隕石発見者……
「おじゃましまーす。先に部屋へ行っていいよね」
空子が僕の返事を待つわけはなく、靴を脱ぎ捨てると僕の部屋に勝手に行ってしまった。
「飲み物、持って行くから、電源入れておいて」
「オッケー。私アップルお願い」
そんなに都合よくリンゴ味があるとは思わないが……残念だ。冷蔵庫の奥にはアップルの文字が印刷されたパッケージが目に映る。
僕はリンゴジュースをコップに注ぐと、自分用に取り出した炭酸飲料を持って自分の部屋に向かった。
扉を開けて部屋に入ると別途の下を漁っている制服姿の女の子が目に飛び込んでくる。
「……一応聞くけど、なにやってんの」
「いやぁ。お宝があるかなって。でも何もなかったよ、残念つまんなーい」
悪びれる素振りもなくベットに座ると、僕の持ってきたジュースに手を伸ばした。
「何もあるわけないだろ、それよりメールは見てくれた?」
「言われた通りに電源は入れたよ」
パソコンを見ると確かに起動はしているが、画面はログイン待ちの状態だ。
ほらね、という自慢げな彼女の顔を横目に僕はイスに座ると、ログインしてメールの確認をすることを決めた。なにを言っても口では空子には勝てない……。
「メール来てる?」
ジュースを飲み終わった彼女はスマホをいじりながら、僕に問いかけてくる。
「待ってよ、今確認するから。そっちの方にはメール来てないの? スマホで確認してみて」
「私には来てないから、琉聖に確認して欲しいの。出したのは琉聖なんだから私には返事こないよ」
それはそうだ。でもちゃんと連名で出したけれど……まあいいや。
僕はメーラーを立ち上げるとメールを上から順に追っていく。普段はあまり気にならない広告やメールマガジンがものすごく鬱陶しく感じる。
……届いていないのかな。
更新してみよう。今送られているかも知れない。
更新ボタンを押すと新着ありのアイコンが表示される。
送り主を確認すると…………やった、研究所からだ。
「返事きてるよ。タイミングがよかったみたい」
空子に告げるとすぐに僕を押しのけてモニターにかぶりつく……柔らかい感触が当たったのは内緒だ。
「ちょっと。中身を早く見せてよ」
メールの内容が気になるのは、僕も同じなのだからしかたない。
……さて、どんな星なのだろうか。とても楽しみだ。
「えーと、『拝啓、この度は……』――――」
僕達はメールを最後まで読んでしまった。
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気分は最悪だ。
あんなに楽しみにしていたメールだが、今となっては……見てしまった記憶を全てブラックホールに吸い込まれてしまえばよいのにと思う。
メールを見た後、僕らはいつの間にか、無言であの場所に来た。
そうだ、あれを発見した場所に。本来ならこの場所は素晴らしい思い出の場所になるはずだった……。
隣に座って、空を見上げる空子の顔を見てもまるで、そんな楽しい場所に来た顔ではない。
何も言えない時間が流れていたけど、空子から口を開いた。
「ねえ……。あの隕石の話本当なのかな。間違いじゃないよね? でも研究所の人が言ってるんだし、あんな電話だって……」
僕達の見たメールは衝撃的だった、隕石の成分や何処からやってきたのかなんてのは、どうでもよくなった。
目に留まった一言『衝突』の文字。
隕石が発見されると、よくそのコースが話題に上がる。地球に接近する場合はテレビなどでも話題になる。しかしその確立だって宇宙規模に比べたら小さいものなのだ。
滅多に地球に当たることなんてないのだ。でもこの隕石は違うらしい。
メールの内容を細かく覚えていないけれど、その確率は93.45%。この数値は異常だ。もう必ず当たると言ってもいいと思う。
「冗談だろ……。なんでそんなものが今までに発見されなかったんだ」
詳しくは読んでいないけれどかなり、今までに見たことがない、速度とコースで地球に向かっていると説明が書いてあった。
「間違い……いや、冗談だったらと私も思うけど、電話。聞いてたでしょ」
あのメールを読んで何も考えることが出来なくなっていた時に、空子のスマフォに着信があった。
電話をかけてきたのは政府の危機管理担当と名乗った男性。
電話の内容はあの隕石のことは公式な発表があるまで公開しないこと。もちろん、地球にぶつかる可能性があるのは誰に言わないで欲しいとの内容だった。
見上げると、いつの間に夜になったのだろうか。視界いっぱいの星空が目に映る。
あの星達の中にあの隕石は紛れているのだろうか。
「僕達が黙っていても、もうすぐにみんなが気づく。その時はきっと大騒ぎになる……」
空を見上げたまま僕はポツリと呟いた。
