表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/33

10話 嵐は去るも。

 




 桜子と美緒の不仲がどういう経緯で始まったかは知らない。噂なら聞いたことがあるが、その噂の種類が多すぎて。


 いちばん過激な噂だと、桜子と美緒が同じ男を取り合ったとか。ついでにその噂では桜子は非処女になってしまうので、オレは断じて信じていない。

 桜子が処女であることは、オレが童貞であることと同じく確実だ。


 こんなときにスマホに着信があって、妹の沙耶からだった。


「沙耶。これから取り込むから後にしてくれ」


 〔え、お兄ちゃん、どうかしたの?〕


「桜子と古崎美緒が対峙しようとしている。何事も起きなければいいが。じゃ、切るぞ」


〔あ、お兄ちゃん待って。沙耶も2人の会話聞きたいから、スピーカー通話にしてよ〕


「お前なぁ……」


 沙耶との付き合いは今朝からだが、この妹にはずっと手を焼かされてきたことだろう。しかし、だからこそ可愛いといえるわけで。妹について語る時ではなかったか。


「分かったから、静かにしていろよ」


〔聞いておきたいだけだよ。桜子ちゃんの敵は、沙耶の敵でもあるからね〕


 女同士の結束という奴か。沙耶も朝食の世話になっているしな。オレはスピーカー通話にしたスマホを、そっと膝の上にのせた。


 美緒が桜子の前に立ち、挨拶。


「桜子、今週は初めて会うわね」


 桜子も答える。


「ええそうね、美緒」


 表面的には、2人からは敵意は感じられない。表面の奥は知らんが。きっとドロドロだろう。

 美緒がオレに微笑みかけてきた。


「川元くんとは、さっき会ったわよね」


 これは不意打ちだ。おっぱいの件、根に持っているのかね。

 桜子が意外そうな顔をした。


「え、そうなんだ遼くん」


 そうなんだよ、女子トイレで誘惑されたんだよ。

 とは言えない。全面的にオレは悪くないのに、なぜか桜子を裏切ったように思えるので。こういうことは男に責任が発生するものなのだろう、知らんけど。


「そうかと問われれば、そうなんだが──保健室で偶然、会ったんだ」


 オレは先手を打つことにした。先んじて嘘話を使う手だ。嘘の上塗りになってしまうが、これも桜子を守るため。もちろん我が身のこともある。


 桜子はとりあえず納得してくれた様子だ。オレが一時間目の休み時間に保健室へ行ったことは、承知済みだからな。


「そうだったんだ。けど遼くん、話してくれなかったよね?」


「だってほら──」


 オレは美緒に片手を差し出して、言葉が詰まった。だってほら、なんだ?


 意外なことに美緒が助け船を出してくれた。


「あたし達、そんな知り合いというほどでもないし?」


「そう。そうだよな」


「まだね」


 美緒が不穏な言葉を付け足した。

 それから美緒は桜子と少し会話し、綾香を連れて歩いて去った。


 おお、意外なことに何事も起こらなかった。平和が一番。


 桜子とも昼食を終え、教室に戻る。その途中、スピーカー通話のままだったのを思い出した。


「沙耶、まだいるのか?」


〔聞いているよ、お兄ちゃん。大変なことになったね〕


「大変なこと? 桜子も美緒も喧嘩することなく終わったじゃないか」


〔いい大人なんだから、分かりやすい喧嘩なんてしないでしょ〕


 高校生がいい大人に当てはまるかはともかく、確かに桜子はそんな性格ではないか。


〔古崎美緒はお兄ちゃんに唾をつけたんだよ〕


「それは暗喩の『唾』か?」


〔当たり前でしょ。そして桜子ちゃんも、それに気づいた。あれは古崎美緒の、お兄ちゃんを寝取る、という宣戦布告だったんだからね〕


 それは深読みしすぎでは? 

 ただ美緒はオレに明言していたか、寝取るとは。


「……小学生が寝取るとか言ってはいけないな、沙耶」


 ひとまず兄としての仕事を全うした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