兄の独白
新作が難産の末誕生しました。
ハッピーバースデー新作、はじめまして新作。
僕らの生活は主観と客観、どちらから見ても凄絶だろう。赤子の頃に両親に捨てられ、それを高名な魔導師だったという爺さんに拾われた……らしい。
そんな赤ん坊の頃は当然覚えてないから爺さんから聞いたことでしか知らないが…嘘をつくようなことでもないから真実だろう。
それから僕と妹は10歳まで爺さんと生活した。
山の奥での質素な生活ではあったが自由で幸せだった。
しかし、そんな自由は長く続かなかった。
ある日を境に爺さんが急に帰ってこなくなったのだ。最初は山で迷ったのではないかと思い、妹と一緒に周囲を探し回ったりしたが、爺さんの足跡一つ見つからなかった。その日の晩は妹が泣きじゃくって眠れなかった上に、僕もつられて枕を濡らしてしまった。
地獄はここから始まった。
僕ら兄妹は双子で、同じ10歳前後(正確には判らない)であり筋力も無く、山で生活する経験も浅い。
そんな山生活ド素人の2人による生活が何年続くと思う?いや、『年』も続かないだろう。
ただ、僕ら2人は不幸ではあったが神から見捨てられてはいなかった。
爺さんの備蓄で食料が少なからず存在したのだ。それに家の隣には小さいが畑があり、野菜を育てれば子供2人程度なら賄える収穫が期待できる。生活は厳しいものだったが、不可能ではなかった。(可能ではあるが2度としたくない生活だ、オススメはしない。)
では問題だ、この自給自足の生活を僕らはどれほど続けることができたと思う?
食料は日に日に少なくなり、途中から狩りをしなければいけない危険な生活。妹が家での家事に苦戦し、僕が家の外での力仕事に失敗しながらも我武者羅に挑んでいく暮らし。
……正解は、2年続いた。
これを短いと考えるか、長いと考えるかは僕らにとってはどうでもいい。ここで語るべきは何故2年で生活が終わったのかであり、山での僕と獣たちの織りなす生死をかけたバトルロワイヤルは語る必要なく、妹が料理と四苦八苦している姿を公開する必要もない。
(妹の料理の腕は上達するスピードが遅かった、裁縫はとても上手だったのに。)
僕らの山での生活は、心優しい山の麓の村の方々による救済によって終わった。
……なんて都合のいい事は起きず。
山籠りの修行で腹を空かせた心根が優しいおじさんが僕らを拾ってくれたことにより終わった。
……なんて心温まるストーリーでもなく。
突然やって来たボロボロの山賊によって妹と一緒に仲良く殺されたことにより終わった。
……残念だがこれが真実だ。
朝ごはんを妹と一緒に数少ない塩を分け合って使いながら、小さくて少し生焼けなベーコンエッグを食べた後、庭の野菜に水をやりに行こうとした時だった。
突然、家のボロい扉を乱暴に開けたボロボロだけど筋肉質でガタイの良いおっさん達が僕らを殺したのだ。
突然のことで訳がわからなかった。
抵抗することを考える暇もなく僕は腹を剣で貫かれ、それを見て泣き叫んでいる妹も僕の目の前で殺された。妹の死に様は考えたくもない僕のトラウマだ。
ここでこの話について詳しく語ることは僕の都合だが割愛させていただく。
あっけない、本当にあっという間の最期だ。
走馬灯すら見えることなく死んだのは妹も同じだろうか。
まぁ走馬灯が見えたところで、いい思い出が見えるのは爺さんと過ごした10年のうち、物心ついてからの4、5年くらいだから一瞬にも満たないだろう。
(自分で言うのもおかしいが、ヤケクソで大笑いできるかもしれない程度には哀れな人生だと思う。)
殺されてからの「僕」の記憶は存在しない。
「僕」はとうに死んだのだ。今いる「僕」は「私」であり、「僕」ではない。まどろっこしい?それは仕方がないが、わかりやすく説明するならば「転生」なるものをして生まれ変わったと言うのが一番だろうか。
理由はわからない、知っても理解できるかわからないが「僕」は転生して、「私」になった。
そうなのだ、今世では女の子になってしまった。生まれ変わっても男のままでいられる事は出来なかったのだ。僕としては男の生活に慣れていたので男のままが良かったのに…。それに男であることに少なからずプライドがあったことも否定しない。妹が苦戦する力仕事は全て引き受け、「ありがとう。」と妹に言って貰う事が、前世での生きがいであったくらいだ。
それが、今世ではこのざまである。
(そもそもお礼を言ってくれる妹がいないことは突っ込まないでほしい。今は現実逃避したいだけだ。)
まぁ、女になったからと言って何か不自由があるかと言われると言葉に詰まるのも事実で、男と少し生活する上での注意点が変わるくらいだろう。
つまり慣れの問題だ、私はもうこの体で5年過ごしており、既に女としての生活には慣れて来ている。
……一人称に違和感を感じなくなっている程度に。
閑話休題、転生して女になった私は新しい生活を歩むことになる。
「おい007番、何ぼーっとしてんだ。食事だ。」
「………はい。」
……奴隷として。
ご承知の通りこちらも不定期更新です。
期待せずにご期待ください。