授業
前回の前書きなんなんだよ!
…と思った方、安心してください。
今回も書きません!(おい)
真っ白な世界、奥行きや高さなんかが全くわからない一面真っ白な世界に私はいた。
「…ここは…?」
『死者と生者の境界だ。』
唐突な声、私以外誰もいないと思っていたのでびっくりしてしまう。
振り返ると、顔などの詳しいところがボヤけてはいるが、懐かしいあの人がいた。
「……先生。」
『よう、久しぶりだな。』
思わず涙を流してしまった私は、先生に抱きついた。
「先生…どうして…。」
『言っただろ?ずっと見てたんだよ。』
「…そう…だったんだ。」
『まったく…お前は無茶しすぎなんだよな、帝国の詰所で暴れるわ国王と一騎打ちするわ…自由にも程があるぞ。』
「……先生が、自由に生きろって言った。」
先生が微笑む、顔はよく見えなかったけど…たしかに微笑んだ。
『そう…だったな。本当に……お前は本当に良くやってるよ、羨ましいくらいに自由に生きてる。』
私は先生の言葉に頷く。
先生を抱きしめる力が強くなる。
「…先生、私……頑張った。」
『……ああ、そうだな。』
「……妹と再会できた。」
『…ああ。』
「……爺ちゃんにも会えた。」
『…今は少女だけどな。』
「……でも…もう終わりだね。」
『……。』
「……まだ、死にたくなかったな。」
『……何言ってんだ、まだ終わりじゃねぇよ。』
「……え?」
ナナは先生を見上げる。
『言っただろ?今回は手助けしてやるって。』
先生に表情は分からなかったけど、先生はきっと……。
『…お前にも見せてやるよ、正解の戦い方って奴をな。』
好戦的で、嬉しそうな顔をしていたに違いない。
『俺の最初で最後の授業の始まりだな。』
「ぐう…お前は一体何者だ!」
「『何度も自己紹介するのは恥ずかしいな。』」
呻く国王に余裕そうな態度で対応するナナ……いや、先生。
「『まぁいい、俺の生徒が世話になった礼をしに来ただけだ。名前なんてどうでもいいだろ?』」
「……『火よ【ファイア】』」
国王は左手に小さな炎を出現させ、おびただしい量の血液を流す右手首を焼く。
「うぐ……感謝するよ、君の生徒は素晴らしい男を呼んでくれた。」
ジュワッと肉の焦げる音と悪臭を放ちながら残酷な止血作業を行う国王は、誰に言うわけでもなく語り出す。
「……私の宝剣を切り刻む実力を持つ人間なんて近衛騎士団にも存在しない。ましてや魔法が使えないこの結界の中でならなおさらだ。」
「『…まぁ、俺もこいつも魔法に関してはからきしダメだからな。』」
「…おいナナ!何をしている!早く国王を倒せ!」
ミルドが先生を急かすが、先生は相手にしない。
「おいっ!聞いてるのかナナ!」
…先生はミルドの方向を見ることすらしない。
しかし、ミルドに一言だけ呟く。
「『いいから黙って見てろ、体力の無駄遣いはするな。』」
「……お前、やっぱナナじゃねぇな。」
ミルドは先生を見つめてそう言うと、何も言わずに国王を見た。
国王は止血を終わらせていた。
右手からは血液の代わりに煙を上げていた。
「…よかったのか?不意打ちでいくらでも攻撃できただろうに。」
「『止血は済んだか?戦略は練り終えたか?俺の生徒を傷つけたことに対する懺悔の準備はオーケー?』」
先生はゆっくりと国王に近づく。
今までとは立場が逆転していた。
「……面白い。」
それでもなお、国王は笑っていた。
圧倒的強者はこんなことでは不安など抱かないと言わんばかりに立ち上がり、左手を前に突き出す。
奪えるものなら奪ってみろ。
まるで、そう挑発しているようだった。
「すまないマリア、もう少し時間をもらってもいいかな。私は今とても気分がいい、少年の気持ちを思い出しているような清々しい気分だよ。」
「『……なるほど。』」
国王の声に応える者はいない。
それでも、国王は笑顔で虚空を見つめる。
「…ありがとうマリア、すぐに終わらせるよ。」
国王の左手から巨大な魔術陣が出現する。
その大きさは、身長180センチはある国王の体とほぼ同じ大きさである。
「ナナ!あれは複合魔術陣だ!あらかじめ複数の魔術陣を展開し、状況に応じて小出しで魔術を放ってくる!」
ミルドが焦ったように先生に叫ぶ。
しかし、既に先生はミルドが見ていた『先生がいた場所』にはいなかった。
「『魔法に関して、俺はからきしダメだ。』」
「……んなっ!?」
国王はここに来て珍しく焦る。
「『しかし、対処法は知り尽くしてるつもりだ。』」
先生は国王の展開する魔術陣の目の前にいた。鼻先は触れているのではないかと錯覚するほどまでに近い。
「…くっ!」
国王はすぐに後ろに飛び退く。
展開している魔術陣も左手に合わせて動く。
「『魔術使いとの戦闘で、相手の魔術の間合いを測るのは愚行だ。』」
先生は国王との距離を離すことなく、鋼糸による斬撃で攻撃する。
ナナの鋼糸術が遅く感じるような凄まじい速さと正確性で国王を追い詰めていく。
「くっ!くそっ!!」
国王は魔術を使うことなく、鞭のように放たれる鋼糸を躱す。
「『お前の使う魔術の場合はなおさら接近がベストだ、お前だって爆発の衝撃は痛いもんなぁ?』」
鋼糸が国王の胸に一筋の切り傷をつける。
国王の目の前には両手で数十本の鋼糸を自由自在に操る少女の姿。
先ほどまでの少女とは速さが違う、動きが違う、格が違う、経験が違う、知識量が違う。
何もかもが……違う。
「……お前は…何者だ。」
「『俺は…こいつの先生だよ。』」
ズバババッ!!
国王は、魔術を使う暇すら与えられずに切り裂かれた。
前回の後書きなんなんだよ!
…と思った方、安心してください。
『先生』は今作の中でも1、2を争う私お気に入りのキャラです。
王国奪取編での再登場は前々から決まっており、私としては珍しく予定通りの登場です。
この話で『先生』を改めて好きになってくれる人が増えてくれると嬉しいです。
先生という存在を嫌う人が現代では多いですよね。
そんな中で、今作の『先生』は私の理想的な先生を少し『設定』という性格を付けてこの話に入れました。
とりあえず今日はこの辺で、次回は舞台が少し変わります。
真面目な後書きを予想しなかった人は感想で挙手。




