閑話4)【無面】
今回はちょっとした裏話以上裏話未満(意味不明)
…もうこれ連日投稿でいいんじゃ?(よくない)
月並みな言葉だが、彼女は天才だった。
誰に訓練を受けたわけでもなく、そのような魔術を使っているわけでもない。
その天賦の才を彼女は幼少の頃から無意識のうちに理解していたのだろう。
彼女は自ら王国軍として戦争に参加し、功績を残すことになる。
彼女の残した功績は主に2つ。
しかし、その2つの功績が大きすぎた
6歳の時、有志による徴兵で参加した対帝国防衛戦。
この戦争は苛烈を極め、彼女のいた部隊はほぼ壊滅した。
部隊長が撤退を指示した時、彼女はその部隊の殿を務めることを志願する。
部隊長は困惑するが、それを認めた。
殿とは、部隊が撤退する際に追っ手を足止めをする役割のことだ。
殿を務めたものはほぼ生きて帰ってくることはない。
少数で大勢の追っ手に向かって行き足止めするのだ、生きて帰れないのは当然だ。
つまり、彼女の殿志願は自殺行為に近い。
というかもうこれは自殺行為だ。
部隊長の困惑も当然だろう、
「逃げるぞ。」と言った時に
「死にたいです隊長!」と言われたのと同じなのだ。
しかし、その危険度のために殿を務めることはとても名誉なこととされる。
敵を目前に逃げるくらいなら、と殿を志願する者がいないと言うことはない。
…まぁ、滅多にいないことには変わりないが。
そして、彼女はその殿を立派に務めた。
いや、立派に務め過ぎたのだ。
部隊が壊滅し、殿を志願した彼女に味方はいない。
そう、たった1人での殿だ。
……もう殿と呼んでいいのかも分からない。
しかし彼女は、たった1人で追っ手である正規の帝国軍に壊滅的なダメージを与え、撤退させてしまったのだ。
帝国軍を偵察していた、とある軍人はその光景を見てこう報告した。
「彼女は…帝国軍に歩いて、そう…彼女は歩いて帝国軍の部隊に、まるでパーティで貴族の集まりに知り合いとして混じるかのように入っていったんだ。そしたら急に部隊が同士討ちを始めて…まるで地獄絵図だった。」
その報告は、半ば信じられるものではなかった。
王国は彼女を招集し、その真偽を確かめた。
その内容は、王国軍の軍隊長との一騎打ち。
王国軍は、彼女の嘘のような功績を何らかの武術・魔術によるものと考えたのだ。
その結果は信じられないものだった。
体術・剣術などの武術は完全に素人、ひ弱な女児となんら変わらないものだったのにも関わらず、王国軍の隊長相手に善戦。
あと一歩で手持ちの木製ナイフを首に当てられるのではないかと言うところまで接近を許したのだ。
観戦していた王国直属の魔術師の分析から魔術の反応はないとされた。
隊長も、自身の名誉にかけて手抜きなどは一切していないことを誓った。
むしろ隊長自身が再戦を要求したと言えば、どれだけ隊長が悔しがっていたのかがわかるのではないだろうか。
彼女はこれで2度も王国の期待を裏切った。
武術も魔術も使わずに国相手に1人で立ち向かえる技術の持ち主。
これが、【無面】誕生の序章。
しかしながら、最終章はすぐだった。
その2年後の聖国との3度目の戦争。
彼女が8歳の頃だ。
彼女は王国特殊工作部隊の隊長として戦争に参加した。
しかし、彼女以外に工作部隊は存在しない。
完全に彼女のためだけの地位だと分かる。
しかし、それは正しい。
彼女に仲間をつけることは間違いなのだ。
それは6歳の頃の戦争で証明済みだ。
彼女の真価は多対一の時に初めて発揮される。
今回もそうだ、彼女はたった1人で聖国に侵入し、3人の重役を暗殺した後に国家機密レベルの情報を無傷で持ち帰った。
第三次対聖国戦争、これは現在でも世界中で語り継がれる。
それは何故か?
この戦争はほかの戦争と違い、『何故か』開戦する前に終戦してしまった戦争なのだ。
聖国の大槍隻眼の男
帝国の赤ひげの大男
歴史の闇を知るものはこの2人に加えてもう1人、ある人物を加える。
王国の鬼札【無面】
性別も名前も分からない、存在そのものが怪しまれるその人物はその行方すら闇の中である。
「アンナ!今日の晩御飯はなに?」
「さて…何にいたしましょうか?」
「……シチュー作りながら言う言葉じゃないわよ。」
「シェリア嬢ちゃんもシチュー見ながら晩御飯何か聞いたじゃねぇか。」
「これは社交辞令よ!」
「ならばアンナの冗談も社交辞令ではないのか?」
「…グリズリー、狩ったよ。」
「ナナ!血まみれのお前も美しいぜ!」
「黙れミルド!お姉ちゃんから離れろ!」
「お嬢様…はしたないですよ。」
むしろ、知られない方が当時の人の精神衛生上良いのかもしれない。
変装不要の【無面】の素顔。
それは現在成人きて間もない『少女』と言う言葉がまだ似合う従者。
シェリアの専属従者アンナだ。
王国特殊工作部隊隊長はもういない。
【無面】という仮面は剥がれた。
彼女は本当に【無面】となったのだ。
彼女の【無面】としての人生は始まったばかりである。
後書きに書くことがないので書きません(嘘)