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反撃

1週間投稿が習慣になりそうで怖い携帯充電器ですが、実際1週間と言うペースが個人的に一話書き上げるのにちょうど良いのかも知れないですね。


……週刊誌かな?


「ほほう、赤色のドラゴンか。」

「俺の拳、シュビネーの剣、ラディリエの魔術…全部ダメだった。」

「…魔剣で左目は切れた。」


ゴーレムを『消した』エレンはナナたちから話を聞いていた。

そして聞かされるドラゴンの圧倒的な力。


「まぁ、実際に見て確かめようじゃないか。」


それを聞かされても、エレンは全く動じなかった。それどころか彼女はワクワクしていた。


強者と渡り合える…みたいな崇高な理由ではない。ただ単にナナたちを苦戦させる比較的珍しいトカゲを一目見てみたい。


要するに好奇心である。



「…おい、見て確かめようったってあのトカゲ野郎の居場所がわかるのかよ。」

「わかるさ。」


エレンはミルドの問いに自信満々に答えると、足元に魔術陣を展開する。


「……また詠唱無しか。」

「長々と喋ると喉が乾くだろ?」

「そういう問題ではないんだがな。」


ネイデンは呆れた顔をしてエレンを見る。

詠唱をせずに魔術を発動させる規格外の少女は常識をどこかへ忘れていったらしい。


そして、ネイデンと会話している間にも魔術陣はどんどん複雑化し、それに比例して大きくなっていく。


「どこまで大きくなるんだ。」

「脳筋は黙って待っていろ。」

エレンはなぜかミルドに対して辛辣なのだが、誰もそのことに触れないのはそれどころではないからなのだろうか。


「………。」

「……ナナはもう少し反応してくれてもいいんだぞ?」

「……大きい。」

「…まだ大きくなるぞ。」

「……すごい。」


それ以上にナナに甘いのは前世からの関係だからだろうか。それにしても台詞だけ見たら少しアレな感じに聞こえるのはなぜだろうか、全く疑問である。


それから数秒と経たないうちに魔術陣は洞窟の壁と天井すら覆ってしまう。


「……スパイダーの巣かよ。」

「ハルゲライザの抽象画にこんなものがあったような気がする。」

「……キレイ。」


三者三様の感想にエレンがニヤリと笑いながら指を鳴らす。


「お前たち、次にドラゴンと対峙した時はいつも通りに戦えばいい。」

「…それはどういう事だ?」


シュビネーの問いにエレンは答えない。

「すぐにわかる」…とでも言いたげな顔で指を鳴らす。

パチン…と甲高い音が洞窟内に響き、魔術陣が紫色に輝き洞窟内を明るく照らした。

ナナたちはその光に照らされながらある音が洞窟に響いているのが聞こえた。


低く、ゴゴゴゴと先程のゴーレムが歩いていたら鳴り響いていただろうその音はどんどん大きくなっていく。


「……これは、まさか!!」

「どうしたミルド!」


真っ先に異変に気付いたのはミルドだった。

ミルドはこの音をどこかで聞いたことがあった、かなり過去のことだったが、それでも印象深く頭の中にこびりついている出来事だった。


まだミルドが帝国最強の名を欲しいままにしていない少年期の頃、母に炭鉱で働く父の姿を見せてもらうために山に登った時のことだ。


「これは…洞窟が崩れる音だ!」



3人が驚くよりも先にエレンの魔術が発動した。





ヒヒイロカネの森の中心に存在する洞窟。

今では天井が崩れ、中にいたドラゴンが洞窟を崩して更地にしているところだった。


「もうここは不要だ…居心地は良かったが仕方がない。」


侵入者の4人は洞窟の中で眠ったままだが、洞窟の外に出ることは決してない。

この能力がある限り、決して生きて帰ることはできないのだ。


そう言ってドラゴンは両目を閉じる。

ナナに切られた左目に傷はなく、それどころか体のあちこちにあったはずの細かな傷すら消えていた。


いや、そもそも傷なんて初めからなかったのかもしれない。

ドラゴンの能力『覆隠』。同じ場所に同じ景色の異界を重ねるようにして結界を作り出す。

それは異界に侵入した者をその場に閉じ込める脱出不可能の牢獄であり、ある程度の物理法則の改変や幻覚を見せることができる。

その上、この能力の恐ろしいところは侵入者をそれぞれ任意の異界に閉じ込めることができることだ。

同じ場所にいながらバラバラに孤立させたり数人のグループに分けることもできるその自由度がこの結界の強さを引き立てる。


そしてこの能力はヒヒイロカネの森ととても相性がいい、ヒヒイロカネが能力に使用した魔力を吸収して異界を半永久的に展開し続けてくれるのだから、一度生み出した異界は侵入者が足を踏み入れるだけで侵入者を閉じ込める最凶のトラップになる。



