緋色の悪夢
最近投稿ペースがカタツムリのように遅くてすいません。
少しばかり実生活が忙しいもので…リア充ですいません。(彼女がいないからリア充では無いというのは間違った学説)
さあ、忙しい時間の中で執筆した作品をどうぞ!
眠りについていたナナはなんとも言えない違和感で目を覚ました。
まるで利き手に小さな小石を乗せられた後すぐに取り上げられるのを繰り返されたような違和感、それはナナの眠りを妨げるには十分すぎるほどの異常だった。
しかし、目を覚ましても辺りはまだ暗い。
手探りで異変の正体を見つけなければならない。
…と思っていたのに。
「……うそ、まだ朝には早いはずなのに。」
テントの中は森から降り注ぐまばゆい光に照らされていた、テントの中ですらこの明るさだ、森は一体どれだけ眩しいのか。
ナナはテントから出ようと寝袋から抜け出す。
そして、自身に降りかかった第1の異変に気がついた。
「……鋼糸が無い。」
寝る前に森の周囲を張り巡らせ、自身の手でしっかりと握っていた鋼糸が無くなっていた。
……何者かに盗られたのか、それともなんらかの原因で消失したのか?
ナナは先ほどよりも急ぎめに身支度を済ませ、テントから出ようとする。
そして、第2の異変に気付く。
「……ラディリエさん?」
ナナと同じテントにいたラディリエさんの気配がなかったのだ。
ナナは恐る恐るラディリエさんが使っていた寝袋に触れて体温を確認する。
中にラディリエさんはいない、そして寝袋は冷たかった。
つまり……ラディリエさんはナナが起きるかなり前にこのテントから出ていたことになる。
「私を起こさずに何処へ…?」
ナナはそこまで考えて重大な間違いに気がついた。
『私を起こさずに』ではないのだ。
外敵にいち早く気がつくために眠りを浅くしていたナナに『気づかれずに』テントから出たのが異常なのだ。
同じテント内で物音立てずにナナのすぐ横を通ってテントから抜け出すなんてことが可能なのか?
そもそもそんなことをしてまでテントから出て何をしたかったのか?
「…トイレは…無いか。」
いくら恥ずかしいからといってそんなことに全力で物音を消して気配を消すのは賢いラディリエさんらしくない。
それに、そもそもラディリエさんにそんな技術は無いだろう。彼女は魔術に関してはエキスパートだが、近接戦闘や奇襲の技術は素人だ。
何者かに攫われたと考えた方が自然だ。
しかし、なぜそれを真っ先に考えなかったのか。
それは、簡単なことである。
それを認めてしまうと『ナナに気づかれずにラディリエさんを攫うことができる敵』の存在を認めてしまうことになるからだ。
……まぁ、どちらにせよテントの中にいても良いことはないか。
ナナは周囲を警戒しながらテントを出る。
右手にはグランディルダガー、左手には3本の長針を構えている。
もしもの時のため、腰には短剣を3本隠している。完全に臨戦態勢だ。
「…鋼糸がないのは痛い。」
しかし、万全とは言えない。
防御兼カウンター、そして範囲攻撃すら可能とする鋼糸を奪われた今、ナナの戦闘力は大幅に下げられたと言ってもいい。
テントから出たナナが最初に行ったのが森に仕掛けた鋼糸の有無を確認したのは必然だと言える。
しかしながら…いや、当然と言えば当然だが鋼糸は存在しなかった。
「…仕方ない。」
ナナは鋼糸を早々に諦めてミルド達が使っていたテントの確認をしに行く。
未練がましく鋼糸に執着するのはどうしようもなく愚かな行為だ。
そして、ナナが一番恐れていたことが現実だとわかってしまった。
「…居ない。」
ミルドもシュビネー伯爵もネイデンさんもいなくなっていたのだ。
ラディリエさんと同じように、3人が使っていたであろう寝袋は冷たかった。
そこから想像できるのは、3人はほぼ同じタイミングで姿を消したのか、かなり早い時間に姿を消していったのかだが…どちらにせよ姿を消した理由がわからない。
…それに。
「……なぜ私以外なの?」
なぜナナだけを残して姿を消したのか。
「…人質…は考えにくい。」
人質を取るにしてはその人質が強すぎるし、そもそも捕まえる数が多すぎる。
それにミルドを捕まえることができる実力があるなら人質を取る必要なんて無い。
その上ナナだけを残したのも意味がわからない、ミルドより戦闘力は低く、シュビネー伯爵よりも権力がない、ネイデンさんよりも人脈は狭い、ラディリエさんよりも魔術は使えない。
……ナナを残す必要が無いのだ。
「…とりあえず、みんなを探そう。」
ナナは混乱する思考を制する為に当面の目標を掲げる。
意味不明な状況に陥った時、簡単な目標を掲げることは無用な混乱を防ぐことができる。
若干の思考停止とも言えるが、何の行動も取れないよりはマシだと言える。
ナナは周囲を警戒しながら1人で森の中を歩していく。
この状況を生み出した原因は必ず森の中にある。なら、解決策も森の中にあるはずだ。
ナナはそう信じて疑わなかった。
「…大丈夫。」
その言葉は、誰に向けられたものなのか。
自分自身か、それとも皆の無事を信じたものか。
ナナは周囲に油断なく注意しながら森の中を歩いていく。
最初はテントの周囲、半径10メートルほどのエリアだ。テントからあまり離れると迷ってしまうと判断したためだ。
しかし、森に詳しくないナナに森の中での異変や違和感を見つけるのは至難の技だ。
ましてやここは普通の森ですらない、そんな中での原因探しはナナにとって間違いしかない間違い探しをしているのとなんら変わりはなかった。
そして、ナナの最大にして最悪の敵が1つ。
「……また、テントに戻った。」
いくら注意しても、どんなに離れるように歩いても5分ほど歩けば必ずテントのある開けたエリアに戻されることだ。
間違い探しすら満足にさせてくれない。
「……どうすればいいの?」
その声には、疑問や恐怖の他に絶望も混じっていた。
緋色の森が生み出す悪夢は、未だ序章に過ぎない。
この作品は閑話達を含んだらちょうど80話目になります。
……おめでとうナナちゃん、作者はまだまだ君を困らせる気満々だよ。




