成功作の中の失敗作
新作を書こうと思っているのに、この作品の終わりが見えない。
……新作はいつ書けるのか。
王国内の様子はあまり変わっていなかった。
…と言っても、私は繁華街付近しかあまり知らないけど。
そのせいで繁華街まで行くのに少し苦労したのはミルドには秘密だ。
繁華街はいつも通り賑わっている。
この時間帯だとちょうど酒場が開店してくる時間帯だからだろう。
…繁華街に行くまでに結構時間を使ってしまったようだ。
まぁ、良い。私の目的地には時間など関係ない。
関係あるのは彼の機嫌くらいだろう。
繁華街からは迷うことなく目的地に到着できた。
この格好のせいか、私に注目する人もおらず楽に王国内を歩き回ることができた。
考えてみれば王国であの着物姿は目立つな。
…そのせいで武器は最低限だけど。
まぁ、そこまで問題じゃないだろう。
ナイフと鋼糸があれば大抵何とかなる。
それに…今から調達もできるし。
私は目の前のボロい店を眺める。
「ここも、変わらない。」
思わずそう呟いた私は悪くないと思う。
店内に入ると、やはりあの大男がいた。
「おう、久しぶりだな。」
「ナイフ…ある?」
「何本欲しいんだ?」
「…二本。」
「勝手に持ってけ。」
大男はそっけなく言う。
「……お金は?」
「あるのか?」
「……無い。」
そう言えば財布を持ってきてなかったと、今更ながらに気づく。
「それにお前、その格好…なんかしでかす気だろ?」
「……。」
やはり…気づかれるか。
でも、私は初めから彼には伝えるつもりだった。
王国を襲撃し、国を奪うつもりであると。
そう言って逃げてもらうつもりだった。
でも、私が口を開く前に大男が口を開いた。
「お嬢ちゃん…いや、ナナ。お前が何をしようとしているかは大体わかる。」
「っ!」
大男の声は少し悲しげだったが、力強くもあった。
「そりゃぁ、仕事中のお前の姿を何度か見りゃわかる。今回もかなりの大物とやり合うんだろ?……ナイフ二本じゃぁ足りねぇよ。」
「……鋼糸もある。」
「それでも足りねぇ。」
大男の言いたいことがわからない。
「……何がいるの?」
その問いに、大男がニヤリと笑う。
「『グランディルダガーが必要だ。』」
それは、本当に懐かしい言葉だった。
鍛冶屋の奥のさらに奥にある倉庫に『それ』は置いてあった。
ナイフと言うには少し長めの刃は少し青みがかった黒色で、とても美しく輝いている。
それに…少し魔力を帯びている?
「……魔剣?」
大男は少し驚いた顔を見せた。
「…成る程、観察眼もアイツ譲りか。」
そう言った後、彼は私にその魔剣を渡して話し出した。
「お前の言った通り、これは魔剣グランディルダガー。俺の作った中で唯一の魔剣だ。」
魔剣、それは魔力を帯びた剣のことだ。
しかし、ただ魔力を帯びているのでは魔剣とは言えない。
『自然の魔力』を帯びていなければならないのが、魔剣としての条件である。
だから魔剣の製法は難しい。
通常の鉄を打つだけでは魔剣は作れないのだ。
自然の魔力を帯びた鉱物、通称『魔鋼』と呼ばれる鉱物を使わなければならないが、魔鋼は総じて脆く、加工が難しい。
「俺は鍛冶屋を始めてから40数年、魔鉄ばかり打ってきた。魔鉄が一番手に入りやすいからな、そんでもって俺は魔鉄で普通の剣よりも鋭く、壊れにくい剣を作れるに至った。お嬢ちゃんに渡したナイフも全て魔鉄で出来てる。だから俺は魔鉄鍛冶と呼ばれた時期もあった。でも、そんな俺でも魔剣はなかなか作れなかった。そんな中、ひょっこりたまたま出来上がった魔剣がそれだ。」
私は渡された魔剣を眺める。
「この魔剣…能力は?」
「こいつの能力は…無い。」
「……無い?」
魔剣にはその魔力を帯びると言う特製の他に、何らかの能力を持つものがある。
火を纏う魔術を使用者の代わりに使ったり、結界を展開する魔剣もある。
中には知性がある魔剣もあると言う話だ。
これには…一体どんな能力があるんだ?
