26話 コンドームが買えない。
黒髪をポニーテールにした、凛とした佇まいの久留先輩。
いまはコンビニ店員の制服を着ている。
「先輩。うちの高校、バイト大丈夫でしたっけ?」
「ココうちがやっているコンビニだから、まぁセーフかな」
「セーブですかね? もう夜ですよ、夜」
「グレーゾーンね。ところで、何か聞きたそうにしていたけど? 何がお求めかな、後輩くん」
「えー、と。ひとまず、大丈夫です」
レジから離れたところで、オレは思い悩む。どうするべきか。まず店員は久留先輩のみ(他にもいるかもしれないが、今はバックヤードで作業中かも)。
とにかくこのコンビニで購入するとしたら、コンドームのレジ打ちするのは久留先輩。今夜はお楽しみがバレバレではないですか。
よし、他のコンビニへ行こう。しかし何も買わずに去るのは変なので、ガムでも買っていくか。ガムとかあんまり噛まないけど、コンビニでいちばん安いのってガムなんじゃないですか。
ふいにポケットの中から着信音。スマホを取り出し、ディスプレイに沙耶の名前を見る。
「……もしもし?」
「お兄ちゃん、異世界転移しちゃったの?」
「してないけど」
「だとしたら、どうしてこんなに遅いの? 唯一理解できる言い訳が異世界転移だからね。で、いまどこ?」
「……現実世界のコンビニ」
「ふうん。もうコンドームを買ったの?」
妹と話しているのに、なぜ冷や汗を垂らさねばならないのか。とにかく弁解せねばならない。だが部活のマネージャー先輩がレジ打ちだもん、と言ったら何かキレられそう。
「あのね、そのコンドームって、どこに売っているのかなぁと」
「……まって、いまググるから。あー、うん。トイレットペーパーの近くにあるってさ」
「はぁ」
トイレットペーパーを探すと、その棚の近くにコンドームの箱が確かにあった。
「……あった」
「良かったね、お兄ちゃん。じゃレジ行ってお金払って早く買うんだよ」
「了解です」
通話が切れた。オレはコンドーム片手に突っ立ったまま、レジを見やる。偶然、久留先輩と目があい微笑みかけられた。オレも笑い返す。
行くか。妹が怖いからではない。コンドームを買うことは恥ずかしくない。避妊は正しい。今夜はお楽しみなのだ、いや夜這いできるかは疑問だけど、とにかく備えは大切なのだ。
いざ行かん。
レジを目指して歩き出そうとしたら、コンビニ入店チャイムが鳴った。なにげに入口を見やると、桜子と目があった。
「あ、遼くん」
「やあ、桜子……えぇ、桜子!」




