一件落着?
新作を考えると今作が疎かに……。
ナナが眠り、ミルドが火傷で悶絶しているところにいち早く駆けつけたのはアンナだった。
キールズ王子とカレン王女を縛り上げてシェリアの様子を確認した時に爆発があったらしく、すぐに駆けつけてきた。
玉座の間の外まで爆発の範囲が広がっているのでは、と言うミルド達の心配は杞憂だったらしい。
……それとも、国王はわざと爆発の範囲を玉座の間までに限定したのかもしれないが、今となってはそれを知ることはできない。
そして現在、アンナはミルドの火傷の応急処置をしている。回復魔術を使えるエレンを待っている間の気休めではあるが、やらないよりはマシだ。
……のはずなのだが。
「イテッ!おいアンナもう少し優し…イデデッ!!」
「あらすみません、手が滑ってしまって。」
「おまっ!!絶対わざとだろ!」
「……。」
その言葉にアンナは返答するなく行動で示す。
「イデデデデ!!!」
「あらあら男性は我慢強い方が好感が持てますよ?」
「うるせぇ!」
まぁ、一応気休めにはなっているのだろう。
その後、帰ってこないエレンを気絶から回復したナナとシェリアと共に探し回り、のんびりとシェリアの部屋でくつろいでいるエレンを皆で白い目で見たのは余談である。
「そうか…国王は自爆か。」
「すまねぇエレン、あれは防げなかった。」
「……ごめんなさい。」
謝る2人をエレンは止める。
「いや、悪いのは私だ。狂った人間が何をするかなど容易に想像できた、私が注意を促すべきだった。」
それより、エレンは話をそらす。
2人に余計な責任感を負わせないようにする彼女なりの配慮だ。
「王子と王女が2人とも捕獲できた方が収穫だ、旗頭になりうる2人がいないから敵が対抗勢力を生み出しにくくなる。」
「エレンさん、2人の安全は保証していただけるのですよね?」
アンナがすかさずエレンに確認を取る。
エレンは当然とばかりに頷く。
「ああ、義理とはいえシェリアの家族だ。国王のことは残念だが、私は極力王族2人の安全を守る方針で今後の予定を立てている。」
だから、とエレンはニヤリとアンナを見る。
「無理して2人を隠そうとするな、バレバレだぞ?」
「……やはり、そうでしたか。」
アンナがそう言うと、アンナの背後に縄を解かれたキールズ王子とカレン王女がフッと現れる。
「なっ!?アンナお前!!」
ミルドがあんなに詰め寄ろうとすると、シェリアが前に立ちふさがる。
…どうやら、アンナとシェリアの2人で王族を解放したようだ。
まぁ、予想はできたことだけど。
「…エレンちゃん、さっきの話は本当だよね?」
「シェリア、私は嘘をつかないよ。」
エレンの言葉にシェリアは微笑む。
「……はぁ、何が何やらって感じよ。」
カレン王女は疲れ切った様子でそう呟く、話によるとシェリアから手痛い反撃を食らったらしいが、それでこれだけの余裕があるのは彼女もやはり血は繋がっていなくとも王族の子なのだろう。
そんな彼女とは違い、キールズ王子は黙ってエレンを見つめている。
彼は一体何を考えているのだろうか。
「さて2人とも、これからお前達にはシェリアの王位継承を認めてもらわねばならないが、それについては分かっているのか?」
「…問題ないわ、そもそも正当な王位継承権はシェリアにしか無いし。」
「……そうか。」
「そもそも私はシェリアがいなくても王位継承権は2位だし、もともと王女になんて興味なかったし。」
カレン王女はそういったきり口を開かなかった。まあ、彼女のは協力してくれるらしいが…問題はさっきからずっと黙っているキールズ王子だ。
……さっきからエレンを睨むように見ている。
しかし次の瞬間、キールズ王子がエレンの方へと歩き出した。
「……エレンさん、ですか。」
「そうだが、どうしたのかな?キールズ王子。」
キールズ王子がエレンの正面に立つ。
皆はそれを静かに見つめる、キールズ王子の行動次第で状況が動く。
キールズ王子はエレンの目をじっと見つめている。
エレンはそれを楽しそうに見ている、彼女に当事者意識はないようだ。
「エレンさん……10年…いや、5年でいい。5年待ってくれないか?」
「……何の話だ?」
エレンが不思議そうにキールズ王子をみる。
キールズ王子は真剣な顔でとんでもないことを言った。
「5年後、僕と婚約してくれ!!」
「……はぁ!?」
その驚きの声は、一体誰のものなのか?