魔剣の能力は代償を払う必要があるような強大な能力が多い…しかし、今回の戦いにはかなり役立つ筈だ。
しかし、能力が無い?
大男の顔は真剣そのものだ、嘘をついてるようには見えない。
「こいつは俺の魔鉄で作った剣の中では成功作の中の失敗作だ。今までの剣は魔剣としては失敗作だが、剣としては成功作。どういうことかはわかるか?」
「つまり…魔剣であって魔剣じゃ無い。」
魔剣としては成功作だが、その魔剣のなかでは失敗作。……つまりはそう言うことだろう。
大男は頷く、そして立てかけてあった長い剣を手に取り、私から魔剣を取った。
そして、両者の刃を向き合わせ、思い切りぶつける!
ガキン!っと鉄がぶつかり合う音が倉庫に響く。
大男の手には傷一つない魔剣と、同じように傷一つない長剣があった。
大男は私に魔剣を返して言う。
「この魔剣は切れ味も、耐久力も俺のどの作品とたいさねぇ。この中にある俺の剣は全てさっきと同じことをして同じ結果になる。」
「なら、普通のナイフと変わらない。」
私の感想に、大男は首を振った。
「いや、それは違う。」
その後の言葉は、私の耳を疑った。
「コイツは最強の魔剣だ。」
「……は?」
何の能力も無い、ただの魔力を帯びたと言う魔剣としての最低条件しか満たしていないナイフが最強の魔剣?
そう突っ込むことを我慢して、大男の話を聞く。
「魔剣てのは、どいつもコイツも大きな代償を払って能力を使う。…俺はそのせいで死んだ奴らを見てきた。ドラゴン退治のために魔剣を使って死んだドラゴンスレイヤー、その称号を貰ったのは奴が死んだ後だ。オーガ3体と互角に戦った俺の知り合いは魔剣の能力を使い右腕を犠牲にしてオーガを撃退した。奴はもう死んじまっていねぇが、あいつのその後の人生は寂しいもんだったよ。剣も握れない、栄光だけが残った人生なんてそんなもんだ。だが、コイツには能力が無い!それは無能って訳じゃねぇ、まだ能力を発動する魔力が無いだけだ。」
それは、自然から魔力を吸収しきれていないと言うことか?
魔剣に詳しくはないからよくわからない。
「…どう言うこと?」
大男の顔は自慢げだった。
「魔剣は自然の魔力の他に、使用者の魔力を吸収する。…使用者ってのは魔剣に魔力を流した奴のことだ。そいつが魔力を流して魔剣を使った後、魔剣はその後も少しだがそいつの魔力を吸い続ける。…まぁ、魔剣に触れている間だけだがな。それで魔剣は成長するんだ、この世界にある魔剣は全て数多くの使用者の魔力を蓄え続け成長し、完成したものだ。だから能力も強力な上、代償も大きい。」
そう言ったうえで、大男は笑顔で魔剣を見て言った。
「しかし、そいつにはその魔力が無い。コイツは純粋で、発展途上だ。言ってしまえば、コイツの能力は『成長すること』だ。それも、お前の魔力だけで。」
「…私の、魔力だけ?」
大男は大きく頷く。
「コイツは完全にお前だけの魔剣になる。お前の魔力で成長して、お前に合わせて能力を身につける。…いわば、お前に従順な魔剣になる。お前に合わせて成長するからお前に無理な代償を払わせることもない、魔剣にふさわしく無いほど『安全』な魔剣だ。」
「……それは。」
なんて強力なんだ。そんな言葉が漏れてきそうだ。
「そんじょそこらの使い物にならねぇ魔剣より強い…そう思うだろ?」
大男の笑みにつられて笑ってしまう。
「どうだ?」
その問いに、私は力強く答える。
「……もちろん、貰う。」
私は、そう言って魔剣を握る。
心なしか、私の手に馴染んだ。
剣が纏った淡い光は、なぜか暖かく思えた。
当分は新作を書く予定ないです。
この作品で手一杯です。




