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転々

本日は早めの投稿!

アンナが懐から縄を取り出し、キールズ王子の両手両足を縛る。

「…アンナ、どこからそんなもの拾ってきたの?」

「メイドの嗜みですわ。」

「……そんな嗜み聞いたことないけど。」

「シェリアお嬢様はメイドではございませんので。」

「……そうね。」

もはや身動き1つとることすら困難な状態になったキールズ王子を放って、2人は玉座の間の扉の方を向く。

「…大丈夫かな、2人とも。」

「ナナさんはともかく、あの帝国最強が苦戦するところはあまり想像しにくいですが。」

そう言いながらアンナが扉に手をかける。

早く加勢に行きたいと言う意思の表れだろうか。

「まぁ、苦戦していれば助けてあげればいいだけよね。」

「その通りでございます、お嬢様。」

扉が開かれる。


そこにいたのは、現国王と2人の仲間。



ではなかった。

そもそも玉座の間ですらなかった。


ピンクを基調とした女の子らしい部屋。

大きめのシングルベットの上には可愛らしいピンク色をしたテディベア。


そのテディベアの隣にいる赤い髪をポニーテールにしているピンク色のドレスを着た少女。

「お久しぶりね、シュリエ。キールズ兄様がお世話になったみたいじゃない。」


シェリアとアンナの目が見開かれる。

その少女は……。

「カレン…お姉様。」


シェリアの義姉、キールズ王子の義理の妹。

国王の義理の長女であるカレン王女だった。

カレン王女はシェリアに微笑む。

「さて、シュリエ。あなたは何をしにここに来たのかしら?」

「……お父様…現国王を倒し、私が王位を継ぐ為にここに来ました!邪魔立てするならばカレンお姉様とて容赦はしません!」

その気迫にカレン王女は動じることなく、微笑みを崩すことなくシェリアを見る。

「へぇ、あなた1人でこの私と戦うと言うのかしら?」

「1人ではありません!アンナや、他の仲間たちも居ます!」

シェリアの言葉にカレンが笑う。

それは、純粋な笑顔ではなく嘲笑のように見えた。

「ふふ、その大切なお仲間さんはどこにいるのかしら?」

「……え?」

思わず後ろを振り返るシェリア。

そこにアンナの姿はない。

「……え?…アンナ?」

あたりを見回してもアンナの姿はない。

扉を開けたのはアンナだ、最初に中へ入ったのはアンナだ、その後は私の背後にいた……本当に?

…本当にアンナは私の背後にいた?

…本当にアンナが最初に中へ入った?

「…あらあら?どうしたのかしら?」

「……アンナは…どこにやったの?」

カレン王女がニヤリと笑みを浮かべる。

それは十分シェリアに答えを与えていた。

「もし…アンナを傷つけたなら……許さない。」

「他人を心配する余裕があなたにあるのかしら?」


シェリアの前に青色の魔術陣が展開される。

それに答えるようにカレン王女の前にも赤い魔術陣が展開される。

「アンナを返してもらうわ!」

「ここを出られないあなたに返るものなんて何もないわよ!」

シェリアの魔術陣から生み出された氷の矢をカレン王女の魔術陣から生み出される炎の矢が相殺する。

「……あなた…キールズ兄様の魔術を。」

「…アンナを返してもらう。」

カレン王女の言葉はもはや聞こえていない。

シェリアは今世で生まれて初めて『キレて』いた。

パキパキ

シェリアの周りの空気が冷えて、足元は凍り始めている。

「……あなた…本当にシュリエなの?」

「……アンナが帰ってきた時、少しでも傷がついていたならその傷の数だけあなたの指の爪を剥ぐ。爪で足りなかったら指ごと切り取ってやる。」

カレン王女の顔からここで初めて笑顔が消える。

シェリアの目は真剣だ。

「できれば爪だけで勘弁してほしいわね。」

「爪だけで終わると思ってるの?」

空中に氷の斧が3本生み出され、その場でグルグル回転し始める。

カレン王女の顔から一筋の汗が伝う。

「……これは…冗談じゃないわね。」

カレン王女の目の前に魔術陣が展開され、4本の炎でできた長剣が生み出される。


「殺しはしない、ただ半殺しにはしてやる!」

高速で回転した3本の斧が一斉にカレンに向かって飛んでいく!

「その言葉!信用できないわよ!」

それを4本の炎の長剣が迎え撃つ!

1本目の氷斧が炎の長剣を2本まとめてかき消し、溶けて消える。

そして2本の氷斧が2本の炎の長剣を弾き飛ばしてカレン王女めがけて向かっていく。


「はぁ…本当に冗談じゃないわ。」

氷斧がカレン王女の腹に二本とも突き刺さる。

刺さった氷斧からカレンの腹に氷が侵食し、体を氷で覆っていく。

その侵食スピードは紙にインクの染みが広がっていくように早い。

「……殺しはしません。アンナの居場所を教えていただければ氷は溶かして差し上げます。」

「……あら、意外と冷静じゃない?」

胸から足先まで氷で覆われたカレンが苦しげに笑みを浮かべる。

「……早く答えてください。」

「…ふふ。」

カレン王女は答えることなく嘲笑う。

「早く答えろ!」

シェリアの頭上に氷の剣が生み出される。


答えなければ刺し殺す


言葉には出さず、しかし態度でカレンにそう言っていた。

「…あなた、少し勘違いしていない?」

「……どういうこと?」

カレンは嘲笑う、その笑顔はどこか満足げだった。


「アンナ…だったかしら?彼女は最初からそこにいるじゃない。」


「……え?」

シェリアが素早く振り返った。

「……あ…。」

そこにはちゃんとアンナがいた。


たしかにアンナがいた。

「アンナ!…どうしてっ!」

しかし…彼女は答えない。

背中にナイフを刺され、大量に血を流し倒れているアンナはシェリアの問いに答えることができなかった。

「……お…嬢様。…気を……。」

「…アンナ!アンナッ!」

シェリアの目に涙が浮かぶ。

「…ふふ、大切なお仲間さんが傷ついて倒れているのに気がつかないなんて、こんな人とチームを組んでるアンナちゃんはかわいそうね。」

「…黙れ。」

グサッと綺麗な肉を裂く音が響き、カレン王女の頭に氷の剣が突き刺さる。


シェリアはアンナを抱きかかえる。

そして、足元に紫色の転移魔術陣が展開される。

「…え?どうして……。」

……しかし、いつまでたっても転移することがない。


「……どうしたのかしら?お仲間の手当てはここでするのかしら?」

「なっ!?なんであなたが!」

シェリアは声のした方を見て驚きの声をあげた。

そこには、氷で覆われ頭に氷の剣を突き刺されたカレン王女。

…ではなく、その氷の塊の横に無傷でテディベアを抱きかかえているカレン王女が笑顔だシェリアの方を見ていた。


「早くしないとそのアンナちゃんとやらは危ないんじゃないの?」

「……傷は1つみたいだけど、爪だけで終わると思わないでよ。」


氷と炎が再びぶつかり合った。

月曜日って辛いね

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