「私達とんでもないものを見つけたんだね。……私はただ、ただ琉聖との最高の思い出になると思ったのに……」
空子の悲しそうな声も、この星空に吸い込まれ僕の耳には入らなかった……。
残念ながら、政府は僕達の口を封じて対策を練るつもりだったのかも知れない。でもそれは無理だった。
隕石の発見者が相次いだ。
もちろん、その隕石の最終目的地も……。
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朝からテレビを付けると話題は何処も一緒。
学校に行っても会話の内容は一色。
『隕石が地球に落ちてくる』
確かにそんなことが現実に起きれば誰だって大騒ぎだろう。
僕が天文部だということで周りの友達からも意見などを求められたが、まさか自分達が発見したなんて絶対に言えるわけがない。
友達の囲いから目線を空子の席に向けてみると、彼女は机に伏せっている。この話題に加わりたくないのだろう。
適当に相手をしているとチャイムが鳴り、授業の開始を告げる。しかし席についても皆の話題は止まらない。
先生が入ってくると、クラスのムードメーカが質問をする。
「せんせー、隕石が地球にぶつかるみたいですけど授業はどうなるんですか」
普段なら、大きな笑いが起こるかも知れない、でも今は反応がまばらだ、それは先生の態度からも伝わってくる。
教壇に立つと、ゆっくりと教室を、僕達の顔を見渡すと口を開いた。
「もうニュースなどでも知ってると思うが、昨日地球に向かっている隕石が発見された。今のところ詳細は不明だが衝突する確率があるらしい」
大人から真面目なトーンで言われるとやっぱり現実で、とても大変なことだと僕らにも伝わってくる。
「今日は普通に授業を続けるが、なにかあれば休校になると決まった」
その後は普通に授業が続いた。皆も普通に受けている。でも僕はうわの空だ。
気が付けばいつの間にか午前の授業は全て終わってしまった。
昼ご飯を食べる気分にもならない僕は部室にでも行こうと思い、席で僕と同じように伏せっていた空子に声をかけた。
「……部室に行くけど」
「うん、私も行く」
少ない言葉を交わすと無言でお互いに部室に向かう。
部室でも同じだ、無言でお互いに食事を取り始める。
一体これからどうなるのだろうか。それしか頭になかった。
そんな時に電子音が部室に鳴り響く。
音の発生源はスマフォ。
僕は彼女が電話に出る所を確認すると、また食事に戻る。
「そんな! そんなの知りません。ただ偶然に発見しただけなんです」
急にビックリした。空子が電話に向かって、正確には電話の相手に向かって怒鳴っていた。
「どうしたの、誰からの電話だ」
「何も話すことなんてありません。もう切ります」
乱暴に空子は電話を切ると、スマフォを投げ捨てた。
僕はもう一度彼女に電話の相手は誰なのかと尋ねると、『マスコミ』とだけ答えてくれた。
マスコミからの電話がなぜ僕らに……。
考えているとまたスマフォが鳴る。僕が変わり出ると、
「川栄さん頼みますよ、第一発見者なんでしょ。本当はもっと詳しい情報を知っているじゃないですか? お願いしますよ」
僕は慌てて電話を切ると、空子の様子を確認する。
僕悟った。発見したことがばれたのだ。
慌てて、ネットのニュースを見る、発見者は日本の高校生との文字が躍る。
血の気が引くなんて表現を使う状況は、今の状況のことだと思う。
さらに状況は変化していく、いきなり部室の扉が開いた。そちらを見ると先生が立っていた。
「お前達、あの隕石の発見者なのか? さっきからマスコミから電話が鳴りっぱなしだぞ」
「……うそ。なんで……」
空子も、僕もなにが自分の周りに起こっているのか全然理解できなかった。
その後、先生に連れられ職員室に向かう僕達を沢山の生徒が声をかけてくる。
有名になった僕達を賞賛する言葉、皆が祝福してくれているのだろうか……。
いや、ちがう最も恐れていた言葉が僕らに浴びせされた。
『お前らが発見したせいで隕石がぶつかるんだぞ』
なにを言ってるのだろうか。隕石を発見したのは確かに僕らだ。でも、ぶつかるのは僕達のせいじゃないだろ。
その言葉が引き金になっただろうか、明らかに僕達を見る目が変わった。
まるで全ての責任が僕と空子にあるような雰囲気だ。
「隕石なんて発見しなければよかった……、好きじゃなければ、こんなに私は嫌われなかったのかな」
空子の呟がむなしく聞こえる。
僕は何も言えなかった。
隕石衝突まで一週間。
これからのことは誰にもわからない。
間が空いてしまいました。
まだまだ実力不足ですが、楽しんでまったり小説を書いていきます•\( *´ω`* )/
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