第五十四章 愛美、赤ん坊を助ける
ある日、愛美と隆一が錦通りを歩いていると、ベビーカーを押している主婦の背後から走ってきた男が、その主婦を突き飛ばして赤ん坊を誘拐して、愛美達の方に走ってきた。
愛美と隆一は咄嗟に両手を広げて犯人を捕まえて赤ん坊を主婦に返した。
主婦は、隆一と愛美に感謝して立ち去り、犯人は走り去っていて赤ん坊も無事だったので警察には届けませんでした。
帰宅した広美は二人から話を聞いて、「何故警察に届けなかったのよ。何らかの事情でその赤ん坊が狙われていたらどうするのよ。被害者の事も犯人の事も、警察では把握してないから護衛もできないじゃないの!」と二人を叱った。
責任を感じた二人は何度かその主婦と会った錦通りに足を運んで捜したが、時間帯が違うのか見つかりませんでした。
翌日広美はお座敷で、お客様同志の雑談を聞いていた。
「黒木のやつ、追われていたので例の物を近くにいた赤ん坊から母親が離れた瞬間に、赤ん坊に隠したらしいぞ。まさか、赤ん坊が持っているとは誰も思わないだろうからな。」と黒木から聞いた事を伝えた。
「その物は赤ん坊から取り返したのか?」と、その後どうなったのか確認した。
「追手をまいて、その赤ん坊を捜すと錦通りでベビーカーを見つけたが人目もあり、こっそりと物を取り戻すのは無理で、さらに母親が赤ん坊から離れなかったので、思い余って母親を突き飛ばして赤ん坊を奪ったまでは良かったが、近くにいたアベックに阻止されたらしい。赤ん坊の身元は調べたので、母親に気付かれる前に今夜にでも物を取り戻せと指示しておいた。」と現状を説明した。
その時、お客様の携帯に着信があり電話が終わると、「赤ん坊の家に忍び込んだら気付かれて、物を捜している余裕がなかったので、赤ん坊を誘拐して逃げたらしい。これから会いに行こう。」とお座敷を出た。
広美は緒方一課長に、「三係の高木です。お座敷で赤ん坊を誘拐したと小耳に挟みました。冗談でしたらいいのですが、念の為に、その客を尾行しています。赤ん坊の誘拐事件はありませんでしたか?」と確認した。
緒方一課長から、「下鴨中通りの夫婦から、赤ん坊が誘拐されたと通報があった。どの係に担当させようかと考えていた所だ。高木君が尾行しているのであれば、三係で対応して下さい。西田君には私から連絡しておきます。」と指示された。
緒方一課長は、「下鴨中通りの夫婦から赤ん坊が誘拐されたと通報があった。三係で対応して下さい。現在高木係長が、犯人一味と思われる人物を尾行中です。」と西田主任に指示した。
西田主任は、須藤刑事と前田刑事に警官隊を引き連れて広美と合流するように指示して、峰岸刑事と後藤刑事を被害者の自宅に向かわせた。
今回、被害者は赤ん坊なので、保育士の資格を持っている婦人警察官にも同行させるように指示した。
犯人は赤ん坊の肌着を調べて、「くそ!ない。」と焦っていた。
広美は、「捜し物は発見できなかったようね。赤ん坊が昨日と同じ肌着を来てないと気付かないのかしら。赤ん坊が泣きだしたわ。手がかかり邪魔だから危険だわ。口を塞ごうとしている!至急救出して!」と須藤刑事と前田刑事に指示した。
須藤刑事が、「何している!赤ん坊の口と鼻をふさげば死ぬだろう!京都府警の須藤です。殺人未遂の現行犯で逮捕します。」と警察手帳を提示して警官隊が取り囲み、犯人一味を逮捕したが一人取り逃がした。
赤ん坊を無事保護して犯人を逮捕後、広美は保育士の資格を持っている婦人警察官に赤ん坊を任せて、被害者の自宅に電話した。
「京都府警の高木です。赤ん坊は無事保護しました。」と電話にでた母親を安心させた。
母親は、「ありがとうございます。」と広美に感謝していた。
広美は、「そちらにお邪魔している、うちの刑事に替わって下さい。」と依頼した。
広美は電話にでた後藤刑事に、愛美と隆一が昼間誘拐を阻止した事を伝えて、その時に着ていた肌着に何か貼り付けてなかったか、ベビーカーに何か不信な物はないか確認して西田主任に報告するように指示した。
後藤刑事から事情を聞いた被害者夫婦は、「昼間着ていた肌着は既に洗濯しました。」とタンスからその肌着を出してきて後藤刑事に渡し、峰岸刑事がベビーカーを調べた。
