいてくる美緒を待ち受ける。美緒の後ろからは綾香が心配そうな顔で付いて来る。オレも同じような顔をしていることだろうな。




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