洞窟内に結界を展開……完了。

もう洞窟の外に出ることは不可能だ。

これで、奴らの死が確定した。



そのはずだった。


「……なんだこれは。」

崩れた洞窟から紫色の光が溢れ出す。

洞窟にそんな鉱石は存在しない。

ドラゴンは警戒して、その光を瞬きせずにじっと睨みつける。


決して油断はしない、どんなことが起きようと冷静に対処するのが戦闘の鉄則。

……さあ、かかってこい下等種族供が。


紫の光は輝きをどんどん増していき、その輝きに目がくらみそうになったその瞬間。

パッと光が消えた。


「……消えた?」

予想に反し特に何も起こらなかったことに疑問を感じるドラゴンは警戒を解くことなく洞窟跡をじっと睨み続ける。



そんなドラゴンに大岩が落ちた。

「なっ!?」

ドゴッと鈍い音を立てて押しつぶしてきたドラゴンと同じくらい大きい岩石は崩れることなく転がっていく。

ドラゴンは痛みこそ感じなかったものの、どこから飛んできたかわからない大岩に警戒を移す。


こんなに大きな岩石…一体どこから。


「警戒してももう遅いぞ…ドラゴン。」

「っ!!」

警戒していなければ一手遅れていたが、警戒していたから一手早く動くことができた。

最速で振るわれたドラゴンの尾は確実に侵入者の顔を胴体から吹き飛ばしていた。


吹き飛ばしていた…はずなのに。

「手荒い歓迎だな、こっちは大岩で押しつぶそうとしただけなのに。」


無傷のピンク色の髪の少女がこちらをニヤニヤと見つめている。

その背後には洞窟に閉じ込めたはずの4人と逃げたはずの貴族。


……助け出したのか?あの貴族と小娘が?

それに…さっきの攻撃もどうやって。


「考え事をしている場合じゃないと思うぞ?」


ハッと気付いた時には一手遅れていた。

さっきまで少女の後ろにいたはずのミルドが目の前で拳を構えていた。


「喰らえトカゲ野郎!!」

「喰らうものか!」

咄嗟に拳を右手で受ける。

しかし、ミルドの拳は思った以上に重い。

物理法則を掌握した結界内じゃなくても人間の拳程度なら何ともないはずなのに。


「……クソッ!」

プライドが傷つく屈辱を感じながらも結界を展開する。

しかし、展開した結界はすぐに消えてしまう。

「…なんだこれは!?」


驚きに気を取られたドラゴンの右手を上に弾き飛ばしたミルドが一瞬でシュビネーの姿に変わる。

…いや、一瞬でミルドとシュビネーの居場所が入れ替わったのだ。


そんな芸当をしているのは…ネイデンだ。

「……すごい。」

「これだけが得意なんだ。」

「だからネイデンさんは太るんですよ。」

「…ラディリエちゃん?」


入れ替わったシュビネーはミルドに右手を弾かれて体勢を崩し、右腕から顔面までが無防備になったドラゴンに目にも止まらない速さの剣戟を放つ。


それはドラゴンに直接のダメージは無いが、確実に硬い鱗を破壊していく。


「鱗が無ければ大きいグリズリーみたいなものだ。」

「ウガァーー!!」


態勢を立て直したドラゴンが雄叫びとともにシュビネーに左手を叩きつけるが、その攻撃が当たる寸前にシュビネーはナナと入れ替わる。


あらかじめ攻撃が来る場所に鋼糸を構えたナナにドラゴンの左手が飛んでくる。

ドラゴンの左手が緩く張られた鋼糸に当たった瞬間、鋼糸がピンと張られて攻撃の勢いのみがナナに伝わり、ナナの体が宙へ飛ぶ。


そしてドラゴンの頭上まで飛んだナナは無防備なドラゴンの胴体に鋼糸を巻きつける。

「クソッ!こんな糸簡単に…切れないだと!」

「魔力を通せば毛糸だって剣を切れる…鋼糸ならもっと切れる。」


ぐぐっとナナは鋼糸を強く引く、それに応じてピキッとドラゴンの鱗にヒビが入る音が聞こえてくる。


「…やはり硬いな…よし、お前たち!準備はいいな?」

エレンの問いに頷くのはネイデンとラディリエだ、2人の足元にはすでに魔術陣が展開されている。


ミルドが守りを崩し、シュビネーが鱗を削った。そしてナナが動きを封じている。


今なら魔術がはじかれる心配はない!


「「【ヘルフレア】!!」」


球状になった超高温の炎がドラゴンに迫る。

炎がドラゴンに触れる寸前にナナがエレンたちの元まで転移した。


その時ナナが目にしたのは、炎に焼かれるドラゴンとエレンの自慢げな笑みだった。

魔力の波、隕石落とし、作戦立案、魔術知識、自由な転移……。

だんだんエレンちゃんの実力が実感できているのでは無いでしょうか。


……まだまだこんなもんじゃないかも?

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