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告白

ナナのデレ回ですね。


あぁ……尊い

時は少し遡り、エレンが近衛騎士団達と戦闘していた時。

「……う…ぉ。」

「『安心しろ、殺しはしない。』」

身体のいたるところに切り傷をつけられた国王は、瀕死の状態だったが致命傷は上手に避けられていたためかろうじて意識があった。

…むしろ気絶して死なないよう上手に先生が攻撃したと言うべきか。


どちらにせよ、既に勝敗は決した。

玉座の間の結界が消える。

「…マリア、すまない。」

国王が虚空へつぶやきを漏らすと、震える足で立ち上がり先生の方へ向く。


その瞳には、どこか決意めいた輝きがあった。

「『何をするのかは知らないが、もうアンタに勝ち目はない。その傷…もう立つのがやっとだろ?』」

「……そうだな、今すぐにでも横になって楽になりたいよ。」

「『なのにどうして立ち上がる?』」

「…約束をした。」

国王の言葉に先生は何も言わず、続きを促す。

「私はマリアに『勝つ』と約束した。私は今までにマリアとの約束を破ったことは無い、一度も…ただの一度も彼女との約束を破った事など無い!」

そこには、虚ろな表情をした狂瀾のなどいなかった。

決意に満ち溢れた夫がただ1人、約束を果たすために立っていた。


「……今までも、そしてこれからも私は彼女との約束は必ず果たす。」


国王の膨大な魔力が、彼の右手に集まり凝縮される。

そしてその魔力とは別に左手で右手の魔力の塊に術式を刻む。


魔力を基盤とした純粋な魔術陣、紙や布という媒体を使わない純度の高い魔力のみの魔術陣。

「『……お前、死ぬ気か?』」

「…お前たちに『勝つ』ことができるなら、マリアとの約束を果たすことができるなら私の命など安いものよ。」


そういった彼は、笑顔で最期の言葉を述べる。


「……マリア、これからもずっと一緒に。」

そう言うが早いか、彼は圧縮された魔力の塊を一気に放出した。



爆炎魔術の中でも圧倒的な攻撃力と攻撃範囲を誇る究極魔術。


爆炎魔術【ヘルズプロミネンス】



玉座の間から音が消えた。

辺りが白で埋め尽くされた。


皇室の外にいる人間はドーーンと言う音を聞いたのだろうか、しかし先生たちはその音すら聞こえなかった。


ただ一つ、言えることがあるとするならば。


爆発は玉座の間を跡形もなく吹き飛ばした。


あらゆる装飾品を破壊し、溶かし、蒸発させた魔力の奔流が過ぎ去った後、そこに残っていたのは高熱で焼け切れた鋼糸の残骸と火傷が少し目立つ2人の姿。



「『待っていたよ、君が助けてくれると信じていたからね。』」

「『体力の無駄使いをするな。』って言ったのはアンタだ、俺は指示に従ってやるべきことをしただけだ。」


先生とミルドは、あの魔術を受け切り生きていた。

ミルドは先生を覆うように抱きかかえており、先生は両手で切れた鋼糸を握っていた。


「……国王があの結界を解いてくれたおかげで助かったぜ。」

「『結界に使っている魔力すら惜しんだのが国王の失敗だ、ミルドの回復力と防御力を侮ったな。』」

「……俺の身体強化魔術は特別製だ、ある程度の魔術なら弾けるようにしてある。言ってしまえばこう言う時のためにな。」

「『……ある程度でこれだけの魔術が弾けるのか、さすがは帝国最強。』」

「…うるせえ。」


2人は笑いあった、そして2人して火傷の痛みで悶絶しあった。


「『…さて、ミルドさんよ。』」

「……どうしたよ、いきなりかしこまりやがって。」


「『……俺はそろそろ行くよ。』」

「…傷は大丈夫なのか?」

ミルドは、先生が流血を抑えていると言った宝剣を刺された腹の傷を見て言う。

「『ああ、もう問題ないさ。それに何かあればお前がどうにかしろ。』」

「……無茶苦茶だなアンタ。」

「『……ナナを頼んだ。』」

「………おう。」

先生はミルドの返事に笑顔を見せる。


「『…ありがとう。』」


そう言って、先生は、ナナは倒れてミルドに寄りかかった。

……どうやら眠っているらしい。

「……返事すら聞かずに行きやがった。」


ミルドは眠っているナナの頭を撫でる。


「…自由な奴だな、この野郎。」


次会えたら一発殴ってやる、その言葉はミルドの心の中にひっそりと収められた。





ナナは、生者と死者の境界で先生と話していた。

前世での生活のことや先生に買われた頃の話、子供たちについてのこと、シェリアと出会った時のこと、エレンに初めて会った時のこと、とにかくたくさんの話をした。


今しかできないと思ったから。


先生は、それを黙って聞いていた。

時折反応を返すが、話を遮ることなく黙って聞いていた。


しかし、突然先生が立ち上がる。

「…さて、もうすぐ時間だな。」

「……ぁ、先生。」

ナナが悟ったのか、悲しい表情を見せる。

それを見て先生が笑う。

「おいおい、そんな顔するなよ。」

「……でも。」

「…笑えよ、俺まで寂しくなるだろ?」

「……うぅ。」

ナナは、涙目でとても笑顔とは言えない表情だったが、無理やり笑顔を見せる。

「……ああ、それで良い。俺はとっくに死んでるだからな、俺のことは引きずるな。」

「………先生。」


ナナが先生に抱きついた。

お返しにと先生がナナを抱き寄せる。


「…自由に生きろ、他人や国に縛られるな、いっそのこと他人や国を縛り上げてやれ、お前はお前の幸せのために生きるんだ。」

「……うん。」


「……俺はずっと、お前を見守ってる。」

「……うん。」


ナナは先生の言葉にうなづく。


先生の姿が薄くなっていく。

「……じゃあ、元気でな。」

「………先生!」

そこで、ナナが先生に向かって叫ぶ。

「…なんだよ、ここに来て行かないでは無しだぜ?」



「…好きだよ。」

「……え、お前…。」

先生がたじろぐが、ナナは御構い無しに続ける。

「先生が好きだよ、最初は違ったけど…今は好きだよ!前世は男だったけど、それでも好きだよ!」

先生はその言葉を聞いて、しばらく何も言わなかった。ナナも、何も言わずに先生を見ていた。


沈黙を破ったのは、先生だった。

「……ナナ。」

先生は彼女の名前を呼び、頭を撫でる。


「……ああ、俺も好きだよ。」

「………先生。」

ナナが堪えきれずに涙を流す、先生の体はどんどん薄くなっていき、頭を撫でる手も消えていく。


「ナナ、安心しろ。俺はずっとお前の側にいる。」


先生の声もだんだんと遠くなっていく。



それでも、最後の言葉はしっかりとナナの耳に届いていた。


『またな、あまり早く来るなよ?』


本当の名前も知らない、真っ当な人生なんて送っていない、何人も人を殺している男。

自分に暗殺者としての人生を歩ませた男。



それでも、それでも。


「…うん、またね…先生。」


ナナは彼が好きだった。

先生がまた登場することは果たしてあるのか。



……できればあと1回くらいは出したいな。

閑話でもいいから出そうかな?

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