死屍累々
前回のタイトルが少しふざけていると思ったので、今回は真面目な感じの四字熟語で。
詰所の中で私は向かってくる男たちを次々と斬り倒した。
まるで、組織を潰した時のように。
「おい!そっち行ったぞ!」
「こいつっ!速いっ!」
「うわぁぁ!足をやられた!」
「マイクっ!クソつこのガキ!うぐぁ!?」
問題なく進めてはいるが、敵の数は一向に減らない。
危険はないが…
「…面倒。」
「ぐぁぁ!」
「うわぁぁ!」
「デリー!シュバ二!」
「応援を!もっと人数がいる!」
本当に…数だけはいるなぁ。
ナイフじゃ限界があるか。
「おい!何だあれは!」
「糸か?何をするつもりだ!」
「気をつけろ!何をするか見逃しては…」
ヒュン ヒュン スパッ
注意を促している時が一番油断していることに気づかないマヌケは先に殺しておくに限る。…これで周りの動きが鈍くなる。
「なっ!?」
「何が起きた!…嘘だろ……。」
「ミラズ副長がいきなり…。」
「首が…一瞬で切れるなんて。」
思った以上に効果があるな…今がチャンスだ!
ヒュン!ヒュン!
「うわぁぁ!」
「う、腕が!俺の腕がぁぁ!」
「無ぇ!俺の足が無ぇ!!」
「なんなんだこいつ!なんなんだよこいつは!」
鋼糸の良いところは射程距離と乱戦時の取り回しやすさにある。
辺り一面に攻撃するから味方まで斬る可能性があるのは難点だが…今は問題ない。
本気で暴れまくってやる。
鋼糸を高速で操り、詰所の人間を斬る!切る!殺る!
阿鼻叫喚?地獄絵図?いやいやただの害虫駆除。
今朝行ったムニーラビット狩りと同じだ。
シェリアに比べればここの人間なんて私からすれば羽虫同然、それに先に手を出したのはこいつらだ。
泣こうが喚こうが問答無用、慈悲はない。
私は走り回り、時に跳び回り、斬りまくり、そして切りまくった。
そして、敵を200ほど斬ったくらいに(数など覚えてないから体感だ)詰所の奥にある牢獄部屋まで辿り着いた、この詰所はかなり大きいから20分ほどかかった。
「まぁ、それもこれで終わり。」
もう敵はいない。
辺りに人の気配はもう感じない。
シェリアを助けたらアンナを探して合流し、すぐに帝国を出るとしよう。
幸いなことに3人とも獣人じゃないからそこまで迫害を受けたりはしないだろう。
入国で手こずるかもしれないけど。
……いや待て。
『人の気配はもう感じない』?
最低でもシェリアは中にいるはずなのに?
私は牢獄部屋に入る扉を開ける。
中にはいくつもの鉄格子で区切られた牢が並んでいる。
しかし、中に人は1人もいない。
…シェリアさえ存在しない。
私は詰所入り口で戦った隊長と呼ばれていた男の言葉を思い出す。
『……俺は、お前の妹など見たことは無い。』
しかし、彼は私の事を知っている……いや、私が来ることを知っていた。
シェリアのことも……。
「おやおや…なかなか酷い有様だな。」
「っ!?!?」
私は振り返り、距離を取る。
ここが詰所の奥なため、後ろは行き止まりだ。
私の前には青髪で右目に大きな傷のある隻眼の男。
「しかし、これで君に逃げ道は無い。」
「……シェリアはどこ?」
「シェリア?あぁ、君の妹さんかな?何処にいるかはわからないな、だが今頃は警備隊に追われているか既に捕まってるだろう。」
…そうか、まだ捕まっていない可能性があるのか。
「なぜ私たちのことを?」
「…フンッ、ミルドだよ。」
ミルド…そうか、あいつが情報をこいつらに教えたのか。
まぁ、当然だろう。
惚れたなんだ言っていたのだって私を安心させるためだ…決して私たちを守るためじゃ無いのだ。
情報を漏らした私が愚か者だったのだ。
「まぁ、そんな話は君を捕まえた後にゆっくりと話してあげよう、取り敢えずは君をここじゃ無い他の詰所に入れないとねこちらもあまり時間がないのだよ不法入国者を野放しにしていられないと上司が煩くてね…不法入国と大量殺人、あとはギルドカードの偽装かな。」
これは少女が犯せる罪の範囲を超えているな…などと男は言うが…そもそも私は帝国に捕まる気はさらさらない。
「…大人しく、捕まりなどしない。」
「それは私と帝国が困るな。」
ヒュンッ!
男が言い終わらないうちに、私は奴に鋼糸を飛ばす。
鋼糸の操り方は、長さにはかなりの差はあるけれど、基本的に鞭と似ている。
巻き付けたり、斬ったりするのが鞭とは違うところもあるが…。
鋼糸はかなりのスピードで男に向かっていく。
何処に当たっても致命傷になるのは間違いはない。
ピキンッ
「驚かないのか…大した精神力だ。」
「……武器を持っていない、それだけで察しがつく。」
「…戦い慣れしているな、警備隊が簡単にやられる訳だ。」
鋼糸は届かなかった、当たる寸前に何か見えないものに阻まれたのだ。
…考える必要はない、魔術だ。
私は魔術に詳しいわけではないが、その人の信条や考え方によって魔術は形作られる。
つまり、職業や性格で大体奴の能力を測れる。
まぁ、今回はそこまで深く考える必要はないか。
…透明な防御壁それが彼の魔法だ。
しかし、他にも魔術は使えるだろう。1人1つという制約はない。
十分に警戒して戦わないと。
ドゴンッ
「ぐあぁ!?!?」
「ボーッとしている暇はないと思うがね?」
いきなり…吹っ飛ばされた?
