2話 可愛い妹ができていた。
オレにはメチャクチャ可愛い妹がいる、ようだ。
そして現在、両親は発展途上国にいるとか。
意味不明だろうが、順をおって説明させてくれ。
昨日までオレの父親は市役所に勤務、母親はスーパーでパート。ところが一晩明けたら、2人とも医者になっていた。しかも『国境こえる医師団』に所属し、今も海外で活動中とのことだ。
さらに昨夜まで、オレは一人っ子だった。ところが今は、小学6年生の妹がいる。
二階の自室から一階のリビングに降りたら、「お兄ちゃん、おはよっ!」と飛びついてきたのだから。
このときの衝撃は計り知れない。大人びたロリという年代の女の子が「お兄ちゃん」と言ってきた衝撃もある。
だがそれを上回る衝撃があった。
その女児が飛びついたのが、オレの腹部より少し下だったのだ。
すなわち股の間。
朝から警察案件なところに女児の顔がぶつかったので、オレは硬直してしまった。名前も知らん妹らしい可愛い女児が、不思議そうな顔を向けてくる。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
どうしたのはオレが聞きたい。
「オレは、君の、お兄ちゃん?」
妹らしき女児は楽しそうに笑った。
「朝から変な冗談言うね、お兄ちゃん」
「お、おう」
ここで思いがけないところから助け船が来た。さっきオレのアレを触りたがってきた幼馴染の桜子だ。
「そうなの、沙耶ちゃん。遼くん、今日は変なテンションみたい」
変なテンションなのはお前だ。
とにかく、この妹という女児の名前は沙耶というらしい。
沙耶がキョトンした感じの口調で言った。
「あれ、お兄ちゃん。ここ、なんか硬くなってるよ?」
「沙耶、今すぐ離れなさい!」
沙耶を引きはがしてから、オレは俯き加減で逃走。オレはロリコンではないが、それにしても可愛い女児に刺激されたら、アレは黙っていられなかったのである。
※※※
その後、歯磨き洗顔で気持ちを静めてリビングへ行く。するとテーブルには、おいしそうな朝食が並べられていた。
桜子の手料理らしく、しかもこれが毎朝のことらしい。オレが感動していたら、「いつものことじゃん」と沙耶に呆れられたので。
朝食を頂きながら、情報収集に励んだ。世間話に見せかけつつ、桜子や沙耶から話を聞き出す。
その中で、我が両親の現状も知るに至ったわけだ。どうりで桜子が入り込んでいても、誰も止めなかったわけだ。
いや、たとえ両親がいても止めなかったのか? というのも、桜子の口調からして、オレと桜子がイチャコラするのは双方の家も公認しているようだし──
イチャコラって何するの?
朝食後、今日は平日なので学校に行く。
オレと桜子が通うのは地元の高校だ。ただ昨日までは、たまに通学中、お互いに気づいてもどちらも声はかけなかった。
というより、オレから声をかけても無視されるか、「キモいから話しかけないで」と言われることだろう。実際、中三のとき言われたことあったし。
ところが、今朝は違った。
「行こ、遼くん。急がないと遅刻しちゃうよ」
「お、おう」
なに一緒に通学する流れなの? ちなみに沙耶も一緒に家を出るようで、戸締り確認。
オレが施錠していると、後ろでは桜子と沙耶が話している。
「桜子ちゃんさ、お兄ちゃんを起こしに行ってから、いつもより時間がかかったよね? 何かあったの?」
「遼くんがね、硬くさせちゃって」
「え、何が硬くなったの?」
「それを見ていたらね、なんだかドキドキしちゃって」
「さぁー、学校に行くぞぉ!」
桜子の話がセクハラめいてきたので、オレは慌てて止めた。ところでこの場合、誰に対するセクハラなんだろうか。沙耶か? 小学生にはまだ早いものな。
小学校は高校と反対方向なので、沙耶を見送ってから、オレと桜子は隣り合って歩き出した。
2人の距離の近いこと、まるで恋人同士のようだ。
ふいに桜子が立ち止まった。オレがバカなことを考えたことを察し、キモイとか言うのだろうか。
しかし杞憂。
「さっきは変なこと言っちゃってごめんね。触りたいとか」
「え? ああ、そのことならもういいんだ」
桜子も朝の変なテンションから正気に戻ったようで、童貞のオレとしてはホッとした。それも束の間のことだったがね。
桜子は耳まで真っ赤にして言った。
「遼くんも、触りたかったら触ってもいいよ」
「え。な、なにを?」
「もう言わせないでよ!」
桜子は少しだけ上半身を屈めてみせた。こうすると嫌でも強調されるものがある。
おっぱい。
オレの人生、昨日までの16年間より、今朝起きてからの1時間のほうが濃厚なんだが。