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どうして

ついに本編が90話突入です!


今まで読んでくださってきた皆様…ありがとうございます。


…90話記念に感想でも書いていかれませんか?

と言う冗談は置いておいて、これからも携帯充電器をよろしくお願いいたします。

王国の皇居、現在は王女のシェリアと義理の姉扱いのナナが暮らす拠点である。

普段は暖かく優しい空気に包まれた穏やかな空間であり、ナナたちも安心して生活できているのだが……。



今、その空間は緊張で凍り付いていた。

床に正座しているナナ(正座の概念があるのかはわからないが、ナナは自然とその姿勢を取っていた)と、その正面で仁王立ちしているシェリアがその原因である。


疲れ果てた様子の使用人達がナナ達を同情するように見つめており、ミルド、シュビネー、ネイデンの3人はシェリアのことを知っているが故にその覇気に困惑していた。

そして例外が一名、ラディリエはシェリアと初対面である。しかしそのラディリエも歳下のシェリアが放つ冷たく光の無い瞳に恐怖していた。


こんな事になった原因は何なのだろうか。

その答えは簡単な事である。


「……それで?」

「2日も…帰らなくてごめんなさい。」

「それだけじゃ無いでしょ?」

「……怪我してごめんなさい。」


ただ単にシェリアが心配していただけだ。


「…はぁ、お姉ちゃんが全然帰ってこなくてすごく心配したんだよ?」

「……ごめんなさい。」

「しかも帰ってきたと思ったら傷だらけで…心臓が止まるかと思ったんだからね?」

「……ごめんなさい。」


数時間もこんなやりとりが続き、激しい戦闘の後ということも相まって頭が働かないナナ、ほぼ条件反射で相槌を打つまでの境地に至る。


「当分は狩に行かないでね!」

「……うん。」

「反省するまで私のお茶会に付き合ってもらうんだから!」

「…うん。」


もうこの説教が終わるなら何でもする、そんな心境のナナの相槌を打つ速さは心なしか早くなっている。


当然、ナナを知り尽くしているシェリアがそんなナナの心境に気がつかない訳がなかった。


「一緒にお風呂にも入ってもらうからね!」

「うん……え?」


ナナの思考が蘇った時…既にナナの未来は確定していた。




所変わって皇居の浴場、ナナは広過ぎて落ち着かないこの場所が苦手だがシェリアはこの場所を気に入っている。


なぜなら……。


「お姉ちゃんと一緒のお風呂……控えめに言って幸せ。」

「……死にたい。」

「シェリア様…お痒いところはございませんか?」


ナナと入っても狭くないからである。

シェリアに髪を洗われているナナはシェリアの良いおもちゃになっており、その顔はお風呂の熱気と羞恥で真っ赤になっている。

入ったばかりなのにのぼせていると言われても不思議ではないほどだ。


まぁ、口では嫌がっているかのように言っているナナだが、シェリアはナナが一緒にお風呂に入ることを嫌っている訳ではないことを知っている。

ただ恥ずかしいだけだと言うことを知っているのだ。ナナが嫌っているのならシェリアは無理に一緒に入らせたりはしない。

……まぁ、ナナの恥ずかしがり方が面白いから嫌がっていても引きずって行きたいと思わないわけでもないのだけれど。


そんなことを考えてているうちにアンナがシェリアの髪を洗い終えて、体を洗い始める。

……当然、シェリアもナナの体を洗う。


「シェリア!?体は自分で洗えるって!」

「…前はそう言って髪すらまともに洗えてなかったのに?」

「うぐ……。」

「その様子だとまだちゃんと洗えないんでしょ?」

「………。」

「私が洗うからね?」

「……はい。」


ナナは全てを諦めた表情でシェリアに身を預ける。アンナはナナの体を洗うシェリアの動きの邪魔にならないようにシェリアの体を洗う。

無言の時間、ナナは体を這う布のくすぐったい感触に耐えていた。

時々耐えきれずに「ひゃっ!」と声を上げてしまうことがあったが、ある意味で極限状態ナナはそれが自分の声であることに気づいていない。

慣れたとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

そんなナナの姿にシェリアが顔を赤くしていることにナナは気づくことなく、その二人を微笑ましく見つめるアンナがシェリアの体を洗い終えたところでシェリアもナナをおもちゃにすることをやめた。


