緊張感
最近投稿頻度が減少気味です。
……新作の作成に手間取っているのです。
そろそろこっちに力を入れたい。
王位継承記念パーティーは無事に終了し、ニルティさんと言うシェリアの友達がたまに遊びに来るようになった。
何でも、ニルティさんの実家は国王の秘書を務めていたこともある大貴族らしく、キールズ王子達も知っているらしい。
今では私とシェリアとニルティさんの3人でお菓子を食べる仲である。
特にニルティさんの作るマカロンが絶品なのだ。
私とシェリアがマカロンを食べて悶絶したのを笑われた記憶は墓場まで持っていくつもりでいる。
「……それで?」
「…ごめんなさい。」
そんな3人のお茶会が長引いてミルドと定期的にやっている魔物狩りに1時間ほど遅刻したのは完全に私が悪い。
「…まあまあ、良いじゃないかミルド。別にギルドの依頼って訳でもないし。」
「…いや、それでも1時間は無えだろ?」
「シュビネーの言う通りだ。そもそも趣味の範囲なんだろう?それに付き合ってくれてるナナちゃんの事情を理解してあげるのも紳士の役目だ。」
「……俺に味方はいねぇのか!!」
そして、そんな私の弁護をしてくれているのが今回の魔物狩りに参加したいと申し出たシュビネー伯爵とネイデンさんである。
なんと王位継承記念パーティーではかなりぎこちない雰囲気を醸し出していたミルドとシュビネー伯爵があれから謎の意気投合してしまったらしく、シュビネー伯爵がミルドに直々に今回の魔物狩りに参加させてほしいと願い出たと言う。
そして、むさ苦しい男3人から少し距離をとって私のことを見つめている女性が1人。
彼女が私の元にゆっくりと歩いてくる。
「…1時間遅刻とは、随分と楽しんできたんですね。」
「……ごめんなさい。」
「ふふ、大丈夫ですよ。私はシュビネーさんを晩御飯に誘って行かなかったことがあります。」
「……。」
そんな罪深い告白をしたのはギルド職員のラディリエさんである。
彼女とは王位継承記念パーティーが終わった次の日に会いに行った。
……出会って早々に熱いビンタを食らったのは私の中では良い思い出だ。
そう、ラディリエさんも今回の魔物狩りに参加する。
『兄である』シュビネー伯爵に誘われたと言う言葉を聞いた時は驚愕した。
「おいラディリエ…まさかわざとだったなんてことはないよな?」
「……さあ、何のことかさっぱり分かりませんわ。」
…そう、ラディリエさんはシュビネー伯爵の妹なのだ、全然似ていないけど妹なのだ。
職務上敬語を使っているしラディリエさんは実家から離れて一人暮らしをしているのでギルドでもラディリエさんが貴族の娘ということを知っている人は少ない。
…それでもギルド職員と貴族の関係にしては少し親しげだとは思っていたけど…まさか兄妹だとは思いもしなかった。
そんなちょっと特殊な5人で向かう狩場は、王国の外に広がる立派な大森林。
その名も『ヒヒイロカネの森』である。
ミルドが最近通っている酒場の客が、この森の近くでおぞましい獣の声を聞いたらしい。
「この森は鉱山が近くにある訳でもないのに希少鉱石であるヒヒイロカネが手に入ことで有名な森だった。」
道中でシュビネー伯爵が森の説明をする。
こう言う知識の共有はとても大切なことだ、私は真剣に話に耳を傾ける。
徒歩での移動なので時間はたっぷりある、というか話をじっくり聴くために徒歩を選択したと言っても良い。
「…ヒヒイロカネがとれる、本当にヒヒイロカネがあったのか?」
「ああ、本当にヒヒイロカネが存在した。」
ミルドがその返答に驚く、ネイデンさんとラディリエさんは知っているらしいので子の授業は私とミルド2人のために行っている。
……こういう話は好きなのでありがたい。
「……どれくらいあったの?」
「そうだね…国同士で奪い合うくらいかな。」
「少ないってことか?」
国同士で奪い合うくらいしか存在しないならそこまで多くないと考えるべきか、それとも国が動くほど多いと考えるのが正解か。
しかし、シュビネー伯爵の返答はそのどちらでもなかった。
