兄・姉
最近投稿頻度が下がってきている携帯充電器です。
新作の投稿が始まるとさらに下がるかもしれない。
まずい傾向かな?
キールズ王子とカレン王女の協力もあってか、王位継承は意外とすんなり受け入れられた。
私を見てとても驚いていたシュビネー伯爵が賛成派に動いて王国騎士団を強く説得してくれたことも大きいだろう。
…これで、シェリアは正式に王女となった。
しかし、私たちの生活はあまり変わらない。
ちょっと生活の拠点が変わっただけなのだ、私たちに複雑な政治を行えるほどの腕や知識は無いので、国政はもっぱらキールズ王子とカレン王女にほぼ丸投げ状態である。
まぁ、多少手伝いはする。最終決定権はシェリアが持っているし、シェリアだって政治に関して無知というわけでは無いのだ。
ちなみに、ミルドは最近王国騎士団や近衛騎士団と一緒に訓練所で戯れている。
エレンは何やらカレン王女と魔術についての話をしているらしい、メイドがカレン王女の部屋に入っているエレンを見たと言っていた。
……本当に魔術関連の話をしに行っているのかはわからないが、私はそう信じている。
「…終わったね、お姉ちゃん。」
「……うん、これで…居場所ができた。」
シェリアと私は新しく作られた玉座の間で2人きり、シェリアが強請ってミルドに買わせたソファで寛いでいる。
ここの窓から見える満月はとても美しくて、私のお気に入りの場所になっている。
王国の乗っ取り(正確には王位継承だから少し語弊がある。)は成功した。
……皇室と言う私たちの居場所ができた。
なら私は、次に何をすればいいのだろうか。
自由になる為には何をすればいい?
幸せになるためには何をすればいい?
……ダメだ、王国を手に入れた今は軽い燃え尽き症候群になっているのかもしれない。
こう言う時は少し休むことも大切だ。
私はソファから立ち上がる。
「……お姉ちゃん?」
「…お風呂、そろそろ入る。」
「なら私も入る!」
「……うん。」
…もう慣れてしまった私が居る。
その頃、皇室の庭にて2人の男女が豪華なベンチに並んで座っていた。
「……なぁ、カレン。」
「どうしたの、キールズお兄様?」
その2人は、元王子と元王女。
彼らは2人きりの時だとフランクに会話する。同じ国王の養子として拾われたと言う稀有な境遇ゆえに通じ合うものがあり、お互いの信頼は厚いのだ。
そんな2人だが、現在はシェリアの代理で政治に携わる宰相の役割を担っている。
そして、王女の宰相2人が真夜中に密会を開く理由だが。
「…シェリア、帰ってきたな。」
「……ええ、喜ばしいことね。」
「………しかしだな。」
「……?」
それはシェリアのことでもアンナのことでもなく、帝国最強と名高く、現在は王国騎士団を軽くいじめるのが楽しみのミルドのことでも無い。
「あのナナちゃんとエレンさんって何者なんだ?」
素性が一切不明の少女2人のことである。
ちなみに、ナナとエレンはほぼ同い年であるのにもかかわらず『ちゃん』・『さん』と違う呼ばれ方をしているのは一重にキールズ王子の独断と偏見によるものである。
「……シェリア、ナナちゃんのこと『お姉ちゃん』って呼んでたわね。」
「……訳がわからん。」
「エレンちゃんは普通にエレンちゃんって呼んでるのに……何故お姉ちゃん?」
そこで、キールズ王子があることを思い出した。
「そう言えば…僕がシェリアの奴、ナナちゃんのことを『お兄ちゃん』って呼んだことがあったような……。」
「……聞き間違いじゃ無いの?」
しかし、キールズ王子の脳内には玉座の間の前で足止めをした際にシェリアがナナとミルドへ放った一言が正確に記憶されている。
『ミルドさん!お兄ちゃん!ここは大丈夫だがら……信じて!』
「いや…たしかに言った、シェリアはナナちゃんのことをお兄ちゃんって呼んだぞ。」
「……ますます訳がわからなくなってきたわ。」
カレン王女はキールズ王子の記憶力を知っているがゆえに困惑する。
2人のナナに対する好感度は決して低く無い、むしろ好いている方だろう。シェリアがとても懐いており、ナナ個人も2人に敬意を持って対応しているのだ。好感を持たない理由がない。
まぁ、エレンの自信満々な不遜極まる態度も2人に気に入られているのでナナが特別と言うわけではないが。
「……アンナに聞くしかないかな〜。」
「…教えてもらえるか?あのアンナだぞ?」
「…………無理かな〜。」
このやり取りで2人のアンナに対する評価がわかる。
「直に会って聞くのが手っ取り早いんだけどね、デリケートな内容だったりした時が怖いわ。」
「…そうなんだよな、父上を自爆に追いやったのはナナらしい…あの歳で王国騎士団長と互角に戦える父上を圧倒した実力、ナナの過去は『地雷』と考えて良い。」
そう、2人が真夜中に密会をしている理由。
それは主にナナの過去にある。
2人はナナとエレンについての情報が圧倒的に少ない、ならば聞けばいいと思うのだが。
年齢と戦闘技術が一致していない人間の過去ほど聞き難いものはないのだ。
ギルドでもそう言った人間のことは『訳あり』と称してギルド職員にむやみやたらと過去について聞き出そうとしないように注意喚起を促しているように。そう言った人間の『地雷』は踏まないに限る。
しかし!それでもやはり!
「シェリアの、お兄ちゃん呼びが気になる!」
「そこだけはどうしても知りたい!」
義理とは言え兄と姉、見知らぬ人間が不可侵とも言える『親族の領域』に踏み込んできたらやはり意識してしまうもので。
「……アンナがダメなら…ミルドさんは?」
「…あの人に情報が入っているかが重要ね、持ってなかったら逆に嗅ぎ回っているのがバレるわ。」
「情報を持っている確率は…正直低いか。」
「ミルドさんはそう言うのに疎いイメージがあるのは賛成…聞かない方が安全だと思う。」
「…エレンさんはどうだ?」
「……わからないわ、そもそもあの人こそ謎の塊よ。正直ナナちゃんよりも謎が多い。」
「…謎しかないよエレンさん。」
来週にはシェリアの王位継承記念パーティーがあると言うのに、こんな真夜中に密会を開くほどにはシェリアの兄、姉としての意識はあるのである。
そんな2人を影から見つめる一つの影。
「……キールズ王子とカレン王女、真剣に悩まれてますね。」
……アンナである。
彼女は2人の悩みのタネを知っていながら教えようとはしていない、それどころかそれを見て楽しんでいるのだ。
2人のアンナに対する評価は正しかったと言えるが、もうすこし下方修正を入れるべきとも言える。
「……ここでシェリアお嬢様のレズ疑惑を加えてみるともっと盛り上がるかしら?」
…いや、ぜひ下方修正を入れるべきだろう。
皇室の夜は長い、満月が沈むのはまだまだ先である。




