兄妹
今回は少し短めですね、次回に期待です。
……自分で言うな?おっしゃる通り。(おい)
聖国が王国に同盟を結びに来た。
それは今までの聖国の行動を考えればありえないことである。
聖国はとある男の独裁が始まってから、以前までの宗教国ではなくただの独裁国家となってしまった。
彼の政治手腕は見事の一言で、あっという間に民衆をまとめ上げるだけではなく、聖国の経済力を以前の数倍にまで引き上げることに成功したのだ。
それだけではない。彼の野心はとどまることを知らないのか、帝国と王国に宣戦布告をふっかけてきた。
当時あまり仲の良くなかった帝国と王国が慌てて同盟を結んだ事実が聖国の強大さを物語っている。
その後、帝国が同盟を裏切って三国三つ巴の大戦に発展したのだが、結局決着がつくことはなく三国とも力尽きて不戦協定を結ぶことで落ち着いた。
今回はその聖国から直々の同盟である。
「私は同盟に賛成のつもりなの。」
シェリアは湯船に映る自分の顔を見つめながら言う。この決断を下すのに一体どれだけ悩んだのだろうか、ナナはそう思いつつもやはり聞いてしまう。
「……裏切りの可能性は?」
「…無いとは言い切れないよ。」
でもね、とシェリアは顔を上げてナナの瞳を見つめる。
「私は裏切りの可能性は低いと思うんだ。」
「…どうして?」
「王国は過去に戦争で同盟国に裏切られてる。そんな国にわざわざ同じ手を使って攻撃しようとするとは思えないし、聖国が王国にそんなことをして得る利益が少ないの。」
頑張っても戦争で使ったお金の半分くらい、と具体的な数字まで出して話すシェリアにナナは驚いた。国政はナナの兄姉に任せているはずなのに、最終決定権はシェリアが握っている。
ナナの知らないところで一体どれだけの努力をしたのだろうか、ナナには想像すらできなかった。
「……それをどうして私に?」
「お姉ちゃんに、私たちの会談中の警護をして欲しいの。」
私たち…と言うのはシェリアの今世での兄姉のことだろうが、ナナは不思議に思うことがあった。
「……シェリアも出るの?」
「…うん、一応王族だから。でも私の護衛がいなくて…男の人は怖いし、アンナは対外的にはメイドの扱いだから。」
シェリアはそう言って顔を伏せる。
…軽くなったとはいえ、未だに男性恐怖症が完治したわけでは無いシェリアを任せられる護衛がいなかったと言う訳か、とナナは納得した。
「でもねお姉ちゃん、別に行かなくちゃいけないって訳じゃ無いの。だから……。」
「私を説得した?」
「……うん、そしたら…当日休めばいいし。」
「シェリアのバカ。」
ナナの言葉にシェリアは驚いて顔を上げた。
…ナナは笑っていた。
「…妹は、わがままを言っていい……私はわがままを…言ってくれたら……嬉しいよ?」
「……お姉ちゃん。」
ナナの精一杯の優しい本音に、シェリアはお風呂より暖かいものに包まれているような気持ちになった。
「ありがとう、お姉ちゃん。」
「…大丈夫、シェリアは…私が守るから。」
二人は無言でお互いに抱き合った。
アンナの姿はいつのまにか消えていた。
ナナたちが風呂に入っていた時、シェリアの実兄であるキールズ王子は自室でとある手紙とにらめっこをしていた。
「…お兄様、何度見ても文字はかわらないわよ?」
「……わかってる。しかしどうしても疑ってしまうんだよ。」
部屋に遊びにきたカレン王女が呆れたようにキールズ王子を見るが、カレン王女自身もその手紙への不信感を拭うことができずにいた。
その手紙の内容を簡潔に言うなら。
『聖国の王国への同盟申請』
シェリアがナナにしていた話である。
聖国の行動を疑問に思い、警戒しているのはシェリアだけではない。実際に政治を行なっている兄姉はシェリア以上に聖国の動きを警戒しているのだ。
「…結ぶべきか、蹴るべきか。」
「こればっかりはシェリアの意思だけで決める訳には…いかないわね。」
「最悪この決断だけで王国が滅びかねない問題だよ……頭がいたい。」
2人の表情は険しい、普段の穏やかな雰囲気のキールズ王子といつも優しく微笑んでいるカレン王女の姿はそこには居ない。
「緊張による頭痛にはコーヒーがオススメですよ。」
そこに現れた第三者。
手に持った盆には二杯のコーヒー。
突然の来訪者に驚いた王子と王女はその姿を見て呆れたような顔をする。
「……アンナ、ノックぐらいはしてくれ。」
「ちゃんとしましたよ?ノック。」
「えっ!?全然聞こえなかったわ。」
そんなに集中していたのか、とカレン王女は少し恥ずかしくなってコーヒーに口をつける。少しほろ苦いコーヒーが美味しいと感じたのはいつの頃からだっただろうか、少し前にナナちゃんに飲ませたら顔をしかめて砂糖を大量に入れていたな…とくだらないことを考えられるまでには既に緊張がほぐれていた。
キールズ王子もコーヒーを飲んで落ち着いたのか、普段の穏やかな雰囲気に戻っていた。
初めて見る装飾なのか、飲みかけのコーヒーカップを眺めている。
「それで、アンナがここに来たってことは……シェリアが決断したのか?」
「はい、シェリア様は同盟を受けると。」
「…そうか。」
キールズ王子はそう言って天井を見上げ、すぐに椅子から立ち上がった。
「聖国と会談の準備だ、アンナは明後日までにはシェリアに伝えてくれ。話すのは今日でなくてもいい。」
「わかりました。」
「…お兄様?シェリアの一存だけじゃ決めないって……」
「カレン。」
カレン王女の言葉を遮るようにキールズ王子がコーヒーカップをカツン と机に置いた。
「俺はどんな決断だろうと、シェリアに賛成する。それじゃダメかな?」
「……それは、シェリアの責任が重すぎます!」
「責任は全て俺が持つ、決断は全て俺の一存でしたことにする。シェリアに責任を負わせることは絶対にしない。」
「……それでもダメです。」
「…そう言うならカレン、お前はどうするんだ?」
キールズ王子は空になったコーヒーをアンナに渡してカレン王女に聞く。
カレン王女はキールズ王子に微笑む。
「責任は、私とお兄様で半分こです。」
兄妹はナナとシェリアだけじゃない!
と言うことが書きたいだけだった携帯充電器でした