「いやいや、国家予算数十年分のヒヒイロカネが存在した『その森』を国が奪い合ったんだよ。」
「…マジかよ。」
……それは本当に森なんだろうか。
驚きで言葉を失った私たちを見てラディリエさんとネイデンさんが笑った。
…少し恥ずかしい。
「ならその森は今どこが持ってるんだ?」
「…気になる。」
その質問は想定済みらしく、すぐにシュビネー伯爵は答えた。
「正解は、誰も持っていない。」
何でも、森を奪い合った王国と帝国と聖国の三国はなぜか途中で戦争をパッタリと止めてしまったらしい。
そのおかげでヒヒイロカネの森は誰でも入ることが許され、勝手に鉱石を採掘することが許されている。
「…まあ、誰も採掘に行かないけどね。」
「そりゃそうだろ、ヒヒイロカネなんて希少鉱石は鍛冶屋でも必要としねえよ。」
「そうだね、加工できるのは国が雇うほどの一流鍛冶師くらいだろう。そもそも並のピッケルじゃその採掘も不可能だ。」
「…文字通り歯が立たない?」
「ナナちゃん…そう言うのが好きなの?」
私の洒落はシュビネー伯爵を困惑させるレベルらしい。
「…ダジャレを言うナナちゃん…可愛いわ。」
「ラディリエちゃん…君は変わらないな。」
そんな3人の後ろをついてきているラディリエさんの発言にネイデンさんが呆れていた。
…多少の事故(被害者は私の心)はあったが、特に戦闘もなく森にたどり着いた。
その森は、森そのものが緋色に輝いていた。
夕日に照らされている訳ではない、森そのものが緋色なのだ。
葉も、幹も、地面も緋く光っている、それはもはや自然が生み出したようには見えない異質さを私たちに与えていた。
「……これ、本当に森なのか?」
ミルドの驚愕に染まった声に応えるものはいない。
「シュビネー…これは。」
「ああ、想像をはるかに超えていた。」
「シュビネーさん、中に入ってみましょう。」
「いやラディリエ、少し待ってくれ。中に入る前に見せたいものがある。」
シュビネー伯爵が肩にかけていたカバンから5つの布製の人形を取り出す。
大きさは掌に収まるほどの、小さくて可愛らしいクマの人形だ。
「…シュビネー伯爵?」
ラディリエさんがクマの人形を持ったシュビネー伯爵に困惑する。
まあ、これから魔物狩りをする男が手にするものじゃないのは確かである。
……可愛いけど。
その疑念はシュビネー伯爵にも伝わったらしく、シュビネー伯爵は慌てて弁解する。
「誤解しないでくれ、これは魔術を仕込んだ魔術媒体だ。」
「魔術媒体?」
ラディリエさんが不思議そうにつぶやきながらその人形をまじまじと見つめる。
「ああ、7秒間これを見つめ続けたやつに襲いかかるんだ。」
「えぇ!?ちょっと待って!!」
じっと見つめていたラディリエさんが慌てて人形から目を離し、距離を取ろうとして後ろに下がるが。
「うひゃあ!?」
…慌てすぎていたのか、足をもつれさせて思い切り転んでしまう。
「アハハ!冗談だよ冗談!これはただのお守りだよ、以前旅行に行った時に買ったんだ。」
「……もうっ!中で襲われても知りませんよ!」
「シュビネー…私も騙されたよ。」
涙目のラディリエさんと呆れた顔をしたネイデンさん。それを見て楽しそうに笑うシュビネー伯爵。
「…俺も騙されたぞ。」
「……私も。」
その会話についていけていない私たち2人。
…全く緊張感がないのはどうかと思うが、悪いことじゃないと思う。全くないのはちょっとまずいかもしれないけど。
でも、森の中に入る前はこれくらいでちょうどいいと思う。
「よし、そろそろ中に入るか!」
シュビネー伯爵から人形を受け取り、ようやく森に入れるのかと思いながらも、ここからが本番だと気持ちを引き締め直す。
……しかし。
「……シュビネーさん。」
「…ん?どうしたラディリエ。」
その質問に恥ずかしそうな顔でラディリエさんが答える。
彼女はなぜか未だに地面から立ち上がっていない。
「………さっきので腰が抜けて。」
「……30分休憩しようか。」
訂正しよう。
…森に入る前でもこの緊張感のなさはさすがにまずいと思う。
新作に出すキャラ募集をしようか考え中です。
詳細はいつか出す活動報告で。




