解き放たれた獣
そろそろ書き溜めが尽きそうです。
毎日投稿がつらくなくなってきたぞーー
魔剣をもらった私は、大男に王国を襲撃することを伝えた。大男は驚いていたが、話し終える頃には冷静にこちらを見ていた。
「お嬢ちゃん…お前、本気なんだな?」
「…本気、私は…国を獲る。」
「……そうか。」
大男はそう呟いたあと、私の頭を撫でた。
「……?」
「…お前が本気なら俺は止めない。別に俺は王と関係が深いわけでもねぇしな、国のトップが変わったって俺には何の支障もない。それに、お嬢ちゃんが国の政治に関わるんなら俺に悪影響はねぇだろ。」
「……それは…もちろん。」
当然だ、大男には恩がある…それを無下にすることは絶対にない。
「なら、別に俺は止めねぇ。手っ取り早く王でもなんでもぶっ倒して王様になりやがれ。そんでもって俺を王直属の鍛冶屋にでもして金を稼ぎまくらせろってんだ。」
「……がめつい。」
「お前らに貸しまくった剣の値段分は稼がせて貰うぞ!…特に奴に貸した剣はどれもこれも一級品だったからな、まったく…見る目だけはありやがる。」
「……わかった、上手く言ったらちゃんと稼がせる。」
「……おう、そうしてくれ。」
「…魔剣…ありがとう。」
「……なに、ちょっとした投資だ。気にするな。」
私と大男は目を合わせなかった。
「…言ってくる。」
「……ああ、言ってこい。」
それはきっと、目を見なくても良かったからだ。
言葉だけで、十分だったから…。
「……良かったんですか?」
「あぁ?なんだ…いたのか、タニア。」
タニアの目は俺を睨みつけている。
コイツは…真面目だからなぁ。
「…どうして、ナナちゃんを止めなかったんですか?」
だが、今回ばかりは俺の勝ちだ。
「……あいつは、『止めたらダメ』だからだ。」
「止めたら…ダメ?」
「あぁ、アイツは自由に行動させてやらないといけない。…たとえ、それが国を脅かすことであっても。」
「……なぜ…なんですか?」
「……約束…いや、俺の勝手なお節介だよ。」
「……そう、ですか。」
「あぁ、だからお前が勝手に警備隊に駆け込んでも構わない。」
「いやいや!そんなことしませんよ!」
あぁ、これは完全なお節介だ。
…アイツは幸せにしてやりたい。
ただ、それだけの話だ。
「それに……。」
「…それに?」
「国外逃亡するの手伝ってんだ、今更だろ?」
「……たしかに…そうでしたね。……私はなにも聞かされてなかったんで手伝った後に聞かされましたけど。」
師匠の悪は弟子が正す必要がある。
しかし、共犯の場合は話が別だ。
さて、ナナが大男から魔剣を貰っていた頃。王国の繁華街にある居酒屋では一悶着起きていた。
「おーい!こっちにもっと酒をよこせ!」
「そうだそうだ!ここにいるのは帝国最強だぞーー!酒がねぇと暴れまわるぞーー!」
「そんときゃ俺がお前らまとめて牢にぶち込んでやるぜ!わはははは!」
数名が店に入り、どんちゃん騒ぎをしているのだ。
…主にミルドと入国審査官2名だが。
彼らは酒を通して意気投合したらしい。
「おいおい!酒がねぇなら他の店に行くぞ!」
「おう!繁華街の酒を全部飲み干してやるぜ!」
「もっと酒と女をよこせ!!」
それを見ていた居酒屋店主とその妻は、
「……酒ほど強い自白剤はねぇな。」
「えぇ、人の本性が丸見えよ。」
…そう言ったのち、この3人を店から叩き出したらしい。
しかし、2人は知らない。
「あーあ、追い出されちまった。」
「おー!次の店行くぞーー。」
「そうだそうだ!近くにいい店があるぜ!」
「コイツらも酔いつぶれたし、そろそろか。」
帝国1の酒豪は、店一件に置いてある程度の酒では酔わない。
彼は酔ったふりをしながら入国審査官から情報を聞き出そうとしていたのだが。
「…コイツら酒に弱えなぁ。」
どうやら、聞き出す前に酔いつぶれてしまったらしい。
「まぁ、他の奴らから聞けばいいか。」
「……動くな。」
その時、後ろから彼の首に剣が突き立てられる。
ミルドの動きが止まる。
「……誰だ?物騒な真似をするやつだな。」
「…名乗るなら、貴様の方からだ。」
「…どうせ知ってんだろ?帝国のミルドだ。」
そう答えたら満足したのか、突きつけられていた剣が少し離れる。
ミルドは…剣を警戒しながら刺客の姿を見る。
決して振り返らない、少しチラ見する感じだ。
その刺客は、警備隊の服装を少し華美にした程度の服を着ており、その姿は自信と余裕に溢れ、どこか気品に満ちた雰囲気すら感じる。
「申し遅れた、私は王国警備隊総管理長のシュビネーと言う、お前に事情聴取をしに来た。」
その刺客、シュビネーはミルドを睨みつける。
「へぇ、この俺を?」
「…あぁ。」
「事情聴取?」
「…そうだ。お前を連行させてもらう。」
「…いやだと言ったら?」
ミルドに突きつけている剣がピクリと動く。
そして、その剣がミルドの首に触れる。
「…お前の首が落ちるかもな。」
それは、紛れも無い脅しだった。
しかし、帝国最強にその脅しは通用しない。
「やってみろよ、首を落とせるならな?」
「……死ぬぞ?お前。」
しかし、ミルドは鼻で笑った。
「殺してみろよ、殺せるならな?」
「……後悔するなよ。」
シュビネーはミルドに突きつけていた剣を振り上げ、目にも留まらぬ速さで振り下ろした。
そして、その剣はまったく動かないミルドの首へ吸い込まれるように向かう。
当たってしまえば、シュビネーの言った通り首が落ちるだろう。
しかし、帝国最強は普通ではない。
剣は首に当たった、確かに当たったんだ。
ガギンッと…到底人体に当たったような音ではない不自然な音を立てて。
その上、剣は首に当たったまま皮膚の一枚も切っておらず、そのまま停止しているが。
確かに、首には当たっている。
「……何だと?」
シュビネーが後ろに下がり、大きく距離を取る。
ミルドはゆっくりと振り返り、挑発する。
「どうした、落とさないのか?俺の首は無事だぜ?」
ミルドは剣が当たった首を手でパチパチ叩く。
それが、開戦の合図だった。
「…事情聴取を受ける気は無いらしいな?」
「面倒なのは嫌いなんだよ。」
ここに来て、ミルドが深い笑みを浮かべる。
野に放たれた自由な獣は、暴れることのできる場所を見つけたようだ。
しかし…まだ…まだだ!!
まだまだ毎日投稿は続けるぞ!
……できるところまで。




