16話 寝取るgame。
整理すると、この世界線はオレの願望が作り出したというのか? そこまで鬱屈していたかなぁ? まぁ非リア充だよなオレ、とは思っていたけど。
「いや、お前の仮説に対して、オレには反論がある。願望が作ったというのならば、オレがサッカー部に入っているはずがない」
オレの中では、この反論は強力だった。サッカー部の一員など、非リア充メンタルのオレにとっては地獄以外の何物でもない。そんなわけでサッカー部員になっているこの世界線は、オレの願望とは無関係だ。
だが美緒はピンと来ていない様子。
「サッカー? 楽しそうじゃない? 女子サッカー部があったら、あたしも入っているかも」
「はぁ~。これだからリア充は、リア充爆死しろ」
「リア充の定義がテキトーじゃないの? まぁ、いいわ。実はね、あたしには別の仮説があるの。どうやら、そっちの仮説こそが正解のようね」
「え、どんな仮説だ?」
「この世界線は、あたしの願望によって生まれた、という仮説よ。遼、あなたの魂が世界線を移動したのは、ただあたしの願望に巻き込まれただけ」
ただ巻き込まれただけ? なんて迷惑なことを──いや、桜子とイチャイチャできたし、迷惑ということはないか。逆にありがとうございます。
「でも、どうしてオレを巻き込んだんだ?」
「そう、それこそがあたしの願望成就と関係があるのよ」
美緒は待ってましたとばかりに言うが、オレにはどうも状況が読めてこない。何かを見落としているのだろうか。自慢じゃないが、オレの頭のキレはたいして良くない。
ここは一つずつ考えていくか。
まず美緒の願望とは、何か。えーと、なんだ? あれかな。桜子を倒すこと、とか?
桜子とのライバル関係は軽視できない事実である。だけど変じゃないかね。願望によって作られた世界線ならば、すでに桜子を屈服していても良さそうなものだが。
いやー、まてまてよ、古崎美緒の性格は何となく把握してきている。
思うに、すでに桜子を屈服済みでは不満足なんじゃないか?
自らの実力で屈服させてこそ、真の勝利といえるとか。
「あー、つまり、そういうことか。オレを寝取ることで、桜子を屈服させたいわけだな。しかし、元の世界線では桜子には、あの、えーと」
オレが言いよどんだので、美緒が続きを引き取った。
「そうよ。前の世界線では、桜子には恋人がいなかったわけ。それでは寝取りようがないのよ。だからこそ、あたしの願望によって『桜子に恋人のいる世界線』が生まれた。そう、あたしは解釈しているの」
戸惑いつつも、オレは自分を指さす。
「……その恋人が、まさかのオレ?」
「そうね。幼馴染が恋人になるのは、そう珍しいことではないでしょうし」
いま気づいたんだが、美緒の私服の中から膨らみを主張している胸。
なんか、ぼっちがあるのだが。
もしかして、ノーブラでは?
さっき着替えるといったとき、外してしまったのかブラ。
その状態で、美緒が急接近してくる。こんなの童貞には、えげつない戦法じゃないか。
「ま、ままて。オレだってな、そう簡単に寝取られるわけにはいかない。オレだって桜子のことが、好──」
好きなのかぁ?
ここで自問しちゃダメだろぉ。
だがしかし──前の世界線では、桜子と親しかったわけではないし。幼馴染なのに冷たくされていたし。
あれ? オレは別に桜子と付き合いたいとか、そういうのなかったんじゃないか、実は?
ここで隙を見せたのがいけなかった。
美緒が攻め込んできたのだ。




