救い
宣言の通り、約一週間後に投稿できて安心している携帯充電器です。
続きを楽しみに待っていてくださっている皆様方、いつも本当にありがとうございます。
短い文章にどれだけ時間がかかっているんだ!と思う方もいるとは思いますが、書きだめがない投稿者の性だと納得していただければ幸いです。
緋色に染まった視界はあっという間に世界を塗りつぶし、今まで見ていた景色を変えていく。
…否、本来の景色に戻っていくという表現が正しいのか。
「…結界が、森にかけられていた?」
ネイデンは信じられない事実に驚きを隠すことができない。
森にそんな結界があればそもそもこの森に入ることすらできなかったはずなのに。
その疑問に当然だと言わんばかりにエレンがうなづく。
「溶けたヒヒイロカネがその証拠だ、ヒヒイロカネは魔力を流さん限りは溶けん。逆を言魔力……つまり結界をこの場に展開すればヒヒイロカネが魔力を吸収し、結界を維持し続けてくれる。」
「……それは。」
ネイデンはエレンの言葉に戦慄する。
「それは、ヒヒイロカネがある限り結界は解けないということか!?」
「そして、そんな結界の中に術者自身が閉じこもっているとは考えにくい。」
「……つまり、偽物だと言いたいのか?」
「ああ、結界の中はある程度術者の自由がきくからな。偽物くらいなら簡単に生み出せる。」
この元に戻っているように見える景色も、ついさっき見た恐ろしいドラゴンも、全て幻の中で見た偽りの現実?
なら、ラディリエたちの危機は私が考えていた以上に絶望的ではないか?
緋色の悪夢は、まだ終わっていないのか。
…いや、既に終わってしまったのかも……。
ネイデンは想定していたよりも遥かに危機が迫っている仲間たちを思い絶望する。
……見ているもの全てが偽りの世界で一体どうすれば皆を助けられるというのだ。
助けようとしている仲間が幻影かもしれないような状況だぞ。
「だが、私が来た。」
「……エレンちゃん?」
ネイデンの絶望をかき消すように、エレンは自信に満ちた表情で宣言する。
勝気で、傲慢に、宣言するのだ。
「感謝しろ、お前たちを助けてやる。」
天井が崩壊し、空を仰げてしまうような広場になった戦場でナナたちは戦慄していた。
「……驚いた。だが、それだけだ。」
無傷のドラゴン、それに対して傷だらけの仲間と自分自身。
理解していたはずの圧倒的な力の差をまざまざと思い知らされる。
「……マジかよ。」
ミルドの呟きが戦場に虚しく響く。
驚きの言葉ではない、絶望の言葉でもない。
ただ、呆然として溢れた呟き。
「…鱗が硬すぎる。」
「私の魔術じゃ火力が足りない。」
それは伝染病のように仲間たちへ不安や恐れとして伝播していくのをナナは感じた。
この流れはマズイ……私が断ち切らないと!
ダッ と痛む身体を無理に動かしてドラゴンへ駆け出す。
「っ!ナナちゃん!!」
「1人でなんて無茶だ!」
ラディリエさんとシュビネーさんの声が聞こえるが、あの2人はもう動ける体でも精神力でもない。
でも……。
ドラゴンが私を迎え撃とうと右手を構える。
私はそれを無視してまっすぐ駆ける。
右手が私に振り下ろされる。
目の前が、暗くなっていく。
ドガッ!!と凄まじい轟音を立てる。
「……なに?」
しかしドラゴンが期待していた感触がない。
ドラゴンは不思議そうに眉をひそめる。
「無茶しすぎだ。」
「……期待してた。」
ドラゴンが振り下ろした右手を左手で受け止めたミルドを見て笑みがこぼれる。
「走れっ!壁は全部ぶっ壊す!」
「期待してる!」
ドラゴンの右手の甲に飛び乗り、腕を伝って距離を詰める。
「小癪なっ!!」
ドラゴンは右手を振り回そうとするが。
「……な、クソッ!!」
「良い橋になってくれよ、トカゲ野郎。」
ミルドがドラゴンの右手を左腕で押さえつける。
「……さすが。」
それを見たシュビネーとラディリエは2人の共闘に息を飲んでいた。
4人で狩りをする時よりも動きがいいのではないかと思わずにはいられないのだ。
「ミルドの奴、ナナちゃんの動きを読んで…。」
「…2人とも、お互いを信じあってる?」
そして、それを許さない怪物が一体。
「……この、下等種族どもがあぁぁ!!」
ドラゴンが動かない右手の代わりに左手でナナを潰そうとする。
…しかし、それはお見通しだ。
「……ミルド!」
「わかってる!」
ミルドがドラゴンの右手を蹴り上げる!
硬い鱗に覆われたドラゴンの右手にダメージは無い。
しかし、動かないと決めつけていた右手にドラゴンは力を込めていなかったため、右手は簡単に蹴り飛ばされた。
……振り下ろされたドラゴンの左手に。
「なんだと!?」
空中でドラゴンの右手と左手が衝突。
その隙にナナはドラゴンの左手に飛び移る。
その右手にはグランディルダガーが淡い光を放ちながらドラゴンの顔を刃に写している。
……狙うは。
「…ドラゴンの瞳。」
集中力を研ぎ澄ます、全てはシェリアと私の幸せのため、このドラゴンは狩らなければならない。
敵対するものには容赦しない。
魔獣も、魔物も、人間であっても。
幸せのためなら切り捨てられる。
「っ!?後ろだナナ!」
ミルドの焦った声が聞こえる。
……でも。
「…知ってる。」
ドラゴンの左腕からジャンプ、先ほどよりも長くなったドラゴンの尻尾での攻撃を躱す。
「……!?」
ドラゴンの静かな驚きを気にすることなく、尻尾をジャンプ台にしてドラゴンの右目に急接近!
慌ててドラゴンが右手でナナを払い落とそうとするが、まるで知っていたかのようにその右手を魔剣で受け、その衝撃を推進力に変えてドラゴンの左目に到達する。
そして……。
「…もらった。」
ザクッ とドラゴンの瞳に魔剣が突き刺さった。
さぁ、続きをどうしようか。




