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うわさばなし

不定期更新のデメリットは難産の時に思い切った投稿ができなくなることですね。

王国の繁華街、エレンは店主を徹底的に尋問していた。

「それで、その帝国最強は見つかったのか?」

「……それがね?どこかに行ったみたいでね。」

店主はさも残念そうに話すが、エレンは店主の顔に隠された『笑顔』を見逃さない。


「…知ってるんだろ?どこに行ったのか。」

「………ご名答。」

店主の顔がこれ以上にないほどに悔しさで歪む。

「どこに行ったんだ?」

「…気になるの?」

「……ああ。」

エレンは事実を隠しながら正直に話す。

気になるのはミルドではない。

ミルドについて行ったであろうナナだ。

エレンはナナの魔力反応がある地点で途切れたことに気づき、慌てて皇室中を探し回ったが…ミルドと魔物狩りに出かけたと聞いて不審に思ったのだ。


王国でミルドが出なくてはならないほどの魔物が出現したと言う話を聞いていなかったからだ。


その為、シェリア達と茶会を開きながら詳しく話を聞こうとしたが、あいにくあまり情報を集めることはできず。

仕方なく出店を回るついでに情報を集めようと思ったら…運良く情報屋を捕まえることができたのだ。


「……森よ。」

「…森?」

店主は愉快そうに話す。

「そう、かの有名なヒヒイロカネの森。」

「……あんなところに魔物が出るのか?」

「……あら、知ってたの?」

「…何をだ?」

エレンは店主の言葉に違和感を覚えた。

ミルドが魔物狩りに出かけるのは別に秘密というわけではない。

それなのに……何を『知っている』のに驚いたのか。

……魔物が出ない?

店主の愉快そうな笑顔にイラつきを覚える。


「あの森に魔物は出ない。それなのに彼らは魔物狩りにヒヒイロカネの森へ行った。……それっておかしな話だと思わない?」


その瞬間、エレンの姿が消えた。

店主はそれを見て椅子から立ち上がる。

動きを封じる魔術はしっかり切られていた。

「……はぁ、心臓に悪いわ。」


店主は左ポケットから四つ折りにされた紙を取り出し、開く。


『帝国最強の危機、他4名の居場所特定求む。』

そこに書かれていたのは彼女に来た依頼の内容だった。

誰から送られてきたのかはわからないが、なかなかの依頼料が同封されていたので無視することもできなかったが…それにしても危険すぎる依頼だったと店主はため息をつく。


「まあ、予告してくれただけ良しとしますか。」


店主の目が手紙の下に行く。


『尚、情報受取人はピンク髪のバケモノ。』


店主は笑みを浮かべながらパチンと指を鳴らす。その瞬間、彼女が用意していた出店はギギギ、と音を鳴らしながら小さくなる。

まったく、依頼人も依頼人だが受取人は『規格外』だと店主は先ほどのピンク髪の化け物がいた所を見つめる。


自慢だった変装魔術を一目で見破られ、王国騎士団も顔を青くするスピードで繰り出される的確な尋問術に詠唱無しで発動させる転移魔術。

これを規格外と言わずしてなんというか。


手のひらに乗るサイズになった店を右のポケットに仕舞いながら、彼女は繁華街を出るべく歩く。


「………?」

しかし、店主の歩みはとある違和感によって中断された。

……右のポケットが重い?

小さくなった出店は大きさに比例して軽くなる筈だが…何故かやけに重たい。


店主は小さくなった出店を取り出そうとポケットに手を入れる。

…ジャラ、と聞こえるはずのない音が聞こえる。


音の原因を取り出す。


「………ハハハ、ご丁寧なことで。」


そこにあったのは、大量の金貨。

いつ入れられたのかすらわからないそれは、店主に喜びと恐怖与える前に店主を呆れさせてしまう。


「……金貨なんてどこで使えばいいのよ。」


価値が高すぎる報酬はただの荷物にしかならない。




店主が去った繁華街は依然として賑わっている。


エレンは気づいていない。繁華街という大人数が一本の道に集まるこの場所で人が一瞬にして姿を変えることに誰も注目しなかった事実を。


エレンは知らない。店主が得意なのは変装魔術のみではなく、ただの『変装』であることを。


エレンは気にも留めない。どうして自分が彼女に注目したのかを。


「家に帰ったらお姉様に文句の手紙を書かないとね。」

頭に被った白髪のウィッグを外し、本来の金髪が姿を見せる。

その行為すら誰も注目することはない。


彼女にとって情報屋という仕事は天職だ。

誰にも気付かれずに様々な場所に出入りし、街中で堂々と情報を売ることができる。


しかし、彼女はある人物からの依頼しか受けない。

彼女の人生はその人物の為にあるのだ。

その人に憧れ、姿をマネて、生き方をマネて、技術をマネて、考え方をマネた。

姿をマネることを許してもらうのに2年。

技術をマネることを許してもらい、獲得するのに7年…これに至ってはまだまだ完全に修得できてるとは言えない。


そして、お姉さま…なんて呼ぶことを許してもらうのに8年、次は何を許してもらおうか。

「……一緒に暮らすこと?それとも本当の家族にしてもらう?………いやいや、せっかく呼び方を変えてもらったのに攻め方を間違えたら全部おじゃんになるわ…ここは敢えてハードルを下げてみるのもアリね。」


店主のつぶやきは耳に入っても気付かれない。

『無意識』の内に消えていく。

ナナよ、早く森を抜けてくれ(切実)

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