パーティ
投稿遅れた理由はありません。
休みたいから休んだんです。(正直)
王国は、今までにない程の熱気に包まれていた。
「シェリア様!手を振ってください!」
「きゃー!キールズ王子よ!」
「キールズ王子がこちらを見て微笑んだわ!」
「カレン王女!好きだー!」
「いやお前…そっから言っても分からないだろ」
今日はシェリアが王女になってから始めて行われる貴族の立食パーティー。
そしてシェリア自身もこのような大人数の集まりに参加したことはないらしいので、人生初の立食パーティーでもある。
そんな人生初の立食パーティーでこれだけの熱い声援を送られるとは…さすが王族と言って良いのか?
ちなみに私はミルドと一緒にパーティー会場である皇室の大広間を堂々と歩き回り料理を堪能している。
「おお!この魚料理は絶品だな!」
「……でも…辛い。」
「ナナお前…スイーツばかり皿に乗せて…。」
「…美味しい。」
ご存知の通り、帝国での甘味ショックによりナナは超が付く程の甘党である。
ナナの皿には小さなショートケーキから砂糖をふんだんに使用したドーナツまで、様々なスイーツがこれでもかと乗せられている。
「……最高。」
「お前のレアな幸せに満ちた笑顔がこんなところで見られるとは…世も末だな。」
ミルドの呆れた顔に少し嫉妬が混じっていたことをナナは知る由もない。
…今までのアプローチが一皿の甘味達に負けた男のなんとも言えないショックなんて、知って得することでは無いだろうし。
「……まぁ、良いか。」
「…何言ってるの?」
しかしミルドは幸せそうなナナを見て満足げに笑う、彼は甘味に嫉妬して拗ねるような小さな男では無い。
ミルドはナナが幸せならそれで良いのである。
「……シェリアお嬢様がパーティーに出席するのは少し心配でしたが、大丈夫そうですね。」
「男性恐怖症などミルドと行動できている時点で既に克服しておるだろう、あとはシェリアの『心の余裕』だけだったんだろう。」
ミルド達が会場を歩いているのと同じように、アンナとエレンも立食パーティーに参加していた。
2人に共通点を見つけるのは難しいように思えるが、共通点は存在する。
2人とも『シェリアの保護者』である。
当然ながら2人の会話の内容を占める中心はシェリアのことであり、そこで彼女達は意気投合できる。
多少教育方針などでぶつかることはあるが、2人とも同じくらいシェリアを愛しているのだ。
2人は初めてのパーティーに戸惑うシェリアの姿を陰ながら見つめ、応援している。直接助けに入らないのは今後のシェリアのためだと2人は判断し、パーティーにさりげなく参加する形でもしもの事態に備えている。
……例えば、暗殺などの襲撃とか。
「……エレンさん、8の32で緑。」
「…了解だ。」
エレンはそう言ったあとすぐに小さく指を鳴らす。
その音は誰にも聞こえないほどに小さな音だったが、それで良い。
…それで全て解決した。
この会場にいるパーティー参加者は誰も気づかないが、この瞬間にシェリアの暗殺は失敗した。
……誰も気づかない。
この瞬間に1人の男がこの会場から消えたことに誰も気づかない。
「……さすがです。」
「お前に気づかれる時点で失敗だ。」
アンナと術者のエレン以外と言う例外を除いて。
2人のしたことは言葉にすれば簡単だが、実際に行うことはほぼ不可能だ。
2人のしたこと、それは『怪しい奴を会場から別のところに追い出す。』それだけだ。
……どうだろう?単純だけど難しいの意味がわかっただろうか。
これを行うにはアンナとエレンの両者が居ないと成立しない。アンナだけだと発見することはできても騒ぎを起こさずに追い出すことはできない、エレン1人では怪しい奴全員を追い出して会場の人間が何人減るか分からない。
そう、これはアンナの能力が必須なのだ。
アンナの『人の意識と無意識を操る』才能、彼女はこの力で集団の『調和』と『不和』を操り、仲間割れや潜入を行う。
そして今回は『集団の調和』を利用した。
暗殺者や襲撃者はそもそもパーティー参加者ではないことは周知の事実だろう。
パーティー参加者を装うことはあるが、他の人と違いパーティーに参加することが目的ではない。
