悪夢は覚めず
久々の連日投稿です
さて、ナナ達がヒヒイロカネの森に向かっていた頃のこと。
「あっ!このマフィンおいしい!」
「ふふ…自信作。」
シェリアとニルティはお茶会の延長戦に入っていた。
ニルティの作ってきたお菓子がまだまだ余っていたのが最大の理由だが、そもそもシェリア達が食べる甘味の量が多すぎるのも原因の1つではある。
以前アンナから肥りますよと言われたことなんて覚えていない。
……覚えていない、はずだ。
そんな『女子会』に乱入するのは同じ女子。
「おお、シェリアと……ニルティか。」
「あ、エレンちゃん!どうしてここに?」
「…こんにちは。」
ではなく女子(仮)のエレンである。
皇室の中で他の部屋と少しとは言え離れているシェリアの自室に向かう理由はただ1つ。
それはもちろんお菓子。
「いや、ナナを見なかったか?てっきりここにいると思っていたんだが……。」
ではなくナナ探しである。
エレンはよく皇室を出てどこかへフラフラと行ってはいつのまにか帰ってくることが多く、こんなスレ違いは珍しくない。
「お姉ちゃんならミルドさんと魔物狩りに行ったよ。」
「…そうか、どこに行ったかはわからないか?」
「えぇ…そこまでは聞いてないよ。」
「そうだよなぁ。」
エレンは残念そうにつぶやき、テーブルの上にあるお菓子に目を向けた。
「…美味しそうだな。」
「……食べます?」
ニルティがマフィンを差し出す。
3人のお茶会の再開である。
「はぁ、はぁ……また、戻ってきた。」
ナナは未だに森の中を彷徨っていた。
しかし、やはり最後にはテントのある場所に戻される。
早朝だった森はすでに太陽からの光を真上から浴びていた。
…体力はもう限界だ。
「……うあっ!?」
爪先に何かがぶつかって転んでしまう。
……地面から木の根が隆起したように盛り上がって出ていた。
そして、転んだ拍子に懐からシュビネーに渡された御守りの人形が飛び出た。
ナナが懐にしまっていた人形は小さく、そこまで邪魔にならないので、ナナ自身も飛び出すまで気づかなかったのだ。
ナナは御守りを拾おうと手を伸ばす。
しかし…。
手はなぜか人形をすり抜けて空を切った。
「………なんで。」
ナナは何度も人形を拾おうと、掴もうと手を伸ばすが、何度もやっても人形に触れることができない。
「…何で掴めないの?」
ナナは試しに自分の体に触れる。
…自分の体は大丈夫。
そしてクマの人形に手を伸ばし、すり抜ける。
…人形には触れられない。
ナナはふと森の木に手を伸ばす。
手は木をすり抜けることなく、触れることができた。
「……人形だけ?」
この人形だけが何故か触れられない。
「…仕方がない。」
ナナはここで時間をかけすぎることを恐れ、人形を拾うのを諦めた。
そして、ナナはまた森の中を歩き出した。
しかし、歩いても必ずテントに戻される。
ナナはまた2つのテントを視界に収めることになった。
だが、今回は今までとは違う。
今回はこのテントに戻るために歩いたのだ。
「……このテントは、触れられるの?」
ミルド達が居ないのか確かめた時は触れることができたテントだが、それは人形を懐に入れていた時のように、『その時』だけかもしれない。
つまり、今まで触れていたものが急に触れることができなくなるかもしれないのだ。
ならば、触れられるものと触れられないものの違いや共通点を探り、この現象の謎を解くのが一番の目標だ。
ナナは自分の武器に触れる。
……まだ、武器はつかめる。
ナナは、テントに向かって歩き出した。
「……居ねえ。」
日が昇って目を覚ましたミルドは突然いなくなった仲間たちを探していた。
「ナナも、シュビネーも、ネイデンも、ラディリエさんも居ねえ。」
テントを出て、周囲の確認をする。
「ナナの鋼糸はちゃんとある、なのに俺以外の全員が消えた?」
ミルドは何の気なしにナナの鋼糸に手を伸ばす。
ミルドの手は鋼糸をすり抜けて空を切った。
「……は?」
ミルドは確認するように何度も鋼糸に向かって手を出す。
手は何度も鋼糸をすり抜け、虚しく空を切る。
「……どういうことだ?」
その頃、ミルドとナナを含む全員が同じ状況に陥っていた。
「……ネイデン!ラディ!ミルドさん!ナナちゃん!どこにいるんだ!」
あるものは仲間の名を叫び。
「……何なんだこれは!ナナちゃんの鋼糸も、落としたハンカチにも触れられないぞ!」
またあるものは状況に当惑する。
「………魔力の流れに異常は無い。周囲の魔力も落ち着いている……そして、人の魔力反応は『私だけ』?」
いくら原因を探ろうとしても、わからない。
分からない、解らない、判らない。
討伐対象の魔物による攻撃?
この森特有の自然現象?
森に住む妖精や魔物の攻撃、もしくは悪戯?
他国の人間による侵略に巻き込まれた?
この中に正解があるのか、それとも別の原因なのかすらわからない。
ヒヒイロカネの森は本格的に彼らを悪夢に招きよせていく。




