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失敗と謝罪

ギリギリ投稿できた!!

パーティ当日、私はニルナさんを護る為に彼女の護衛に付いた。…しかし、私が堂々といかにも「護衛です!」みたいな感じで近くにいるとメアリー・モーニスのみならず他の貴族たちも警戒してパーティの邪魔をしてしまうので、私は隠れながら護衛しなくてはならない。……まぁ、私の暗殺技術を駆使すれば簡単なことだが…目的が『護る』というのは初めてで少し緊張している自分に驚く。


しかし、緊張からの失敗なんて無様なことをするほど素人ではない。

…失敗は、『あの時』だけでもう十分だ。

二度目の失敗は許されない。

もう私が私を許せなくなるから。

ニルナさんは私のことを信じていますと言ってくれた。


『…そうですか、殺人鬼が私を…。』

『はい、しかし私たちが貴女を常に護衛するとなるとパーティ会場に混乱を巻き起こしてしまうやもしれません。それでは余計に護衛にとって支障となります。』

『そうですね。パーティに護衛を付けるはマナー違反です。相手方への信頼を欠くことになりますので私にとっても不利益です。』

『そこで、貴女の護衛をこの子に任せます。勿論、この子にも護衛中は姿を隠すように指示しておりますので。』

ニルナさんは私を見て微笑む。

桃色の柔らかい髪と金色の瞳が優しい雰囲気をさらに強くする。

まるで春の陽気に包まれたような暖かさだ。

『そう、シュビネーが私を任せる相手です。それなり…いや、かなりの実力があるのでしょう。人は見かけによらぬものです。……お名前は?冒険者様。』

『…ナナ、です。ニルナ様。』

『様など不要です、ナナさん。貴女を信じています、私が心から安心して家まで帰れるように、守ってくださいませ。』


ニルナさんの笑顔は優しかった。

心から信じてくれているのが人間不信気味の私でもわかる。

この人を絶対に守り抜く決意を改めて固めた。

もう絶対に私の前で私を信じてくれている人を失うことは『僕』が許さない。


任務は、既に始まっている。



殺人鬼を血眼で探している私を尻目に、パーティ会場はかなり盛り上がっていた。

今回のパーティは大物が揃い踏みで、国王も登場するらしい。

…なんでも、国王の末っ子が誰かに攫われたらしく、その捜索に協力する者たちが集まって親睦や繋がりを強める為のパーティらしいが…そんな事してる暇があれば探せばいいのにと思う私は貴族に向いていないのだろう。

…『妹』なら私なんかよりも上手くやれるだろうと思う。気遣いができて優しい妹は貴族でも上手くやれるだろう。

そんなことをふと思った。


…そういえば、妹のことを考えたのは今世では初めてだ。前世では四六時中妹のことを考えていたというのに、環境が変わると人間はこんなにも変わってしまうのか。


……妹は、もう天国にいるのだろうか。

奴隷になって生まれ変わった私とは違い、妹は転生してもっと幸せになってくれているだろうか……。


…会って……みたいな。

でも、会って『僕』だとわかるだろうか。

性別すら変わってしまった『私』を兄だと気付いてくれるだろうか…。


そんな他愛もないことを考えているうちに、パーティはどんどん進行していく。

…ついに、国王が登場する。

偉そうにしている貴族が慌てて頭を下げる姿は衝撃的で笑劇的だ。面白いものではないがどこか演技くさいという意味で笑劇的だ。


それから国王のスピーチが始まる。

内容はあまり覚えていないが、そこまで国王が慌てていないのが印象的だ、なんでも今回が初めてではないらしい。…王族の末っ子はお転婆なのだろうか、しかしながらそれでも国王の落ち着きっぷりは異常じゃないか?

…いけない、人間不信が元気になってる。

私も緊張しているのかな………っ!!?


見つけた!!

ニルナさんの5メートル程後方にいる。

殺人鬼、メアリー・モーニスの姿。

血のように紅い髪と同じように紅い眼。

その視線はニルナさんの方向に注がれているのがわかる。彼女がそれを隠そうとしないのはその自身故か、それとも気づかれていないと思っているのか。


どちらにせよ、私のすることは一つ。



ニルナさんを徹底的に守り抜くことのみ!