…つまり集団から離れた目的がある人間だ。
それは集団の調和に外れる人間であり、アンナからすれば違和感の塊なのだ。
これが元国王がアンナをシェリアの護衛に当てた最大の理由である。
『暗殺者を正確に見抜くことができる能力』
妻と瓜二つで唯一の娘を守る人物で彼女ほどの逸材は存在しない。
鉄壁の防御力を誇るミルド。
幼いながらも帝国の詰所を単独で壊滅させる戦闘力を誇るナナ。
他の追随を許さない魔術の才を持つエレン。
この3人ですらアンナに気づかれずに何かを行うことは不可能である。
……現にパーティーを開催する少し前、エレンが食堂でつまみ食いをしようとしたのをアンナに気づかれている。
ここで重要なのは、『徹底的に認識阻害魔法を自身に掛け、透明化の魔術を施した不可視状態のエレン』をアンナは『捕まえた』ことだ。
…エレンの魔術の力はお分かりだろう。
エレンはその魔術でアンナを圧倒したこともある。しかし、『人の意識』が絡んだ瞬間にアンナはその力関係を逆転させるのだ。
……ちなみに、食堂の一件はエレン自身もかなり驚いたらしく、珍しくエレンが「ひゅいっ!?」と可愛らしい声をあげたことはアンナとエレンの秘密である。
「意外と見つけるのに時間がかかったな。」
「ことを起こそうとする寸前までは『お客様』ですので。」
「…毒を持ち込んでいる時点で『敵』だろうに。」
エレンとアンナはお互いの実力を理解した上で話す、エレンはアンナが暗殺者の発見に時間をかけたことに対して責めているわけでは無い、ただ単に食堂の一件での辱めを根に持って少し挑発しているだけだ。
「……まあ良い、輩はあの男だけか?」
「いえ、2の14に赤です。」
「…それを早く言え。」
「先ほどまでは『お客様』ですので。」
アンナの言葉を無視して指を鳴らすエレン。
ちなみに、最初の数字はテーブルの番号、次の数字が暗殺者の持っている皿の底に刻んでいる魔術陣の番号、色は敵の行おうとしている行動だ。
赤は物理的な攻撃、青が魔術的な攻撃、緑が毒殺である。
……ちなみに、ピンクがハニートラップである。エレンが「それはないだろ!」と突っ込んだことは想像に難く無い。
「あっ…5の6にピンク。」
「はあっ!?」
「…嘘です。」
「お前…。」
エレンがアンナを恨めしそうに見るが、アンナはどこ吹く風。
「しかも5の6って…私じゃないか。」
「……エレンさんのエッチ?」
「……お前を飛ばすぞ?」
「あっ、3の8に青。」
「不意打ちをするな貴様!!」
確認すると本当にシェリアへ魔術を放とうとしている男がおり、慌ててエレンがそれを飛ばす。
一瞬で姿を消した男を確認して安堵するエレンはアンナを睨む。
「さすがですわ、エレン様。」
「……いつか覚えてろよ?」
2人の仕事はあと少しだけ続く。
シェリアは、現在兄姉と共にパーティー会場で貴族の大人たちと話していた。
「…では、国王は自殺…ということになるのですかな?」
「その通りだ、しかし問題ないだろ?」
キールズ王子の自信満々な態度に貴族たちは圧され、誰も反論できない。
年齢など、この場において関係ない。
シェリアはそんな場面を見て、少しだけ気持ちが重くなる。
これが『権力』なのだと、シェリアは改めて自身がこれから持つ力を再認識させられたのだ。
「…カレンお姉様。」
「……何かしら?」
「……少しだけ席を離れてよろしいですか?少し風に当たりたくて。」
「…そうね、良いわよ。パーティー会場は少し暑いわ、休むことを覚えるのも大切よ。」
そう言ったカレン王女はシェリアに手を振った。
シェリアは一礼して席を離れる。
夜風当たりに行く…と言うのは嘘だ。
本当はあの場所から離れたかっただけ、どこに行くかなんて決めていない。
フラフラと会場内を適当に歩き回る。
「……シュリエちゃん?」
「…え?」
そして出会った。
懐かしいあの子に。
学園で唯一楽しく会話できた友達。
遊びに行くって言ったのに、行けなかった。
「……ニルティ。」
シェリアと同じ金髪に桃色の瞳を輝かせて彼女は笑った。
「…お久しぶりね、シュリエ。」
これからも不定期で休みます。
完結はするから許して…。




