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やられたら?

今回からシェリア達の戦い!


いったい彼女達はナナが死にかけている時に何をしていたのか?

時は少し遡り、玉座の間の前。

シェリアとアンナは王子相手に苦戦していた。


「はぁ…ガッカリしたよ。シュリエは僕と互角に渡り合える実力があると思っていたのに。……学園でちゃんと勉強してなかったのかな?」


廊下は霜が降りていない所の方が少ない。

シェリアとアンナは寒さで指と足の先の感覚が無くなってきていた。

……攻撃が通用しない。

アンナの得意な接近戦には持ち込ませてもらえず、常に魔法で距離を取られる。

それにこの狭い空間を氷で余計に狭められるため迂闊に近寄ることすらできない。

そしてシェリアの中途半端な炎魔術ではキールズ王子の氷を溶かすくらいの威力しか無い。

このままでは攻撃を防ぐことはできてもこちらが攻撃することなんてできない。

完全にジリ貧だった。


「……シェリア様、すみません。あれだけシェリア様をお守りするといいながら…私が守られているなんて。」

「…気にしないで、アンナ。」

「……しかし。」

「ダメ、そんなこと気にしないの。これは命令だよ。」

「う…。」

それなのに、2人の表情には絶望なんて存在しない。

……なぜなら。


「アンナ…行くよ。」

「……はい。」


状況を打開する奥の手があるから。

足元に展開される魔術陣。

「……なっ!?」

初めてキールズ王子の顔に焦りの色が出る。

それも当然のことだろう。


「お前たち!逃げるつもりか!?」


玉座の間に2人の仲間を残して転移魔術で逃げようとする者を見たのは今回が初めてだろうから。

「この下衆ども!!」

キールズ王子が急いで空中に氷の矢を10数本生み出し、高速で飛ばす。精密さなんてない、数打てば当たるの精神だ。

シュバッっと聞きたくない音が響き、2人の体が眩い光で見えなくなる。

残されたのは、アンナとキールズ王子の2人だけ。

「…お前、逃げなかったのか?」

「……あなた様には誰が見えているのでしょうか?」

「……なっ!?」

しかし、視界からアンナの姿が消える。

シェリアがいない今、この場の意識と無意識はアンナの支配下にある。


『さあ、どこを攻撃して欲しいですか?』


周囲から声が響く、しかしどこから聞こえているのかはわからない。

「クソッ!どこだ!!」

辺り一面に氷矢を放つが、無意味に終わる。


『フフフ、怖いお方ですこと。』


ザシュッ!

「ぐああ!」

右腕を深く切りつけられる。

攻撃された方向に氷矢を放つが、やはり当たった様子はない。


『さあさあ、まだまだこれからですよ?』


キールズ王子は考える。

どこにいるのかわからない、いつ攻撃してくるのかわからない。…ならば!

「攻撃させなければいい!」

高速で足元から円状に氷が広がる。

氷は廊下にあるものすべてを飲み込むように広がり続け、ついに獲物を捕まえる。

「…なっ!氷がまとわりついて!」

アンナは視界から消えた地点から動いていなかった。

あっと言う間に広がる氷に反応しきれなかったのだ、そもそも周囲の温度が下がりきって霜が降りているこの廊下で自由に動けるのはキールズ王子くらいだが。


「…捕まえたぞ、ネリアナ。」

「……そうですね、捕まってしまいました。」

アンナはそう言ったが、同時に背後から声が聞こえた。


「…ごめんなさい、お兄様。」

グサッと音が聞こえた気がした。

「…うぐっ!?シュ…シュリエ!?」

キールズ王子が振り向いたそこには、アンナが持っていたナイフをキールズ王子の背中に刺している涙を流したシェリアの姿だった。

たまらず、キールズ王子は倒れこむ。

「ふぅ…うまくいきましたね、シェリア様。」

「……うん。」


転移魔術で飛んだのはキールズ王子の背後だった。

しかし、転移魔術に驚いたキールズ王子にアンナが自身に意識を向けるように誘導する。そこからは簡単だ、『姿の見えないアンナ』に意識を向けられたキールズ王子の背後にアンナがキールズ王子の腕を切り裂くようにナイフを投げ、それを受け取ったシェリアが背後からナイフを突き刺すだけ。


「キールズ王子の最後の足掻きには驚きましたが、作戦さえちゃんと練ることができれば問題は無かったですね。」

「…転移魔術構築の時間稼ぎが大変だったね。」

アンナが倒れて意識を失っているキールズ王子の元へ行き、傷口に止血剤を塗る。

「あなたを殺すことはいたしません、ただ大人しくしていただくだけです。」


しかし、とアンナが笑う。



「捕まえましたよ、キールズ王子。」

やられたらやり返すのがアンナの主義だ。

これはアンナさんカッコいい。

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