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立ち向かう決意

ヒヒイロカネの森編長いですね。


トカゲ野郎…と呼ばれたドラゴンは、ギラギラと輝く瞳をさらに輝かせてミルドを睨みつける。

身体中に目もあやな真紅の鱗を纏い、その体と同じくらい長い尾は苛立ちを隠す気がないのかバシッバシッと地面を揺らすほど強く叩いている。


「トカゲ野郎…だと?下等種族の分際で我を罵るか!」

「ハッ!姿を現さずに今までコソコソと俺らを覗き見してた奴なんざトカゲ野郎で十分だろうがよ!」


その言葉は当然ながら忌諱に触れたようで、ドラゴンは言葉にならない咆哮を放ちこちらに明確な怒りを示す。

その咆哮は空気を揺らして私の体にしたたかな衝撃を与える。


ーーーなんて生易しいものではなく。


ドラゴンの咆哮は洞窟内の空間に歪みを生じさせ、それによって生じた膨大な力の奔流がビキビキと恐ろしい音を立てる空間の歪みと共に私たちへ迫ってきた。


「ナナ ん!ラ リエを て や げ ろ!」

「シュ おま も 場合 !」

シュビネーとミルドが焦ったように叫ぶが、この状況で声なぞまともに聞こえるはずもなく、焦った顔をした皆とともに私は圧倒的な力に為すすべもなく吹き飛ばされた。


どれほどの間気絶していたのか、眩しい光で目を覚ましたナナは軽い頭痛に顔をしかめながら体を起こす。

…洞窟にいたのに眩しい光?

ナナは違和感を覚えて天を見上げた。

そこには緋色の岩でできた天井など存在せず、雲ひとつない青空と少し傾きかけた太陽があった。


…場所が変わったのではない、先ほどの咆哮が洞窟の壁と天井を跡形もなく吹き飛ばしたのだ。


「…つまらん。」


重く響く声にはっとして振り返る。

そこには目立つ傷はないものの、倒れ伏して動かない仲間たち。

そして、未だ動くことなくただ冷たい目でこちらを見下す紅いドラゴンがいた。


「ただの1つの咆哮にすら対抗できぬとは…まあ、意外ではない。やはり下等種族は下等種族であったというだけだ。」


その声には洞窟内にいた時の傲慢など存在せず、ただただ事実を述べただけのような無機質さすら感じた。

……いや、あのドラゴンにとっては実際に事実なのだろう。

私たちはドラゴンの咆哮1つで吹き飛んでしまうような下等種族であり、あのドラゴンの敵にすらならないような弱者なんだ。


だからこそ、戦闘ですらないからこそ『つまらん』なんて言葉が出てくるのだ。


…私たちは敵ではない、ドラゴンの玩具なんだ。

その上、玩具としての役割すら満足に果たすことができていないようだ。


そこには、気付きたくもないような現実があった。


「……きついなあ。」


魔物狩りをする予定だったのに、逆にこっちが狩られる…いや、吹き飛ばされる?側になってしまうなんて。こんなことになるならもっとシェリア達とお菓子でも食べていればよかったな。

心は既に抵抗することすら考えていなかった。


「おいおい、こんな程度かよトカゲ野郎。」

「……なんだと?」


しかし、抵抗どころか挑発をかます声がひとつ。その声の主が誰かなどとと考えるまでもない、ミルドだ。


彼はよろめきながらもしっかりと立ち上がる。

それに続き、シュビネーさんとラディリエさんが同じく立ち上がった。


「俺はまだ肉体強化魔法を使ってねぇ、それでも大した怪我を負ってねぇってことはその程度の威力しか無いってことだろ?」

「…まあ、結構離れていたがそういうことだな。」


2人に恐れや不安の感情がないなんてことは無い、ただの強がりであると言ってしまえばそれも事実なのだろう。


しかし、そんな2人の姿に勇気をもらった人がいることもまた事実だ。


「…下等種族が、我の土地に侵入してきただけでは飽き足らず…我を二度も侮辱するとは!」


ドラゴンが何のためにヒヒイロカネの森に居たのかは知らない、ヒヒイロカネの森がドラゴンの土地なのかどうかも知らない。


しかし、ドラゴンが王国に敵意があることは確かだ!


…どんな理由があろうと、敵は倒さなければならない。


「…私が気絶している間にすごいことになってるけど、まさかドラゴンがいたとは予想外だったわ。」


ラディリエさんが少しふらつきながらミルド達と共にドラゴンと対峙する。

ナナは3人の元に並び、武器を構える。


魔剣グランディルダガーと、鋼糸。

あの空間を抜けた時に回収できたのだ。

ドラゴンが敵である状況は想定していないので不安は残るが、ないよりはマシだろうと思う。


「やる気満々だな、ナナ。」

「どんな理由があろうと、国の近くにある森の中に魔物であるドラゴンが居ていいなんてことは無い。ナナちゃん、一緒に頑張ろう。」

「怪我だけはしないでね、私も全力でサポートしてあげるから。」


「…わかった。」


皆が各々の武器を構える。

ミルドが拳を握り、シュビネーさんが剣を構え、ラディリエさんが腕と同じくらいの長さがあるロッドを構える。


「…キサマら、今誰に向かって武器を握っているのかをちゃんと理解しているのか?」

「おう、今時珍しい紅いトカゲだ。」


ドラゴンの言葉にミルドが応える。

その挑発は、ドラゴンがミルドに対して明確な敵意を抱く理由にしては十分だった。


「…おい赤ひげの猿、名前は?」

「……ミルド様だ!赤トカゲ。」


ドラゴンはミルドをギラリと睨み、バシバシと尾を地面に叩きつける。


「…ミルド、お前だけは死体すら残せぬほど壮絶な殺し方をしてやると約束する。」

「やってみろ!そんな殺し方を知っているならな!」


ドゴッ!!


ドラゴンが一段と強く尾で地面を叩きつける。

その音に反応したのかは知らないが、その音と共にシュビネーさんがドラゴンに向かって一直線に走り出す。

それに続き、ミルドと私もドラゴンに向かってシュビネーさんを軸に左右に分かれ走る。


こうすれば敵の注意を3つに分断できる。



敵の力は圧倒的だ、一撃でもくらえば致命傷になる可能性が大きい。

それに攻撃を当てたとしても紅く光る堅牢な鱗を突破できるかは怪しい。


…だとしても!!

このドラゴンがシェリアの国の敵だと言うならば!

絶対に勝たなければならない!


私の決意に応えるように、グランディルダガーがフワッと淡く光った。

本来存在しないストーリーなのになぜこんなに長いのか……携帯充電器の七不思議です。

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