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剣と拳

今回はミルドさんのちょっとした活躍回!


シュビネーさんの久しぶりの登場顔でもあります

…負けてるけど。

シュビネーとミルド、両者の戦闘はとても奇妙なものだった。


ミルドの強烈な攻撃の数々をシュビネーは危なげなく躱し、シュビネーの疾風の如き剣戟をミルドはその肉体で受け止め続けた。


しかし、両者ともに一寸の傷を負うことなく、一滴の血液すら流していないのだ。


「……さすが帝国最強、人間とは思えない堅さだ。」

「…お前もなかなかに速いな、拳が掠りもしねぇ。」

「…そりゃあ、当たれば死ぬって分かってるからな…死ぬ気で避けるさ。」


そう、拮抗状態に見えるこの戦闘も実のところ時間の問題である。

シュビネーに拳が当たれば終わりなのだ、シュビネーの勝ち目は剣を体で受け止められた時から既に潰えている。

しかし、シュビネーもそれは理解している。


ならば、なぜ彼は撤退しなかったのか。


「死ぬかもしれねぇってのに、逃げない奴は馬鹿って言われるんだぜ。」

「……違うな。」

「……何がだ?」

シュビネーはニヤッと笑った。

彼の目はまだ希望で輝いていた。

「…俺には、まだ逃げるだけの理由が見当たらないからだ!」

シュビネーはミルドに向かって駆け出した。

その速さ、ミルドが目で追うことすら難しいほどの勢いだ。

「うぉっ!」

ミルドがその勢いに驚いた頃には、すでにシュビネーは攻撃する準備ができていた。

高速で移動し、その勢いすら剣に乗せての突き。


ドスッ


帝国最強は、この戦闘において初めて血を流した。

「……おう、痛えじゃねえか。」

「…この突きを受け止められるお前は、本当に化け物だよ。」


剣は、ミルドの右腕に三センチほど突き刺さっていた。

「…私のとっておきでその傷とは…私の自信がぶっ壊れそうだよ。」

「いやいや、剣で傷つかない肉体を誇ってる俺の方が自信を失いそうだ。」

シュビネーは剣を抜こうとするが、いくら力を込めても剣が抜けない。

シュビネーの顔に焦りがにじむ。

「おいおいどうした?今ので力を使い果たしたか?」

「お前…本当に化け物か?」

ミルドがニヤニヤとシュビネーを煽り、シュビネーはその煽りを無視して剣を抜こうと必死になる。

「……時間切れだ。」

ミルドの言葉を引き金に、腕に刺さっていた剣がパキンッという音と共に折れ、剣を引っ張っていたシュビネーは折れた剣と共に後ろに後退する。

「お前…傷口の筋肉だけで私の剣が抜けないように挟み込むだけでなく…刺さっていた剣を折るなんて…一体どんな鍛え方をしたらそんな自由に動く筋肉を作れるんだ!?」

シュビネーの驚きを受け流し、ミルドは力尽きた獲物を見る勝ち誇った獣のようにシュビネーの前に立っている。

「努力と鍛錬…と答えれば満足か?」

シュパッ

風を切る音がして、シュビネーの右腕を何かが掠める。

シュビネーはミルドの右腕の傷口から先ほどよりも出血量が多くなっていることに気づいた。

「……ちっ、外したか。」

「…傷口の剣先を飛ばしたのか。」

「……忘れ物を渡しただけだ。」

「もっと紳士的な渡し方があると思うがね。」

「…出会い頭に背後から剣を突きつける奴に言われたくないぜ。」

「……ごもっともだ。」


それから、会話が途切れる。

先に動いたのは、シュビネーだ。

「はぁっ!!」

ミルドに向かって迷わず直進!

折れたと言っても剣先三センチ、まだまだ剣としては十分な長さがある。

これ以上のダメージを負う前に決着をつける!

先ほどまでの突き攻撃は使えないが、それでも速さで翻弄すればチャンスはいくらでもある!

傷をつけることを考えるな、動きを予測させずに隙を作らせる。

一度は剣が通ったんだ、次は急所に当ててやる!


しかし…帝国最強に2度同じ手は通じなかった。

ドゴンッ

地面が揺れる、地面が抉れる。

…足場が…崩れる。


シュビネーの錯覚は半分正しい。


正しくは、『右頬にミルドの右ストレートをモロに食らった』シュビネーの体が崩れるようにして倒れたのだ。

地面が揺れるような感覚を覚えるのも無理ないことだろう。


「もう『それ』には懲りてるよ。」

先に動いたのは確かにシュビネーだったが、先に『勝つ準備』を整えていたのはミルドの方だった。

「お前なら迷わずまっすぐ向かってくると思った、お前の速さに俺はついていけねぇしな。…だが、来るとわかっているのなら、そこに拳を『置け』ば良い。後はお前が自分の勢いで吹っ飛んでくれる。」

まぁ、俺も半分くらい飛ばす手伝いはしたがな…と、呟きながらミルドは倒れたシュビネーを見る。

「…うぅ、お前…帝国に帰るなら……早い方が良いぞ。」

「随分親切なお言葉じゃねぇか、そんなに帰って欲しいのか?」

「…親切じゃない、忠告だ。これからここには俺の部下が…来る。逃げるなら今のうちだ。」

「……ほぅ、部下か…お前が呼んだのか?」

「…もともと、そう言う手はずだった。」


ミルドは顔をしかめる、右腕の出血はまだ止まってはいない。

頭も少しクラクラしてきた、完全な貧血だ。

だが、ナナはまだ王国で情報収集中だ。


「…どうしたものかな。」

「…できれば…帰ることを……。」

シュビネーはそこまで言って気絶した。

自分からぶつかりに言ったとはいえ、山をも崩すミルドの拳だ、それなり以上のダメージを負っただろう。


ミルドはシュビネーの体を近くの店の外にあるベンチに寝かせてやる。

…ちょっとした彼への敬意だろうか。


ミルドがシュビネーをベンチに寝かせたその時、ドカドカと多数の足音が聞こえた。

…十中八九警備隊の足音だろう、武器と鎧がぶつかって起きる独特なガチャガチャといった音も聞こえてくる。


「……はぁ、ちょっとマズイかもな。」

ミルドが珍しく弱音を吐く。

…右腕の出血はまだ止まらない、重要な血管を切っていたのか…運がないな。


「どうした?帝国最強。集団戦は嫌いか?」

「…なっ!?アンタは…。」


突如聞こえる幼い少女の声。

「わぁ!懐かしいですね、アンナ。」

「お嬢様、観光はまた次回にしましょう。」

そして、場違いな会話をする2人の少女の声。


「……遅いから迎えにきてやったぞ、泣いて感謝する許可をやろうか?」


……偉そうな態度にミルドは苦笑する。


「おう、あとでたっぷり喜んでやる。王国警備隊とその他諸々の面倒ごとが終わったあとでな。」


少女…エレンは満足げに笑う。

傲慢に、そして驕傲な態度で言い放つ。


「よろしい、ならば早くこの戦争を終わらせてやろうじゃないか。」

果たしてシュビネーさんの登場は今後あるのか?

ミルドさんの傷は大丈夫なのか?

ナナちゃんは今どうしているのか?


作者の頭を悩ませる数々の伏線を解決する言葉。

『魔法って便利だよね?』

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