「だけど…まだダメ。」

奴を無力化するのは彼女がニルナさんに襲いかかった瞬間だ。

反論の余地を許さない『現行犯での捕縛』が望ましいとシュビネー伯爵に言われた。なんでも、彼女が明確な証拠を残していないので捕まえてから連続殺人について吐かせるつもりらしい。

…まぁ、ネイデンさんもそれを望んでいるから私はそうするしかない。

依頼人の要望には最大限応えないと。


メアリー・モーニスの犯行手順から、きっとニルナさんへ接触した後、帰宅に同行するふりをしてパーティ会場を抜け、帰り道で襲いかかるだろう。

つまり、彼女がパーティ会場でいきなり襲いかかることはないはずだ。

……絶対とはいえないので集中を切らすことはできないが。

私は細心の注意を払い、メアリー・モーニスの一挙一動を観察して来たるべき時に備える。


集中していると、時間があっという間に過ぎるもので夜が更けて月が窓を照らして来る時間になった。……ニルナさんが帰る時間になる。

ニルナさんはパーティ会場の入り口にいる執事らしき人に話しかけ、外に出た。

取り巻き数人が一緒に外に出る。

メアリー・モーニスもその中にいる。

当然、私もこっそり後をつける

帰り道は少し騒がしいが、うるさいほどではない。ちょっとしたお喋りだ。


帰り道をどんどん歩いていくほどに人の数も減っていく、残りはニルナさん合わせて3人。

当然、メアリー・モーニスはその中にいる。

「それでは私はこの辺りで失礼いたしますわ。」

「えぇ、お気をつけて。楽しかったわ。」

「そう言われると光栄です、ありがとうございました。」

メアリー・モーニスを置いて、2人で話しているニルナさんともう1人。

メアリー・モーニスはそれをのんびりと待っている…まるで獲物の隙を伺う獣だ。

そして、ニルナさんとメアリー・モーニスの2人きりになった。

「…2人に、なりましたね。」

「……そうね、ところで…。」

ニルナさんがメアリー・モーニスの方を向く。


「貴女…誰なの?」

「…あなたの取り巻きの1人。」

ニルナさんは眉をひそめる、どう見てもそのような雰囲気ではない。メアリー・モーニスはかなり殺気立っている。




「…とでも言えば安心するかしら?」

「っ!?!?」

メアリー・モーニスの左手には銀色に輝く一本のナイフ、切れ味は見るからに鋭い。

ニルナさんは恐怖で体が震えている。

「…この時を、何年待ちわびたことか…。」

「…こ、来ないで。」

ニルナさんが後ずさる、しかしメアリー・モーニスはどんどん近づいて来る。


「あなたで最後なのよ、最後…最後よ最後、絶対に逃がさないわぁ…殺してから何度も切り裂いて可愛く化粧してあげる。…あなたの腹わたで真っ赤にねぇ!」

「ヒィッ!?!?」

メアリー・モーニスがナイフを振りかぶる!