一つだけ言えるのは。
「……断る。」
エレンの声ではないと言うことだけだ。
これから、一体どうなってしまうのか。
私は似たようなことを思い出し、ミルドをジト目で見ながら頭を抱える。
この世界の男は『先生』以外にまともな奴がいないのか?
……『先生』、幸せに生きるにはもう少し努力が必要そうです。
「5年じゃダメなのか、ならば3年でどうだ?」
「…年数の問題ではない。」
「金なら余るほどあるぞ!」
「金の問題ではない、お前の問題だ。」
「……フェロモンか?」
「そうだ。」
いやいやいやいや、アンタ何言ってんだ?
「……フェロモンか。」
「私を堕とすならもっと色気を身につけて出直してこい。」
「…チャンスをくれるのか?」
「時間なら余るほどあるぞ?」
「……ははは、男気でも負けてしまうか。僕もまだまだだな。」
…何やら、通じ合うものがあるらしいが。
「…シェリアの件に関して僕に異議はない、国王の心の問題は僕も頭を悩ませていたが…今回の件でもうそれの無くなってしまった。」
「……それに関しては本当に申し訳なく思っている。本来なら圧倒して無力化するだけで終わらせるはずだったんだが。」
「………いや、気にしなくていい。これに関しては事故で処理できる、『狂瀾の王が魔法実験の失敗で死亡、その報道を聞きつけた王位継承権1位のシュリエ王女が慌てて旅行から帰還、無事に王位を継ぐ。』これでいいだろ?」
「……そんな簡単にできるのか?」
ミルドの質問にキールズ王子は何事もなく答える。
「歴史の改変は王家の得意技だ、魔術より正確にできるさ。」
どうやら、王族の裏は思ったよりもスゴイらしい。
「それじゃあ、僕たちの安全は確保されたしシュリエとネリアナも帰ってきたし、病んだ国王もいなくなったし。ようやく自由にできるな!」
「あとは帰ってきたメイド達とパーティでも開こうかしら、私はリリネルの卵サラダが食べたいわ。」
「おいおい、今日くらいダイエットのことは考えなくていいだろ?」
「うるさいわよ!」
……うん、本当にたくましいと思う。
「……お二人様、本日の料理は『シェリアお嬢様』の従者である私『アンナ』が担当いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。」
「………なるほど、そっちで行くのか。」
「…ええ、よろしくねアンナ。」
「よ、よろしくお願いします!お兄様、お姉様。」
「…ああ、よろしくな!シェリア。」
「よろしくねシェリア、良かったら部屋に来ない?お父様ったら、私からシェリアを遠ざけようと必死だったのよね。」
「…そうだったのですか?」
でもそのたくましさは、シェリアをちゃんと受け入れられる心の広さでもあるのだろう。
「…カレンはシェリアを穢すだろうってね?」
「……え?」
「まあまあ、部屋に来たらわかるわ。」
「…あの、ちょっと心配なんですけど。」
……何やら不穏な雰囲気があの2人から感じる。
「……大丈夫よ、痛いのは最初だけ。」
「痛いんですか!?」
「すぐに気にしなくなるわよ。」
「はぐらかさないでくださいよ!」
……シェリアがカレン王女にあれよあれよと連れて行かれるのを、私は黙って見ているしかなかった。
私の隣にいるキールズ王子は、私を見てため息をついた。
「……止めなかったのはいい判断だ。」
「…カレン王女、怖い。」
「……あいつはたまにメイドを自分の部屋に連れ込んでる。何をしているのかは知らん。」
……何それ怖い。
「……アンナは?」
「カレンが言ってたよ、『ネリアナだけは捕まえようとしたら消えちゃう』ってな。」
どうやら、アンナは皇室でも無敵だったらしい。
……私は今後どうなるのだろうか。
これからの色々なことについて考えると、本当に憂鬱になってくる。
私は改めてため息をついた。
頑張ります




