過去の伝説・生ける伝説
少し前の話のオマージュがあります。
読み返したいという聖人君子様は
24話『扉は』を読み返していただくとよろしいかと思います。
昔々、王国で最も有名な魔道士がおりました。
その魔道士はあらゆる魔法を使いこなし、王国をずっと守っておりました。ある時は敵国の軍隊を一人で蹴散らし、またある時は襲いかかるドラゴンの群れを焼き払いました。
その魔道士の名声は、王国のみならず他国にまで広まり、瞬く間に伝説となりました。
しかし、年月は流れて魔道士は年老いて行きました。
魔道士の実力は衰えることはありませんでしたが、魔道士は自身の実力に満足できなくなりました。
魔道士は力を求めました、最初の頃は王国の為という立派な理由だったのでしょう。しかし、だんだんと魔道士の中には悪い心が生まれ始めました。
王国の為から、自分の為に。
国民の為から、お金の為に。
平和の為から、名声の為に。
いつしか彼は、王国の希望から、強欲の化け物になった。
「……ふぅ。」
埃っぽい書斎に少女の声がポツリと響く。
少しばかり大人びた雰囲気を感じるのは、彼女が成人して間もない年齢だからか…それとも精神年齢の高さ故か。
そんな彼女がいる書斎には、所狭しと本棚が並べられていた。
そのほとんどが昔、王国で名を轟かせていたとある魔道士の英雄譚である。
「なんともまぁ、愚かな人生だねぇ。」
しかし、彼女の英雄譚を読んだ感想はそっけないものだ…まぁ、その英雄譚自体が魔道士を褒め称える内容ではないことも事実ではあるのだが。
それでも、彼女はこの英雄譚ばかりで本棚を埋めているのは、何か特別な思い入れがあるのだろう。
「…本当に、愚かな人生だよ。」
彼女は英雄譚から目を離し、書斎の窓から生まれ育った帝国の景色を見つめる。
「……はぁ、何度見てもため息が出るなぁ。」
その表情に感嘆の色は無い。
どちらかといえば……
「なんで元敵国で生まれたんだろうなぁ。」
戸惑い……だろうか。
彼女は椅子から立ち上がり、英雄譚をテーブルに置くことなく、文字通り英雄譚から手を離す。
当然、英雄譚は手から滑るように自然落下し…床に落ちる直前にフワッと宙を舞いながら綺麗に本棚の中…彼女がこの英雄譚を取り出した時に空いたスペースへと収まった。
「さて…少し外出でもするかな。」
彼女はこの現象に驚くこともなく、無感動でもなく、ただただ無関心…というよりもその現象が当然であるかのように振舞っている。
……内心はこの現象に満足していることはナイショだ。
「せっかく生まれ直したんだ、この生活を楽しもうじゃ無いか。」
とある魔道士の手記の一節に、彼の夢が書かれている。
我の目的は【永遠の栄光】
決して古とならず、永遠に輝き続ける名声!
その夢は、現実となるのか。
「そんなもの…くだらないねぇ。」
それとも……
「せっかく女になったんだ…イロイロとヤリたいことやんないとねぇ……フフフフフ。」
新しい夢に邁進するのか。
それは彼しか知り得ないことだろう。
ただし、1つ言えることがある。
彼は、欲の塊であった。
この物語も40話を超えたかと思うとなんだか時代の流れを感じますね。
今では私もヨボヨボに…今では食べるものもヨーグルト?
いいえ、ケフィアです。




