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腹黒い妹

明日から旅行に行きます。

書きだめがあるのである程度は投稿できますが、毎日投稿は難しいかと。


ご容赦ください。

唐突だが、私の仕事は冒険者である。

つまり、誰かからの依頼を受けてその仕事を全うする雑用である。

王国はそんな冒険者を管理するギルドがあって、私はそこに短い期間だが所属していた。

その証拠に、ギルドカードを持っている。ギルドカードは身分証明書であり、私の職業を示すものでもある。


しかし……現在私は国家逃亡者であり、不法入国者でもある。

つまり、このギルドカードは使えない。

私は仕事をしようにもできないのである。

「…どうしたものか。」

「もう冒険者を諦めたら?危険だし…。」

「シェリア様、ナナさんの年齢で他にできる仕事は限られます…それにナナさんの実力は並大抵のものではありません。冒険者はナナさんにとって天職なんです。」

「…そっか…なら新しいギルドカードを作るのはどうなの?」

「…無理。」

私はきっぱりと否定する。

「ギルドカードを作った時、ギルドに私の情報が回る。偽装や複製は…不可能。」

これは犯罪を犯し、ギルドカードに犯罪歴が載ってしまった冒険者が新しくギルドカードを作ろうと画策した時のための対抗策だ。

そう、ギルドは過去の犯罪については不問だが…冒険者になってからの犯罪には厳しいのだ。

このような不正行為は特に厳禁である。

つまり今の私のような輩は問答無用でお縄だ。

どうしたものか…。


「ねぇ、お姉ちゃん。」

「…なに?」

シェリアの目が悪戯っ子のように光る。


「私が作ろうか?ギルドカード。」



現在、私たちは冒険者ギルドの玄関前にいる。

「……本当にするの?」

「えぇ、きっとうまくいくわ!」

「…お嬢様、あまり目立たないようにお気をつけください。」

…心配だが、うまくいけば確かに私は働ける。

しかし…うまくいくだろうか。


思案している間に扉は開かれた。


「いらっしゃい、冒険者ギルドへようこそ!」

元気な声で挨拶をする受付嬢。

緑色の制服がよく似合っている。

「冒険者登録をしたいのだけど…できるかしら?」

「…は、はぁ……できますけど。」

傲慢なシェリアの声に当惑しながらも肯定する受付嬢。

隣に座っている赤色の制服を着た先輩らしき受付嬢が心配そうに緑色の受付嬢を見ている。

「ならさっさと登録きてちょうだい。」

「は、はい、ではこちらの水晶に…。」

「めんどくさいわね…ほらこれでいいんでしょ?」

「はっはい!ありがとうございます!」

本当にめんどくさそうに水晶に魔力を流す。

この魔力をギルドカードとギルド本部に保存し、冒険者登録はほぼ完了だ。

ちなみに、この魔力が偽装複製防止のネタだったりする。

シェリアには冒険者登録の方法は事前に伝えてあるから無駄なく登録は終わる。

受付嬢はシェリアの傲慢な態度にかなり怯えている…きっと今頃どこの貴族の娘だろうかと考えているのだろう。

……他国の王族の娘とは思うまい。

その後、いくつかの質疑応答を経て冒険者登録は完了だ。

「はい…これで登録は終了です。」

「はぁ、やっと終わったわ…本当に無駄な時間ね…もっと早くできないのかしら?」

受付嬢の体がビクッと跳ねる。

「いや…その…大切な手続きですので。」

「チッ…これだから無能は…。」

「……。」

私はシェリアの『演技』に言葉を失っている。

わかっているとは思うが彼女の態度は全て演技である。

この演技にはちゃんとした理由もある。

「ねぇ、冒険者の仕事には『道具』を使ってもいいのよね?」

「…?えぇ、問題ないですけど…。」

「そう、なら『これ』を使ってもいいのよね?」

「…っ!?」

シェリアが指をさした方向を見て受付嬢の顔が驚きで染まる。心配そうに見ていた先輩らしき受付嬢も同じくだ。

そりゃ驚くのも無理はない。

なぜならシェリアは『私』を指差していたのだから。

そう、これが彼女の作戦。

名付けて『貴族の犬作戦』である。


シェリアが冒険者登録をして、彼女の奴隷として私が仕事を代わりにする。

お金はちゃんと稼げる上に私のギルドカードは必要ない。

…確かにいい作戦だが、大丈夫だろうか?


「…少し、確認を取ってきます。」

「必要ないでしょ?これは私に従順よ。」

「しかし…上の許可は必要ですし。」

「そっちに私より上がいるのかしら?」

「いや…えっと……。」

どうやら受付嬢はシェリアをかなり偉い貴族の娘だと考えているらしい。

これが『演技』の理由だ…ハッタリともいうが、受付嬢には効果抜群だったらしい。見事にシェリアを怖がっている。

このままシェリアのギルドカードに私の名前と魔力を登録させて仕舞えばこちらの勝ちだ、奴隷としての私の魔力はギルドへ行く事はない…いちいち『道具』の魔力までギルドは保管しないのだ。

さぁ、認めるか…認めないか。

もし認めないのならすぐに切り上げて帰るだけ…私たちに被害は出ない、得もないけど。

これはノーリスクの賭け、できればいいな位の願望である…期待はしない。

しかし…

「……わかりました…彼女をシェリア様のギルドカードに登録します。」

「…そう、わかればいいのよ。あとアレは彼女じゃなくてただの『アレ』よ。」

「!!…すみません。」

受付嬢はもう涙目だ。

可愛そうだが…私たちの生活のためだ、いつか償いにプレゼントでもしようか…いや、奴隷とみられている私がプレゼントはマズイか。

そんな時、シェリアが私の頭を乱暴に掴んで受付の前に出す。

「ほら!ぼーっとしてないで登録しなさい!あんたの為に使う時間なんかないのよ!」

「……はい。」

…幸いなことに、奴隷の役は慣れている。

自ら動かず、自ら喋らず、自らの意思は無視して主人の命令のみに従う。

これだけでいい、簡単なことだ。


そして、私の手がシェリアのギルドカードに触れようとした瞬間。


ドンっと扉が勢いよく開かれる。

皆が一斉にそちらを見た。


「よう…久しぶりだな、お嬢ちゃん。」

「なっ!?」


そこにいたのは、燃えるような赤ひげの大男。

シェリアちゃんの演技力は学園で身につけた。



…かもしれない。

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