後藤刑事が調べると何もなかった為に、肌着を洗った洗濯機を調べると、洗濯機のすみに、USBメモリがあった。
被害者夫婦のものではない事を確認の上、西田主任に報告して捜査本部に持ち帰った。
西田主任はUSBメモリを確認して、「USBメモリは破壊されていて、パソコンで読み取り不可能でしたので、科捜研に復元依頼しました。誘拐犯を一人取り逃がしているので、生活安全課に赤ん坊の護衛を依頼しました。付近に警察官を待機させ、私服の婦人警察官が母親の友達として一緒にいるそうです。後藤刑事、須藤刑事、逮捕した犯人を取り調べて下さい。峰岸刑事、前田刑事、逃亡した犯人は鶴千代を予約したお客様で、松川秀樹と名乗ったらしいです。芸者遊びなので本名かどうかも不明ですが、係長から連絡先も聞きましたので調べて下さい。」と指示した。
しばらくすれば前田刑事から連絡があり、「松川秀樹の名前も連絡先もデタラメでした。」と報告があった。
翌日後藤刑事が捜査会議で、「逮捕した犯人は、白木義三、二十三歳と、赤ん坊を誘拐した黒木純也、二十三歳で、二人は高校時代の不良仲間で逃亡した松川と名乗った犯人との関係は黙秘しています。」と報告した。
三日後、科捜研から、完全復元は不可能でしたが、一部復元できましたと報告があった。
西田主任は、「地位のある人物の浮気現場の動画のようですが、顔が判別できない為に、政治家なのか会社重役なのかそれ以外なのか不明です。」と他の刑事達に動画を見せて伝えた。
須藤刑事が、「その動画で、その人物を脅迫しようとしていたようですが、仲間がいるかどうかは黙秘しています。」と報告した。
西田主任は、「仲間がいれば、その人物が脅迫される可能性があります。」と捜査する必要があると判断した。
後藤刑事が、「証拠がないので仲間がいても脅迫できないのではないですか?」と不思議そうでした。
西田主任は、「写真など、証拠はこれだけだとは限りません。後藤刑事、峰岸刑事、動画撮影現場を特定して下さい。須藤刑事、前田刑事、車両番号は不明ですが、車種、色、その人物の体格などから、その人物を特定して下さい。」と指示した。
これだけでは雲を掴むような話で捜査は進展しませんでした。
翌日府議会議員の嶋田義輝議員の秘書が烏丸ホテルの客室で他殺体となって発見され、五係が担当する事になった。
広美がレストランで昼食後、京都府警に戻る途中で、逃亡中のお座敷で松川秀樹と名乗った人物を発見した。
松川は、広美が芸者姿ではなかった為に鶴千代だとは気付いてない様子でしたので、携帯で西田主任に伝えて尾行した。
広美は、逃亡中なのに京都府警の近くに現れるとは大胆不敵ね。灯台もと暮らし、とはよく言ったものね、と思いながら尾行を続けていると前田刑事が応援に来て、広美とアベックを装い尾行を続けた。
松川はアパートの一室に入った為に、付近で聞き込みすると、松川秀樹の本名は森川茂樹と判明した。
翌日の捜査会議で前田刑事は、「昨日行きがかり上、数年ぶりに係長とペアーを組まして頂き、森川茂樹について調べました。森川は悪質ルポライターで、白木と黒木を手足として使い、取材したネタで脅迫まがいの事をしていました。森川の携帯の通話履歴を調べると、府議会議員の嶋田義輝議員と、ここ数ケ月頻繁に電話しています。逮捕した黒木を被害者夫婦に面通しして頂きましたが、赤ん坊が誘拐されたのは夜だったので、顔ははっきりと確認できなかったそうです。奥さんに、白昼誘拐されそうになったのは、この男性に誘拐されそうになったのか確認すると、咄嗟の事で、顔は見てないそうです。赤ん坊を取り戻してくれた人が顔を確認していると思います、とのことでしたので、係長に依頼しました。」と報告して広美を見た。
広美はその視線を感じ、「誘拐を阻止したのは愛美と隆一です。面通しさせると、白昼赤ん坊を誘拐しようとしたのは黒木に間違いないそうです。先日府議会議員の嶋田義輝議員の秘書が殺害されました。今回の事件と関係あると思われます。五係の雨竜係長には事情を説明して協力依頼しておきました。五係と協力して事件を解決して下さい。ちなみに、雨竜係長に確認しましたが、府議会議員の嶋田義輝議員は、USBメモリの動画に映っていた車と、同一車種、色の車を所有しているそうです。」と伝えた。
