それぞれの戦いの合図
遂に60話を超え、61話です。
エレンと話した後、私はミルドを追いかけた。
あまり遠くに行っておらず、私を待っていたミルドに安心した私はとりあえずミルドの足を蹴った。
「…おい、どうした急に?」
…心配させた罰だ。
痛がってすらないのは少し落ち込む…やらなきゃ良かった。
「…行こう。」
「…?お、おう。」
ここでくだらないことをするよりは前に進んだ方がマシだ…これ以上罰と称して私の心を傷つける自傷行為はなんの得にならない。
私たち2人は敵地の中心、国王の居る玉座の間に向かって堂々と歩みを進めた。
「おい!そこの2人!止まれ!」
「侵入者だ!増援を呼べ!」
「玉座の間に近づけるな!」
ある程度進んでいくと、やはりというか当然というか近衛兵がたくさん集まってきた。
……面倒だな。
「ちっ…面倒だぜ。」
ミルドも同じ感想を漏らす。
まぁ、良い。敵は蹴散らすだけだ。
私がナイフを構えた瞬間。
ブワッと目の前が紫色に輝き、何も見えなくなった。
敵の罠か!…いや、相手は何もしてきていない。
「おい!なんだこれは!」
「…知らない!」
ミルドの声に応えるが、現状は何も変わらない。
紫色の光が徐々に薄れ、周りの景色が戻っていく。
そこには、先ほどと変わらない光景。
「……?」
「…おいおい、どういうことだ?」
唯一変わったことは。
「なんで近衛兵が消えてんだよ?」
先ほど向かってきていた近衛兵が影も形もなく消滅していたことだ。
『安心しろ』
「…!」
「エレン!さっきのはなんだ!」
エレンの声が頭に響く。
『私の転移魔術で近衛兵や王国軍を飛ばした、お前達は国王だけを狙え。シェリア達と私が他の足止めをする。』
ミルドはその声に怒鳴るがエレンはどこ吹く風、勝手に会話を進めていく。
「…はぁ、無駄に驚いただけかよ。」
「…心臓に…悪い。」
『敵の罠かと思ったのか?そりゃ悪いことをしたな!…ふふ…なんとも可愛いやつだ。』
「おい!聞こえてるぞ!性格の悪い奴だなお前は!」
「……後で…お仕置き…爺ちゃんでも…容赦しない。」
『おいナナ!その名で呼ぶな!…お仕置きは…ちょっと楽しみだな。』
「……爺ちゃんの変態。」
「……何度も言うが…ここ敵地だよな?」
私たちの戦闘は何時も緊張感がない。
…玉座の間まで、あと少し。
場所が変わり、シェリアの部屋。
転移魔術で近衛兵を飛ばしたエレンとそれを見ていたシェリア達。
「さて、これで邪魔者は消えた。後は王族だけだ。」
「…本当に、規格外というか…。」
「さすがお爺ちゃん!」
「……シェリア…その名で呼ぶな。……ナナもシェリアも本当に何故…爺ちゃん爺ちゃん。」
「あ…ごめんなさい。」
「いや…良い。それよりも早くお前達はナナ達の援護だ、さすがに王族まで飛ばしたら逃げられる可能性があるからな、この場で全員捕まえておきたい。」
「…それは私にお任せください。シェリア様手を汚させるわけにはいきませんので。」
「…アンナ。」
アンナを見つめるシェリアの目は、少し寂しげだった。
しかし、エレンはあえてそれを無視する。
「まぁ、それはお前達に任せる。」
「エレンちゃんは王国軍達の足止め…気をつけてね?」
シェリアの心配をエレンは笑い飛ばす。
「何を戯言を…私は強大で偉大なるエレン・オーケスだぞ!小石が集まったところで私に指一本触れることすら許さん!」
そう言って彼女は紫色の光に身を包み、姿を消した。
「…さて、シェリア様。私たちも行きましょう。」
「…そうだね、アンナ…私も頑張るから。」
「……いえ、シェリア様は私の後ろで…」
「ダメ!」
シェリアの勢いにアンナが驚く。
シェリアがここまで自分の意見を通そうとするのはエレンとの一件くらいだ。
……それほどまでに、私は信頼されていないのか?
そんな不安がアンナの頭をよぎる。
…しかし。
「アンナばかり頑張りすぎるのはダメ!……私も、アンナを守りたいの!」
「……シェリア…様。」
そんな不安など、すぐに吹き飛んだ。
…私はなんて事を考えていたんだ。
シェリア様に何時も付き従い…シェリア様に唯一忠誠を誓い、幼い頃からずっと共に過ごしていたのは私ではないか!
何をバカな事を考えているのだ私は!
それに…私はシェリア様のお力を信じきれていなかったのかもしれない。
そうだ…私は過保護過ぎたのかもしれない。
シェリア様に何かあっても…私が守ればいいのだ。
「シェリア様…共に頑張りましょう。」
「…!うん!頑張ろうね、アンナ!」
そうだ、何時も単独で戦いに行っていた頃とは違う…私は今、【無面】ではない。
シェリア様専属の従者、アンナだ。
それならば、シェリア様の意思を尊重し、徹底的にお守りするまで!
2人は部屋を出て、歩き出す。
目的地は、敵の目の前…それはあと少し。
はたまた所変わってとある荒野の中。
そこに王国軍や近衛兵達は飛ばされていた。
「おい!ここはどこだ!」
「俺たちは皇室で敵と向かい合っていたはずだぞ!」
「なんで荒野にいるんだ!」
「あの紫の光が原因か?」
皆がそれぞれの意見をぶつけ合っている。
…まぁ、無理もない混乱だ。
そこに突如、空中に現れる紫の光。
皆が喋るのをやめ、光に注目する。
「やあやあ皆の衆!アホ面晒してご苦労さん。」
出現と共に罵声を投げかける少女。
少女はゆっくりと下降して、王国軍らと距離を取りながらふわりと着地する。
「お前達をここに飛ばしたのは他でも無い、この私だ!今からお前達を暇つぶしがてらに足止めするのもこの私だ!」
王国軍達は何も言わずに少女を観察する。
しかし、その沈黙は冷静ゆえではない。
「ふざけるなぁ!!」
…怒りゆえの沈黙だった。
ある者の怒声を引き金に、皆が1人の少女に向かって突撃する。
少女…エレンの思う壺だということにも気づかずに。
「…まるで獣だな。」
その言葉が、蹂躙の合図だった。
ブワァッと広がる無色の波がエレンを中心に広がる。
「なっ!うわぁ!!」
「なんだこれは!!」
波に呑まれ、吹き飛ばされる人、人、人。
それはもはや王国軍でも近衛兵でも無い。
……ただの強者に貪られる弱者の集団だ。
「おいおい、まだまだ遊びはこれからだぞ?」
その強者の余裕に呑まれる弱者達。
もはや戦意など残っていない。
たったの魔術一つでその絶対的な強者の立ち位置を定めてしまう規格外。
そんな化け物に抗う者などいない。
エレン自身もそう思っていた。
…しかし。
「…怯むな!魔術師への戦いなど今回が初めてでは無いだろ!」
「…そ、そうだ!魔術を使わせ続けろ!」
「魔力切れを狙え!今は耐えるんだ!」
…そこにいたのは弱者ではなかった。
強者に食らいつく、『漢』達が…そこにいた。
「…ふふふ、面白い!面白いぞお前たち!……良いだろう、お前達に敬意を払い相手してやる!」
そして、強者と弱者は向き合った。
閑話のネタを考えてはもう少し良いものが作れないかと一人で問答しております。