男が動いた様子は無かった…いや、彼は動いていたな…右手を前に出してる。
私が考えてる間に防御壁を作り、私に飛ばしたのか。
防御が攻撃になる…厄介だな。
「ご察しだとは思うが…私の魔術は防御壁、君の攻撃は通用しない。それにこいつは頑丈な上に重い、君を潰すにはおあつらえ向きだとは思わないか?」
「…。」
骨は折れていない、内臓も無事…しかし思った以上に体力が削られた、不意打ちはこれだからタチが悪い。
「さっきも言ったとは思うが…時間がなくてね、さっさと終わらせる。」
男の右手が私に向けられる。
私は思い切り右に跳ぶ!
しかし…
ドゴッ
「ぐっ!」
「いい判断だけど、それでは完全とは言えないな。」
横にかわすだけでは不完全…先ほどとは違い、体を横から殴られたような衝撃があった。
「警備隊とは違い、かなり苦戦しているようだね。」
男は余裕綽々と私に語りかける。
「実を言うとね、私は君を生きて牢にぶち込む必要はないのだよ。君の死体を上司に見せるだけで私の仕事は完了だ。」
「…私は……死なない。」
「這いつくばってるその姿じゃ、説得力は無いね。」
ニヤリ…と私は笑う。
「防御壁の攻撃…体に当たった。」
「いきなりなんの話だい?」
男は少し困惑気味に言う。
「私は暗器を隠し持ってる。」
「…それで?この距離で私を殺せる魔術のような飛び道具でもあるのかい?」
「…フフ……あるよ。」
男が身構える…しかしもう遅い。
その魔法はもう始まってる。
「…体……重くない?」
「何?……なっ!?これは…毒か!!」
男の体は力が抜けたようにガクリと倒れ、男は膝をつく。
毒…これが私の魔術。
私の作った特製の神経毒だ、いつもは道具袋にしまってあるが…仕事時には2、3本を懐にしまっている。
この神経毒の特徴はガラス瓶で密封しているうちは問題ないのだが、開封して時間を置くと『気化』してしまうところだ。
針に塗って使うには不便だが、針を使うときは瓶の中に予め入れていたり、塗った針を空気に晒さないようにしまったりするだけでいいからそこまでではない。
それに気化してくれた方が今回のように自爆戦法も取れるのだ…こう言う詰所のような屋内限定だが、そもそも暗殺者だったから屋内先頭の方が多いのでこう言う作戦が多く取られるのは仕方のないことだと思う。
「クソッ…最初からこれが狙いだったのか。」
「魔法使いに正面戦闘…それは無謀。」
「クッ…やはり戦い慣れしているか。」
違うけど相手が悔しがるならこう言う嘘をついてもいいと思う。
「そういえば…ミルドの事だが、勘違いしないように…教えてやる。」
「…何?」
ミルド…勘違い?何のことだ。
「君は…ミルドが裏切ったと、そう思っているだろう?」
「…そもそも、協力してない。」
「フフフ、私は君たちの…やりとりを知っている。今更隠す必要はない。」
「………。」
見られていたのか…。
「私が君を襲ったのは…ミルドが情報提供したから……ではなく、ミルドの裏切りを恐れてだ。」
「…裏切り?」
「ミルドは……帝国ではなく、君に協力すると言った……それは君が帝国に、敵対した瞬間にミルドが寝返ると言うこと…それはマズイんだ……だから、危険な芽は早めに摘んで…ミルドにも頭を冷やしてもらう、それが目的だった。」
「敵対するつもりはなかった。」
男は顔を真っ赤にする。
「そんな言葉を信用できるかっ!!それに女の言葉1つで国が滅ぶ状況は危険だ!!お前の一言で国の1つや2つ簡単に滅ぼす。それなこと…あってはならない。」
男は足を震わせ…ついに倒れる。
息が荒い…毒が全身に回ってきている。
「しかし…作戦は失敗か、ハァ…ハァミルドはきっと帝国を抜ける…君の妹も捕まえられなかったよ……あの転移魔術は厄介だね。その上…なぜか今回…部隊の統率がうまく取れなかった……天の時は我々に味方しなかったようだ。」
「……本当に?」
思わず確認してしまう、それが本当ならかなり嬉しいが…アンナさんは部隊に潜入して撹乱していたのか、通りで警備隊が知らない訳だ。
「今更…嘘をつく必要はない。」
男は笑う…ニヤリと、さっきの私のように。
まるで勝利を確信したかのように。
そして…死を覚悟した人間のように。
「真実を知っても…お前は妹に会うことはない!」
「なっ!!」
ピカッ
男の体が七色に発光する。
これは…自爆か!?
しかし、逃げようにも出口は男側にある。
もう…間に合わないか。
ドゴンッ
突然私の右側にある壁に大きな穴が空く。
そこから中に入ってくる人影。
…誰だ?
しかし…それを確認するより早く。
ドガーーン
私の意識はそこで途絶えた。
この日、帝国にある9つの詰所。
その中でも2番目に大きいとされた繁華街2番地にある詰所が消えた。
詰所内部にいたとされる300人の警備隊のうち、3人は詰所の外で死亡、2人は意識不明だったが3時間後に病院で目を覚ました…両者ともに神経に後遺症が残ったらしい。
残りの295名は行方不明…しかし、皆がわかっていた。
295名は…詰所と共に消えたのだ。
この日、消えた詰所の代わりに帝国は大きな傷を負った。
今回は朝投稿!
時間に規則性が無くなってきた!!




