ヒヒイロカネの森
最近投稿できなくて申し訳ない。
このお話はプロット(作者の予定)に無いので即興で書いてるのです。
正直言ってかなりキツイ。
ラディリエさんが回復し、ようやく森の中に入った私たちは早速森からの嫌がらせを受けていた。
「…本当に進んでいるのか?」
「……分からん。」
「おいシュビネー、これ…グルグル回っているだけじゃないか?」
そう、迷ったのだ。
…では、ここで冒険者の基本的な森林探索の基本を皆さんに覚えてもらおう。
1、無闇に歩き回らないこと。
これは基本中の基本で、もはや常識だ。
地図も土地勘もないやつがてきとうに歩き回るのは自殺行為である、何か目印をつけながら歩かないと入って3秒で遭難だ。
というか遭難するために森に入ってるようなものだ。
そこで2、木に目印をつける。
森の中で一番目にするのは木である。
その木の見分けがつかないことから遭難は始まるといってもいい、そこで木にわかりやすい目印をつけることで自分が通ったところを明確にするのだ。
手っ取り早いのは木に傷をつけることだ、例えば名前のイニシャルとか。
…で、これこそが私たちが迷った原因でもある。
「…まさか木に傷が付かないとは。」
「シュビネーの剣で傷が付かない木なんて聞いたことがない。」
「……本当に木?」
なんと目印が付かないのだ。
私たちは木に傷をつけて森に入ろうとしたのだが、シュビネー伯爵の振った剣が弾かれてしまったのである。
その後、私の鋼糸で切りつけても傷は付かなかった。
……やっぱり木じゃないのかも?
それから、仕方なしに歩きまわったが魔物に会うことすらなく、とうとうどこにいるのかわからないと言う最悪の状況に陥った。
「…すみません、いつもならロープを持ってきているんですが…今日はシュビネーさんがいたので。」
「いやいやラディリエちゃん、謝る事はないよ。木に傷をつけられないシュビネーが悪い。」
「おいネイデン、ミルドさんも枝を折れないらしい……どうする?」
ミルドがいるところを見てみると、枝を掴んで格闘していた。
「…ミルドさん、どうですか?」
「見てわかるだろ…曲がりもしねえ。」
ミルドが枝から手を離してお手上げだと肩をすくめる。
しかし、ミルドが掴んでいた見てシュビネー伯爵が青ざめる。
「……枝に手形がついてる。」
枝はミルドが掴んでいたところが少し窪んでいたが折れるほどではなかった。
しかし、剣で傷1つつかない固すぎる木を凹ませる怪力に言葉を失う一行。
「……これ、目印にできない?」
私のこの一言で遭難から抜け出した。
森を少し歩き、ミルドが手近な枝を握って手形をつける。
「…ミルド、疲れない?」
「問題ねえ、魔力も全然使わねえしな。」
この硬い木を凹ませる作業を大したことがないと言える怪力…やはりミルドである。
…木を折れないのが不思議なくらいだ。
「しかし…魔物の声なんて全然聞こえないですね。」
「酒場の奴は本当にこの近くで聞いたのか?」
ラディリエさんとネイデンさんが疑問に思うのも仕方がない、この森に入る前から獣の声1つ聞こえないのだ。
酒場で獣の声を聞いたと言う客は森に入ってもいないだろうに。
「獣が移動したのか?」
「獣は縄張り意識が強いやつが多い、それに話を聞いてから一週間も経ってないだろ?群れで大陸を移動するクラール鹿でも1キロ動かねえよ。」
シュビネー伯爵の予想をミルドがキッパリと否定する。
…変な知識が豊富なミルドはこう言う時に役立つ、それが意外と頼りになるからムカつく。
そして、1匹の動物にすら会う事なく森を歩き回って数時間。
「……日が暮れてきたな。」
シュビネー伯爵は疲れた顔でつぶやく。