前田刑事は、「嶋田議員は脅迫されていたのでしょう?殺してしまっては何もならないのではないですか?」と不思議そうでした。
数日後、広美が、「五係の雨竜係長から連絡がありました。やはり、嶋田議員は浮気していたそうです。その証拠をルポライターに掴まれて脅迫されていたそうです。そのもみ消しを、殺害された秘書が担当していたそうです。」と捜査会議で伝えた。
後藤刑事が、「五係からの情報では、動画が撮影されたのは烏丸ホテルで、そのホテルのベルガールが共犯で、撮影もそのベルガールがしていて黒木の妹でした。秘書殺しは、ベルガールが客室に入ってきても不信ではなく、油断していた所を殺害されたとして、黒木の妹を逮捕したそうです。」と報告した。
前田刑事が、「主犯格の森川を捜していると五係の刑事から、“三係はひっこんでいろ!”と睨まれました。」と不機嫌そうに戻ってきた。
広美は、「矢張りそうですか。ざこは五係に任せて私達は黒幕を追うわよ。」と指示した。
前田刑事が、「なぜ解っていたのですか?」と不思議そうでした。
広美は、「あなたも鈍感ね。いままで、五係からの情報は、誰を逮捕したとか、捜査結果だけでしょう?誰を捜査しているとかの捜査情報はなかったでしょう?そんな五係相手では、あなた方だけでは無理だと判断して私が捜査しました。嶋田議員を陥れる為に、やくざと関係がある悪質ルポライターに故意に情報を流したのよ。」と教えた。
須藤刑事が、「やくざの話は今まで、でていませんでしたが、どこから入手したのですか?」と不思議そうでした。
広美は、「五係も、ただの脅迫事件が殺人事件に発展したと思っているようですね。逮捕された黒木の妹は、銀龍会幹部、笹田良二の情婦で、麻薬などの取引は烏丸ホテルで行われていて、黒木の妹が協力していたわ。それに嶋田議員が気付いて、麻薬だけではなく、銀龍会の壊滅に力をいれていたとお座敷で小耳に挟んだのよ。笹田は鶴千代のお得意様よ。」と情報入手経路を教えた。
西田主任が、「ありがとうございます。係長。須藤刑事、前田刑事、嶋田議員を護衛して下さい。後藤刑事、峰岸刑事、銀龍会幹部、笹田を張り込んで下さい。」と指示した。
翌日広美が捜査会議で、「今晩、笹田からお座敷の指名があったわ。笹田が予約した部屋の隣の部屋を、料亭の女将に依頼して借りました。私が探りを入れるので、そこで聞いていて下さい。」と指示した。
西田主任が、「ありがとうございます係長。須藤刑事、前田刑事、嶋田議員の護衛は続行して下さい。後藤刑事、峰岸刑事、料亭で待機して下さい。」と指示した。
広美がお座敷に顔を出すと、笹田と森川と、嶋田議員を陥れようとした府議会議員の島村庄司議員が来ていた。
島村議員が、「森川、嶋田の脅迫に失敗したのなら、週刊誌に掲載しろ!あいつは真面目一方で邪魔だ。」と不機嫌そうでした。
広美は、「そうね。真面目一方ではなく、たまには芸者遊びもしてね。」と話に割り込んだ。
そこへ、やっと黒幕の存在に気付いた雨竜係長が、五係の刑事達とお座敷に乗り込んできた。
雨竜係長は殺人教唆で同行を求めた。
島村議員が、「証拠はあるのかね?証拠もなしに不愉快だ。おい、お前達も帰るぞ。」と帰ろうとしていた。
通路に出ると、隣の部屋から後藤刑事が出てきて、「京都府警の後藤です。お座敷での会話は録音させて頂きました。同行願います。」と睨んだ。
島村議員が、「そんなの、誰が喋ったかわからないじゃないか。」と反論した。
後藤刑事は、「声紋チェックしましょうか?それに、刑事が確認していたわ。」と諦めるように促した。
島村議員が、「どこにそんな刑事がいるのだ。」と捜していた。
広美が警察手帳を提示して、「京都府警の高木です。」と睨んだ。
島村議員が、「鶴千代!お前刑事だったのか。」と油断したと諦めて連行された。
雨竜係長が、「いや、逮捕は五係で・・」と訴えた。
広美は、「証拠も掴んでないのに、逮捕どころか連行もできないでしょう。その状況で、よくここに乗り込んで来たわね。直感だけでそんないい加減な連行をしていると、以前のように誤認逮捕してまた問題になるわよ。」と雨竜係長を押し退けて、笹田と森川と島村議員を連行後逮捕して、事件は解決した。
次回投稿予定日は、1月9日を予定しています。




