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真骨頂

前書きに書くことがない。

宝剣と魔剣、二つがぶつかり合い拮抗する。

両者ともに業物であり、使用者もともに年齢は違えど実力者だ。


そんな時、拮抗状態を崩すのは。


「うおおぉ!!」

「う…うぐっ。」

ガキンッ!


単に腕力の差である。

国王がつばぜり合いの状態から一気にナナの魔剣を弾き上げ、がら空きの胴体へ宝剣を横薙ぎに一閃!

ナナはバックステップで身を躱すが、それでも少しかすめてしまい腹の辺りを浅く切られてしまう。

「くっ…。」

「どんな魔剣かと内心焦ったが…そこまで警戒する必要はないようだな。」

国王は自身の余裕を見せつけるようにナナの方へ歩いて近づく。

「ナナっ!俺を置いて早く逃げろ!魔剣一本で勝敗が覆るような相手じゃない!」

「……駄目!ミルドを置いて行けない!」

ミルドの表情に絶望の色が広がる。

「俺ら2人が死んだらシェリア達はどうするんだ!国王と王子で挟み撃ちだぞ!」

その意見をナナがはねつける。

「そうなる前に…ここで倒す!」

「……クソがっ!!」

ミルドの悪態を無視してナナが走る。

魔剣を右手に国王へと駿馬のように早く、速く、疾く駆ける。

国王の表情はどこか明るかった。

「…マリア、もうすぐ終わるよ。」

宝剣を自身の体の右横で平行になるように構える、そこにナナの魔剣が国王の喉元に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。


「…それを待っていたよ。」

突っ込んでくる魔剣を右横に構えた宝剣が左に横移動することによって流し、頭から体までがら空きになったナナの体を宝剣が縦一文字に切り裂かんと振り下ろされる!



「それを…待ってた。」

ガキッ…と鈍い金属音が響く。

「…なっ!」

宝剣はナナの頭上にピンと張られた数本の鋼糸で受け止められていた。

よく見れば魔剣を握っている右手から左手にかけて鋼糸が伸びている。

驚く国王を置いて、ナナが魔剣を国王の心臓めがけて思い切り突き出す!


殺してはならないと言ったエレンの忠告などもはや頭になかった。


…しかし。

「『爆炎魔術【フレア】』」

国王を殺すことはできなかった。

魔剣は国王に届く前に目の前で起きた小爆発でナナごと吹き飛ばされたのだ。

「…すまなかった、少々楽しみすぎたよ。」

そう言った国王は私の方を見ていない。

どこか虚空を見つめている。

「私も久々の剣戟が楽しかったんだよ…君を無下になどしていないさ、マリア。」

「…おい!なんで魔術が使えるんだ!ここは結界の中だろ!」

ミルドの叫びに国王が当然のことのように答える。

「…私がいつこの結界の中で術者である私自身が魔術を使えないなどと言った?」

「……クソッ!」


つまり、私たちは遊ばれていたのだ。

圧倒的な実力と結界の中で魔術が使えるというアドバンテージのある国王のちょっとした暇つぶしだったのだ。


「…言っただろう?私はマリアの前では負けないと。」

国王の表情には余裕と嘲りの他に恍惚すら浮かんでいる。

国王が倒れ伏す私たちにゆっくりと近づく。

爆発の衝撃のせいか体が思うように動かない。


…もう、逃げることすら不可能だ。



でも…それでも……せめて一撃だけでも!

震える右手にある魔剣グランディルダガーを見つめる。

その輝きは、私を肯定してくれているようだった。


「…おぉ、立ち上がるのが。」

国王は感心したようにつぶやくが、余裕の表情は変わらない。それもそうだ、相手は両足が震えていて立つことすらままならないような満身創痍の少女なんだから。


「やめろ…ナナ。」

ミルドの制止を無視する。

震える足に鞭打って駆ける、そして…魔剣を国王の体に刺そうと…思い切り突き出す。


無謀なのはわかっていた。

「…やめろ!」


「…魔術すら必要ない。」

私の突きは…国王の蹴りで弾かれた。

魔剣が右手から離れ、どこかへ飛ぶ。


「…ナナ!」

ミルドの声がなぜか遠く感じる。


武器を失った私への対処など簡単だった。

剣術の中で最も速く、威力も申し分ない攻撃。

私の腹の真ん中…そこに国王の放った突きが命中し、貫いていた。


「ナナァァァ!!」



「……ガフッ。」

声が出ずに、代わりに鮮血を吹く。

…お腹が…熱い。

「…最後まで抗った精神には敬服する。私の妻マリアのように気高い意思を感じたよ、敵でなければ是非とも近衛騎士として迎え入れたいくらいだ。」

国王は私を宝剣で貫いたまま勝ち誇ったように語る。


…でも、実際勝っている。私はもう指一本動かせない。

……ここで死ぬのか…。

「……!…………!」

ミルドが何か言っている…なんて言っているんだろう?怒っているのかな?


……意識が薄れていくのを感じる。


もう……終わりか………ごめん…シェリア…。



『また仕事失敗か?』


…あれ?……誰の声だっけ?

……懐かしいような。


『しょうがねぇ、今回は手助けしてやる。』


……アンタは…。


『…生徒の手助けは先生の仕事だからな。』


………先生。


『ずっと見てたぜ…ナナ。』



宝剣に貫かれたナナが立ち尽くしたまま血を流している。

「…クソッ!!クソ野郎!!」

その姿を見て悪態しかつくことのできないミルドの号哭が虚しく響く。

「……これで2人目だよ、マリア。あとはアイツを殺るだけだ。」

国王のつぶやきに応えるものはいない。


……はずだった。

「『油断した奴を攻撃するのは簡単だ。』」

ズバババッ!!

宝剣が5つにバラバラと切断される。

そして、国王の右手も手首から切断された。

「ぐっ!ぐああああ!?」

「なっ!?ナナ!どうして!」

意識を失ったはずのナナがミルドを見て、不敵に笑う。

「『おう、ナナが心配かけたな。』」

「…お前は、ナナじゃない?」

そう言ったミルドがあることに気づき目を見開く。

「…お前っ!血が……止まってる!?」

宝剣で貫かれた傷口からは一滴も血が流れることはなく、そのギズだけが痛々しく存在を主張していた。

「『これか?これは俺が止めてるだけだ。』」

「…お前は…誰なんだ?」

ナナがニヤリと笑う。本来の彼女なら絶対にしない表情だ。


「『そうだな…『先生』とでも呼んでくれ。』」


死してなお、教え子を守るその姿。

それは…自由を求めた男の真骨頂なのだろう。

後書きに書くことがない。




……今回手抜きだなぁ。

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