既視感
10月になりましたね、今月も一週間に一度投稿できれば良いな。
……書ければ1週間に二話くらいは投稿したい。
ナナの動きはさっきまでとは別人のようで、あのドラゴンを翻弄していた。
「……嘘だろ?」
その姿はミルドの目から見れば違和感しかないもので、ナナの活躍を素直に喜ぶことより自分の中に生まれた疑問に思考を巡らせることを優先させた。
俺がドラゴンの攻撃を見てナナに教えるよりも、攻撃をムルことすらせずに回避行動の準備を終わらせていたナナ。
正直、ナナにそれほどの実力はない。
確かに幼少期から暗殺・戦闘技術を叩き込まれてはいるが、それでも実力はシュビネーと互角に渡り合えるくらいで、俺が普通に戦って勝てる程度の実力しかないのだ。
それなのに今のナナはどうだ?
俺が今のナナと戦って勝てるのか?
ドラゴンの左目を魔剣で突き刺したナナはドラゴンの怒りに任せた攻撃の数々をことごとく躱し、そして避けにくい攻撃は全て魔剣で受け流している。
攻撃をかすらせることすら許さない完璧な回避と攻撃の威力を完全に打ち消す技術は芸術といっても過言ではないほどに美しい。
「……これは、どこかで見たことがある?」
そして、ミルドはこの芸術に既視感を覚えていた。
左目に刺した魔剣を抜き、地面へ着地する。
ナナの体には多少の疲労感はあれど、傷による痛みは初めにもらった一撃しかない。
「グオオオオ!!」
ドラゴンが言葉にならない叫びをあげて私へ滅茶苦茶に攻撃を仕掛けてくる。
その攻撃は怒りに任せたものではあるが速さと威力は申し分なく、何より手数が多い。
だけど…やっぱり。
「……わかる。」
2手先、3手先の攻撃が描く軌跡、行くべき安全地帯、受け流すべき攻撃と避けるべき攻撃が全てわかる。
どう動くのが最善なのかがわかってしまう。
まるで次に来る攻撃を教えてもらったみたいな…不思議な感覚だった。
これなら……勝てる?
そう思った、思ってしまったんだ。
…その時だった。
「……ミルドと、小娘。」
ドラゴンが急に落ち着きを払った声で私たち2人を呼んだ。
嫌な予感しか感じなかったが、どうすればいいのかわからなかった。
ミルドも嫌な予感がしたのか私の方へ駆け寄ろうと動いた。
でも遅かった。
動こうとしたその瞬間、視界が暗転した。
ラディリエさんとシュビネーさんの声が聞こえた気がした。
でも、何も聞こえない。
聞こえたはずなのに聞こえない。
見えるはずなのに見えない。
立っているはずなのに浮かんでいる。
浮かんでいるはずなのに立っている。
「貴様らは後だ、後でじっくり殺してやる。」
そのドラゴンの声は2人に届く事はなかった。
まるで夢の中のにいるような覚束なさを感じる。
……夢の中?
浮かんだ疑問に違和感を感じながらも私はどうすることもできずに意識を手放した。
「…どこだ?」
ミルドは周囲が一面真っ赤に染まった洞窟の中に立っていた。
横には気を失っているナナ。
周囲に敵はいないが、安心はできない。
また幻の世界に閉じ込められたのか、それともここが本当の世界なのか。
…もしくは、さっきの世界もこの世界も幻なのか。
「…疑心暗鬼にしかならねぇ。」
敵も味方も信用できない敵地で右往左往させられ、掌の上で踊らさせられる。
ミルドが一番嫌いな状況がそこにあった。
「……うぅ。」
「ナナ!大丈夫か?」
うめき声をあげてナナが目を覚ます。
「ここは?」
「…わからねぇ、だがまずい状況なのは確かだな。」
2人はとりあえず周囲を警戒する。
背後には洞窟の壁、前方は奥行きがあるのか真っ暗で何も見えない。
ここが洞窟の最深部なのだろうか。
思案していると、奥からズシンと響く大きな音が聞こえた。
「……ナナ。」
「わかってる。」
『敵を警戒しろ。』と暗に伝えられる言葉を読み取る。
音はだんだん大きくなり、近づいてきているのが嫌でもわかってしまう。
そして、足音の主は姿を現した。
その巨体はミルドたちを余裕で見下し、顔らしき部分にある瞳のような穴は赤く発光している。
それは…人ではなく、生物ですらなかった。
「…ゴーレムかよ。」
「初めて見た。」
ゴーレムが私たちの姿を確認したのか、オオオン!と叫び声のような音を立てて右足で踏みつぶそうと足をあげる。
ミルドとナナが身構えたその時だ。
「……は?」
「ミルド…これは、なに?」
瞬きした時にはもう遅かった。
認識するのに数秒かかった。
……一瞬でゴーレムが消えた。
「ここにいたのか、ナナ。」
「……え?」
どうしてここにいるのか、そう言いたいのに驚きで声を出すことができないナナとミルド。
「ナナちゃん、ミルド。…助けに来たよ。」
足音の主は2人、傲慢な少女と優しげな貴族。
エレンとネイデンがそこにいた。
執筆頑張ります。




