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5話 女子トイレにて~誘惑される。




 古崎美緒のスペックを確認する。

 桜子と同じく美少女。背は少し低いな、では胸は? 巨乳とはいえないが、貧乳でもない。いうなれば丁度よいサイズ。揉みしだきやすいサイズ。

 ハッとした。自然、オレの視線は古崎のおっぱいに行っていたのだ。


 それには当然、古崎も気づいていた。


「揉みしだきたい?」


『触りたい?』ではなく、『揉みしだきたい?』だと。童貞を殺す気か、この女は。

 でも揉みしだきたい。

 だがオレの理性が引き留めた。この世界線では、オレは桜子に好感を持たれている。ぶっちゃけ、超好かれている。それこそがオレの願っていたことだったはず。幼馴染とのラノベ的な甘い関係こそが。


 ならば、ここで古崎の誘惑に負けてはいけない。だからオレは古崎に触れないよう、個室内でできるだけ離れる。


「お断りだ」


 古崎はどう出るか。脅してきました。


「ふーん。いいよ、揉みしだいてくれないなら、悲鳴を上げるから」


「は?」


「そして、川元くんに女子トイレの個室に押し込まれて、イヤらしいことされたって言いふらすから」


 それだけはまずい。状況証拠だけで速攻有罪にされることだろう。


「ま、まってくれ。悲鳴は困る」


 古崎が勝ち誇った笑みを浮かべたが、これがまたメチャクチャ可愛い。性格が悪い美少女ほど最悪なものはないかもしれないぞ。


 悲鳴を上げられたら、オレの人生は完全終了だ。とするともう選択肢はないのではないか。

 オレは観念し、体から力を抜いた。小崎も、オレが敗北を受け入れたと理解したらしい。


「さ、揉みしだいてみようか。そうしたら、あたしのとりこになっちゃうかもしれないわね。けど、それはどうしようもないことよ、川元くん。桜子からあたしの身体に興味が移っちゃったとしても」


 なめるなよ、小崎。お前のおっぱいを揉みしだいたくらいで、オレはお前のとりこになったりしないぞ。お前のおっぱいには負けない。

 と、内心で吠えてみたが、これは声に出さなくて良かったな。自分で言うのもなんだが、超キモイ。


 すでに授業開始のチャイムは鳴ってしまっているが、古崎はまったく気にしている様子はない。授業などいざとなればボイコットする気か。オレはそんな度胸もないので、保健室に行っていたことにしよう。


 小崎が舌打ちした。


「川元くんさ、いつまであたしの胸を見ているの? あたしも暇じゃないから、早く揉んでくれないと悲鳴を上げちゃうわよ。はい5秒前、4、3」


「ま、まて!」


 カウントダウンを止めようと、とっさに両手を突き出す。密着した状態でしたものだから、偶然にも古崎のおっぱいにぶつかった。不意打ちだったからか、小崎が短く声を出した。


「きゃっ!」


「あ、ごめん……」


 古崎は顔を真っ赤にして、両手で胸をかばうようにした。あれ、意外とウブな反応。


「やるわね、川元くん」


 評価上げられても、今のはただの事故なんだけど。


「……いいわ。寝取り作戦の第一段階は、これで良しとしてあげる。それじゃあね、川元くん」


 そう言い残すなり、小崎は足早に退散した。向こうも動揺が見られたので、もしかすると本当に胸を揉みしだかれるとは思っていなかったのか? 

 いや、揉みしだいてないけどな。ぶつかっただけだし。


 オレは蓋を閉めたままの便器に腰かけ、呆然とした。とにかく乗り切った。


 ふいに足音がしたので、古崎が戻ってきたのだろうと思った。ところが古崎ではない女子の声が、「美緒ちゃん? いるの?」と声をかけてきた。


 古崎の友達が様子を見にきたようだぞ。さっき出て行った古崎とは、入れ違いになったのか。

 そのとき、オレはとんでもないことに気づいた。


 オレ、いま女子トイレにいるんだけど。





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