たとえ獣に会わなくても、森では常に警戒しなければならない。
それは戦闘時よりも精神的な負荷が強くかかる。
この場にいる皆はかなり疲弊していた。
「…今日はここで野営しようか。」
ネイデンさんの声は疲れで弱々しく聞こえる。
「……そうしましょう。」
ラディリエさんが同意して荷物を下ろす。
疲れ切った5人での野営が始まった。
皆が持ってきたのは2つのテントのみだ、テントは男性用と女性用である、紳士の気遣いだ。
しかし、獣除けの炎が無い。
火は夜の見張り役の体温低下を防ぐ目的もあって非常に大切だ、だから薪は必要なのだが。
「…薪は基本的に現地調達だからな。」
「木が切れない森だとは思ってなかった。」
シュビネー伯爵とネイデンさんも薪が無いことに気づいたらしく苦笑いを浮かべる。
「…ていうか燃えるんですかね…この木。」
「……そもそも燃えない可能性があるね。」
ラディリエさんのツッコミにネイデンさんが賛同する。
もはや誰もこの木を木と見なしていない。
しかし…野営か、それなら策はある。
「野営はわたしがやる。」
「え?ナナちゃん、野営は基本交代制よ?」
私は野営地の周囲にある木に鋼糸を張り巡らせる。
…いわゆる糸の柵である。
「…これで足止めできる、それに音で私が起きる。」
「…任せていいのか?」
シュビネー伯爵の質問にうなづく、伊達に先生からの地獄のような修行を受けていない。
「…そうか、ならナナちゃんに任せよう。」
シュビネー伯爵が笑顔でそう言ってくれる。
信頼してくれているのだろう、素直に嬉しい。
「ありがとうナナちゃん、私は夜の見張りが苦手なんだよ。」
しかしネイデンさんはもう少し頑張ってほしい、感謝してくれるのは嬉しいけど。
その後、暗い森の中でラディリエさんの魔術で生み出した光を頼りに食事を済ませてテントに入る。
食事はあんまり美味しくない携帯食料だ。
…そもそも味がしないと言うなんとも言えない不味さがある。
テントに入り、テントの入り口近くのところに寝袋を用意して潜る。
森に張り巡らせた鋼糸をしっかりと両手で持つ。
皆の安全は私にかかっている、しっかりと鋼糸の動きを感じ取らないといけない。
眠っていても微かな音に気づくことができるように眠りは浅く、しかし明日のために疲れをしっかりと取る。
これは訓練しなければできない睡眠法だ、冒険者でもなかなかできる者がいないから皆夜の番を置く。
「おやすみ、ナナちゃん。」
「…おやすみなさい。」
ラディリエさんと挨拶をして瞳を閉じる。
こう言う時の起床時間は日が昇ってすぐが基本である。
そして今回もそうだ、森の中は朝でも暗いため夜中だけ周囲を警戒するだけでは危ない。
だから周囲の景色を覆うテントの中にいる時間は短い方がいい。
むしろ普段よりも早く起きて良いくらいだ。
まあ、それでは疲れが取れないから一長一短ではあるけれど。
そんなくだらないことを考えながら、私の意識はどんどん薄れていく。
ちなみに、私はこの瞬間が一番好きだったりする。
寝起きの微睡みや、眠くなってとこに着いた瞬間の浅い眠りが一番寝ている実感があるのだ。
……そもそもちゃんと眠らせてくれない環境にいたからだろうか。
今のところ鋼糸に異常は無い、まだ動物は周囲にいないのか。
この森はどこかおかしい、いくら動物が人間に近づかないと言っても限度がある。
…明日は、魔物を見つけられたらいいな。
そんなことを考えながら、私はゆっくりと眠った。
ナナ達はまだ、この森の真実の一端にすら触れていないことに気づいていない。
なんでこんな舞台を考えたんだろう。
……もう強引に本編とくっつけるしか無いか。




