25話 沙耶の夜這い計画。
「夜這いって、なんだっけ」
「高校生のくせに、そんなことも知らないの?」
いや知ってはいる、知ってはいるが。沙耶の言う『夜這い』が、オレの考えるのと同じなのか確認しておきたい。
「じゃ一度しか言わないからね。夜這いとは──夜中に好きな女の子のベッドに忍び込んでハメハメする行為です。はーい、穴埋め問題です。夜這いとは──夜中に好きな女の子のベッドに忍び込んで〇〇〇〇する行為です。〇に入る文字はなんでしょうか?」
「……ハメハメ」
「よーし、お兄ちゃん。アイテムボックスにはコンドームが入っているかな?」
「……入ってないです」
沙耶の顔に減滅が走った。
「生でする気なの、お兄ちゃん!? 避妊の授業を受けなかったの?」
そんな授業、受けた覚えはないぞ。
「仕方ないなぁ。じゃ、買ってきなさい。コンビニに売ってるから」
「はい……いや、ちょっとおかしくないか? どうして夜這いすること決定なんだ? あのな、桜子は激怒しているんだぞ。つまり、オレがベッドに忍び込んだら絶対に拒絶。それでもハメハメしたら、レイプ事件だからな! 刑務所では性犯罪者は酷い目にあうんだよ! ドラマでやってた」
沙耶は溜息をついた。
「はぁ~。お兄ちゃんには、一から説明しなきゃダメなようだね。いいかな? 桜子ちゃんは激怒してないから」
オレは腕組みした。
「信じられないな。現に桜子、目もあわせてくれなかった。まぁ無理もない。オレが美緒のおっぱいをタッチした上、その事実を桜子に隠していたんだからな。しかも嘘までついて。立場が反対だったら、オレも激怒している。いや、桜子が美緒のおっぱいを揉んでも激怒はしないけども」
「あのね、桜子ちゃんは傷ついただけ。深くね。それは確かにお兄ちゃんのせい。だからお兄ちゃんには、桜子ちゃんの傷を癒す責任がある」
「そうだな。オレにはその責任がある」
「うん、うん。そこまで理解できたなら、あとは分かるね? 傷を癒すためには、どうすればいいのか」
「桜子に誠心誠意の謝罪をするんだな?」
「う~ん。ちょっと違うかなぁ。方向性は正しいけどね。正解は、桜子ちゃんをハメハメ」
オレは眉間をもんだ。妹との会話が成り立っていない。
「だからそれはレイプ」
「違ぁぁぁう!」
いきなり沙耶に怒鳴られて、オレはビクッとした。この女児、怖い。
「いま桜子ちゃんが求めているのは、お兄ちゃんの温もり。お兄ちゃんがベッドに忍び込んで優しい声かけてあげれば、桜子ちゃんは心も体も解放。そこでお兄ちゃんがコンドームを持参したと知ったら、桜子ちゃんは感動or感動」
「……orの使いかた、違うぞ」
「つまり合意の上でのハメハメ。それを二文字の漢字で言うとなんだっけ?」
「……えーと、愛のある性行為。これだと二文字じゃないか。あれ、なんだ……」
「和姦!」
「あー……うーん?」
「とにかくお兄ちゃんがするべきことは、ただ一つ。goコンビニ、buyコンドーム、OK?」
沙耶の迫力に気圧されるオレ。
「……お、OK」
そして沈黙。
「なにやってるの?」
「え?」
「早く行く!」
「は、はい!」
外着に着替え、財布とスマホをポケットにねじ込み、オレは家を飛び出した。目指すは最寄りのコンビニ。店内に駆け込み、ホッとしたのもつかの間オレはあることに気づいた。
コンドームって、どこに置いてあるんだ?
恥ずかしがっている場合ではない。謎の切迫感に駆られ、オレはレジに向かった。店員に尋ねよう。
「あの、すいません。お聞きしたいんですが、あ」
このとき店員が女性なのに気づいた。女性店員にコンドームの場所を聞くのは、限りなく辛い。しかも、その相手が知人となったら、これはもう。
「あ、遼じゃん」
「久留先輩……」
誰か忘れた人のために紹介しておく。
サッカー部のマネージャーの先輩だよ。