ガンッ


当然だが、それを見過ごす私ではない。

メアリー・モーニスの左手首を掴んで止める。

「なっ!?」

「ナナさん!…良かった、来てくれたんですね!」

ニルナさんが歓喜と安堵でへたり込む。

しかし、そんな暇はない。

「逃げて…早く!」

「!はっ…はい!……でも、ナナさんは…。」

「すぐに行くから…早く行って。」

「…必ず警備隊を呼んできます。それまで生きていてください。…信じてますからね。」

ニルナさんが真剣な表情で言うが、私はそもそもここで死ぬつもりなどない。

私は、幸せになるまで死なない。

「…当然。」

ニルナさんが走っていく、メアリー・モーニスは左手を掴んでいる私の左手を話そうと右手で殴ったり蹴りを入れようとするが、素人の体術じゃ私の体に掠ることすらできない。

「クソッ!何なのよこのガキ!」

メアリー・モーニスが左手のナイフを右手で持ち替える、そして私に切りつける。


そんなの想定済みだ。


「口が…悪い。」

「うっ!?…なぁ!?」

左手を離し、ナイフを屈んで躱す。

そして屈んだ姿勢から彼女の足を払う。

彼女は無様に尻餅をついた。

本来ならここでとどめを刺せばいいのだが、殺さずに捕縛しなければならないので、まずは武器を奪おう。


…と、思ったその矢先だ。

ドガッ

私の左肩に直径3センチ程の穴が空いた。

「なっ!?」

何が起きた!?武器はナイフだけじゃないのか!?……メアリー・モーニスは笑顔だ。

「…フフフ、こんな屈辱は二度目よ。あのジャック・カルーダ男爵にもこんな感じで転ばされて殺されかけたわぁ。」

「…彼を……知ってる?」

この傷の原因を特定するまでは…時間を稼ぎたい。不本意だが、会話を続けさせる。

「えぇ知ってるわよ…とても良く知ってるわぁ。死因も、誰に殺されたかも知ってるわよぉ。彼の死因は私、そして誰に殺されたかもやっぱり私。彼は私がナイフを振り回すだけの狂人とでも思ったのかしらねぇ?」

その言葉でやっとわかった。

彼女の最強にして最凶の武器。

「…魔法?」

その言葉にメアリー・モーニスが嗤う。

「あらあら、やっとわかったのねおバカさん。あなたの体術には驚いたけど、私の魔法に…いや魔法を発動したことにすら気づかないってことは……あなた魔法に関しては素人でしょ?」

「……。」

「フフフフ、沈黙は肯定よ?お・バ・カ・さ・ん。あなたはこれから何が起きてるのかすらわからずに死んでいくのよ?まぁ、おバカさんにはお似合いの死に方かしらねぇ?」

ドガッ、ドガッ

「うぐ…うぁ。」

その瞬間、私の左腕と左足に穴が空いた。

「どうかしら?急に体に穴が空く感触、滅多に味わえないから貴重な体験よ?因みにぃ、カルーダ男爵には穴を空けずに切り傷だけ付けてあげたのよ。穴を空けるのはあなたが最初、ハジメテは嬉しいかしら?気持ちいいとイイわねぇ?」

私は彼女から距離をとり、彼女の周りを走る。

彼女は呆気にとられたのか私を目で追おうとするが、早すぎるのか諦めた。

しかし、彼女の顔から余裕は消えない。

ドガッ、ドガッ、ドガッ

私の足元、私の後方の壁、そしてまた足元に穴が空く。

「……チッ、ちょこまかと鬱陶しいわね。」

「……。」

私は何も言わない、少しずつ彼女の魔法のタネがわかった。最初は何かを飛ばしてるのではないかと思ったが、それにしては破壊力は少ない。

それに、ジャック・カルーダ男爵には切り傷だけつけたと言った……。

つまり……これは空気や風なのだろう。

確証はないが、これだけ攻撃されて何も見えないのは空気だからだとしか思えない。

…私の動体視力はかなり良いのだ。


しかし、この攻撃は厄介だ。

ナイフでの攻撃は諦めるしかないか……。

なら、次の攻撃は『アレ』しかない。


そう思い、走りながら準備を進める。

右手に10センチ程の長針を三本持ち、投げる!

ビュンッ

「無駄よ!」

ドガッ、ドガッ

長針は空中で弾かれ、また私の左太腿にも穴が空く。防御と同時に攻撃もしてくるとは…。

……正直、油断していた。


「あらあら、ドーナツみたいに穴を空けられてもまだ私を睨む気力があるのねぇ、もしかして蜂の巣みたいにされたいのかしらぁ?」

ドガッ、ドガッ

「…うぅ。」

次は右の太腿、そして右腕。

もう私の体は血まみれだ。

「フフフ、最初は私を捕まえようとして手加減したのに、今では形成逆転ねぇ?どうかしら?油断したせいで殺されそうになる気持ちは…悲しい?それとも悔しい?」

……残念だな、これでは死んでしまう。

もう立っていられない。

これでは……





首にしか狙いが定まらない。

ヒュン

「…え?」

スパッ


崩れ落ちた……メアリー・モーニスの体に。

首から上は無くなっていた。

元から鋼糸を使おうとは思っていた、あの長針は彼女を油断させるフェイクだったのだが、まさか防御と攻撃を同時にしてくるとは思っていなかった。……魔法を少し舐めすぎた。

あと少し……あと二周彼女の周りを回って正確に距離を図れていれば右腕だけ切り落とせたかもしれなかったのに……。


今回ばかりは…私の力不足。

というより、私の心構えの問題だ。

彼女を守ることには成功したが…仕事は失敗だ。


「…ごめんなさい。」

この謝罪は…誰に向けられたものなのか。

少し内容が重いかも?

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