そして、湯船に浸かる3人。

「ねぇ、お姉ちゃん。」

「……なに?」

「無理…してない?」

「…え?」

ナナが驚いた表情でシェリアの顔を見る。

シェリアはナナを心配そうに見つめていた。


「……元国王、私の父上様と戦った時も大怪我して、今回もドラゴンと戦ってボロボロになった。私はそのドラゴンを見てないけど…とても強いのは知ってるんだよ?」

「…………。」

ナナはシェリアの言葉に押され、何も言うことができなかった。


「お姉ちゃんが私のために戦ってくれてることは知ってるよ、でもそのせいでお姉ちゃんがボロボロになっちゃうのは嫌だよ。」

「…シェリア。」

ナナの口からはシェリアの言葉を否定する言葉は出てこない。

…シェリアの言葉を否定することができない。


「お姉ちゃんはいつもそう…私が傷つくのは止めるのに、自分が傷つくのはなんとも思わない。」

「…それは。」

ナナがそう言った瞬間、遮るようにシェリアが口を開いた。


「お姉ちゃんはどうして戦うの?自分の為に戦うのならもっと自分を大切にしてよ!私のためだって言うならもう戦わないで!!」


それはシェリアの…心からの叫びだった。

シェリアのそばにいたアンナがナナを見つめていた。

シェリアの言葉に答えろ、このまま何も言わないつもりなのか?…言葉に出さなくてもアンナの言いたいことが伝わってきた。


ナナはシェリアの目をじっと見つめる。

シェリアの目は赤くなっていた、泣いているのだ。

その涙を見て決意が固まった自分に腹が立った。自分が流させた涙に驚いている自分に苛立った。


「幸せのためだよ。」

「……え?」

ナナの言葉にシェリアが驚いた顔をする。

アンナが黙ってナナを見つめている。


「私とシェリアの幸せのため…『僕』と『リン』の幸せのためだよ。」

「……お姉ちゃん。」


幸せ……そんな抽象的なものの為にナナは傷つきながらも戦っている。

戦い続けたその先に、本当に求めたものがあるのかもわからないというのに。


…狂っている。


アンナはナナをそう評価した。

そして、幸せのためだと言うナナの表情を見た。


「…ナナ様。」

……泣いていたのだ。

いや、涙を流しながら微笑んでいた。

アンナはナナたちの生い立ちを詳しくは知らない。ナナたちの断片的な話でしか聞いていないのだからしょうがないことだが、それでもその生活が悲惨だったことは知っている。


……ナナが求めている『幸せ』はーー。



「……ダメだよ!」

アンナの思考はシェリアの言葉で中断された。


「…ダメだよお姉ちゃん。お姉ちゃんが傷ついたら私は幸せじゃないんだよ?」

「……だとしても、私は戦う。」

「どうして戦うのよ!」


ナナは意を決して言った。


「幸せになるために。」

それ以外に、ナナはシェリアに何も言わなかった。それだけが全てだとナナはシェリアに言っているのだ。


シェリアは悲しそうにナナを見る。

ナナはシェリアに微笑む。

その目は、決して引かないとシェリアに語っていた。


シェリアは大きな溜息を吐き、アンナを見る。

「…私の負けね。」

「……よろしいのですか?」


アンナの言葉にシェリアはうなづく。

「もう決めたことだから。」

「……シェリア?」


ナナは何の話か分からずに困惑している。

「お姉ちゃん、お願いがあるの。」

「…なに?」

「本当はこんなこと頼みたくなかった…だから今説得しないといけなかったのに。…お姉ちゃんのバカ。」

「……ごめん。」

「大丈夫だよ、頑固なことも知ってるから。」


シェリアは笑顔でそう言うと、本題に入った。

「あのね、聖国が同盟を結びに来たの。」

「……え?」


物語は静かに、一歩一歩着実に進んでいる。

冗談抜きで、ご意見ご感想はいつでもお待ちしておりますのでよろしくお願いいたします。


…辛口コメでもいいのよ?

甘口コメは尚更ウェルカムよ?

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