傲慢な主人と不遜な下僕
本当は23日に投稿するはずだったのに。
時間とは無情に我々を置いていってしまうものですね、少し寂しいです。
……いや、深夜一時はまだ23日でいいですよね?
ペットになれと言われ、プライドが高いドラゴンが怒らないはずがない。
「………我にメリットが無い。」
そのはずなのだが、ドラゴンは怒りを押し殺し冷静にエレンと話をしていた。
怒っても無駄な相手だと思ったのか、エレンはやろうと思えば力づくでもペットにできるバケモノだと理解したのか。
…誰でも自分以上のバケモノと相対した時は冷静になるか諦めがつくかの二択になるものである。
「メリットならあるぞ、お前が求めている安息の地と怪我の治療、そしてお前の大事なヒヒイロカネの保護…全てこの私が叶えてやる。」
「……それでは逆にお前にメリットが無い、戦力として見ているのなら期待するなよ…我は他のドラゴンに比べて非力だ。」
傲慢だったドラゴンが正直に自身を非力と言ったのはエレンがバケモノに興味を持ったことを悟ったからだ。
「お前に戦力としての働きなど求めていない。私が欲しいのは情報だ、お前はまだ何か知っているだろう?それが欲しい。その為ならお前が望む全てを与えてやる、何が欲しい?平穏か?財宝か?」
エレンはドラゴンの目を見て話す。
それはまるで王が有能な人材を自ら招く時のような美しさとも言える傲慢さを感じた。
「なぜそうまでして我を欲すのだ。」
その問いにエレンがニヤリと笑う。
「欲しいと思うのに理由がいるのか?」
「…理由無くものを欲しがるものなのか?」
ドラゴンの放った一言でエレンは笑みを消し、天を仰いだ。
「国民のため、国のため、愛する人のため、自分の将来のため…今まで数々の大義名分を掲げて自分の利益を求める奴を見てきた。」
過去の英雄は言葉は重い、それは嘘偽りの無い事実を語っているからか…それとも彼女自身の思いが多分に含まれているからか。
「どいつもこいつも綺麗事ばかり並べて私の魔術を求める。正直に敵を焼き殺してくれと言う奴は誰一人としていなかった。」
「………。」
ドラゴンはエレンを黙って見つめている。
「ものを欲しがる理由なんて一つしかない。それは『自分のため』だ、自分の利益になるから欲しい、自分が好きだから欲しい、全て自分のためだ。結果的に誰かのためになることも少なからずあるかもしれないがな。」
「なら聞き方を変えよう、我はお前にとってどんな利益をもたらすのだ?」
ナナはこの時、ドラゴンのエレンに対する接し方が今までとまるで違うように感じた。
…それは、どこか優しさのような暖かさを感じさせるもので、既にドラゴンは『決めて』いるのだと気づいた。
「…利益か、私はそもそも利益なんて求めていない。」
「なら何を求めているんだ?」
ドラゴンの言葉にエレンは数秒口を閉じる。
…そして意を決して口を開く。
真っ直ぐにドラゴンを見据え、まるで自身に言い聞かせるようにはっきりと言葉に表す。
「『笑顔』だよ。」
「…笑顔だと?」
ドラゴンは困惑して聞き返す。
「ああそうだ、私は笑顔が欲しいんだ。虚勢でも、社交辞令でもない、気を使った嘘でもない……正真正銘の本当の笑顔だ。」
「…それは、誰の笑顔だ?」
ドラゴンの問いにエレンは恥ずかし気に笑った。
その表情はまるで年頃の少女のようだった。
…そして、それが答えだとドラゴンは悟る。
あれだけものを欲しがるのは自分のためだと言ったくせに、この小娘は本当に『他人のためだけに』我を欲したのだと。
それは、ドラゴンの決意を強固なものにするのに十分な理由だった。
「…面白い、名乗れ小娘。」
「ペットが主人の名を聞くな、私の名乗りを聞かせて頂くんだ。」
ドラゴンはエレンの傲慢さに苦笑する。
そして、傲慢な少女は偉そうに口上を述べる。
「よく聞け傲慢なドラゴン。我が名はエレン・オーケス!これからお前をこき使う主人になるものだ。」
ドラゴンは笑みを浮かべる。
「せいぜい我を扱い切ってみせろ、エレン。」
傲慢な1人と1体はお互いに笑いあった。
そこには、既に絆と呼べる何かがあるような気がした。
長い戦いが終わり、疲れ果てたナナたちにエレンが言った。
「帰るか、王国に。」
「……シェリアが待ってる。」
「全く…あの不気味な鳴き声は何だったんだよ。」
「立てるかい?ラディリエ。」
「…ネイデンさん、ありがとうございます。」
「ネイデン、あの人形って量産できるか?」
ドラゴンはこの森に残ってもらうことになった。王国にドラゴンを連れて行くとパニックになるからだ。
戦いは終わった、話にあった不気味な鳴き声の正体は分からなかったし、ドラゴンとの戦闘は両者に非があったものだが、今は皆の無事を喜ぼう。
「おいナナ、早く来ねぇと置いていくぞ!」
「…今行く。」
緋色の森が、夕日に照らされ輝いている。
綺麗だな…ナナは純粋にそう思っていた。
場所は大きく変わる。
王国でも帝国でも聖国でもないどこか。
人の形をしたバケモノは木々が生い茂る森を歩いていた。
長く白い髪はボサボサで、病的に白い肌は土で汚れている。その反面、月の光のような黄色い瞳は爛々と輝いている。
バケモノは一歩一歩ゆっくりと、ふらふらした足取りで歩く。その姿に理性は感じられない。
ただ、バケモノが発している言葉だけははっきりとした言葉で認識できる。
「……セイコク…ムカウ。」
バケモノの向かう先で何が起こるのか。
…はっきりと言ってしまおう。
良いことが起こることは決して無いと。
今回のように少し投稿が遅れることが多々ありますがご了承下さい。
……そもそもが不定期更新ですので。




