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真実は近い

謎が解ける回

ジャック・カルーダ男爵が殺害された。

それは今までの事件についての前提が覆されたということになる。

ギルドに帰り、個室で4人が座っている。

シュビネー伯爵の表情が暗い。

「……なぜだ、犯人は他にいるのか?」

「…そう考えるしか…ないでしょう。」

ラディリエさんの言葉に俯くシュビネー伯爵をネイデンさんが慰める。

相当なショックだろう、今までの推理を完全に否定されたのだから。


私はこの事件について真剣に考える。

第1の犯行

ジャック・カルーダ男爵は被害者と接触、

つまりアリバイは無いのと同じ。


では第2目の犯行

ジャック・カルーダ男爵は被害者と接触していない上に同じ時間に別の場所でパーティに出席していた。

なんらかのトリックを使わないと被害者と接触することは不可能だ。

それは第3の犯行でも同じことが言える…


そして第4の犯行

ジャック・カルーダ男爵は被害者と接触、

なぜここで彼はトリックを使わずに被害者と接触したんだ?

…トリックを使う必要がないから?


それとも……





そもそもトリックなんてものが無かったら?

つまり、第2第3の犠牲者は……!!



私たちは盛大な勘違いをしていた!



彼は確かに犯人なんだ!少なくとも最初の犠牲者は彼が殺している!


しかし、犯人は他にもいたんだ。


「シュビネー伯爵、2人目の被害者は誰と帰った?」

「…え?2人目の被害者?……確か…複数の女性たちと一緒に帰ったはずだ。そのあとジャック・カルーダがなんらかのトリックで…」

…やっぱり、そうだ。今確信した。

「ジャック・カルーダは…殺してない。」

「…なんだって!?」

私の断言に驚くみんな、しかしこれが事実のはずだ。こうとしか考えられない。

「ナナちゃん、それはどういう事だい?」

ネイデンさんが訳がわからないと聞いてくる。

「ジャック・カルーダ男爵が殺していないなら……一体誰が殺したの?」



「犯人は2人、ジャック・カルーダ男爵…そしてもう1人は女性。」

「女性!?犯人は男性ではないのか!?」

シュビネー伯爵の疑問はごもっともだがこれが最大の失敗だった。


「ジャック・カルーダ男爵が怪しい……そして初めから男性に犯人を限定。これが犯人を見逃した理由。初めから2人目の被害者と共に帰った女性を疑うべきだった。」


それから、私は皆に推理した犯人の殺害方法を話した。…推理と言っても拙い考えだが。


犯人は初めから居たのだ。貴族の女性の取り巻きの1人として堂々とパーティに参加していた。そして一緒に帰ると言ってパーティを抜けて、2人きりになったところを殺害。


これが殺害の手順だ。

簡単で単純な方法、これに気づかなかったのは前提条件が間違っていたからだ。

普通なら簡単に気がついていただろうに。


「だが、取り巻きは複数人いた。さすがにパーティ当日に紛れるのは気づかれるんじゃないか?数ヶ月前から取り巻きとして紛れていたならその限りじゃないが…。」

それは間違っているな、シュビネー伯爵よ。

「問題ない、取り巻きの顔なんていちいち覚えてない。貴方は知り合いの顔と名前を全て覚える?パーティをするたびに増えていく利害関係のないただの貴族の知り合い全て。」

シュビネー伯爵がおし黙る。

ラディリエさんがつぶやく。

「ナナちゃん、少し饒舌になってる。これもこれで可愛い……。」

…聞かなかったことにする。


「ナナちゃん、君の言いたいことはわかる。確かに被害者は取り巻きなどいちいち覚えていないかもしれないが、取り巻き同士なら話は別じゃないか?彼女らならいつもと違う顔があれば気づくと思うけど…。」

ネイデンさん、それこそ問題ない。

「言ったはず、パーティのたびに増えたり減る取り巻きを覚えるはずがない。それに取り巻きの目的は1人だけ、周囲の取り巻きなんて気にしない。話し相手として仲良くなることはあっても全員が全員の顔と名前を把握することはない。」

「……それも、そうだな。」

ネイデンさんが納得したように呟く。


「ナナちゃん…すごく貴族に詳しいんだね。君の口から取り巻きなんて言葉が出るとは思わなかったよ。そう言う『訳あり』なのかな?ラディリエ。」

シュビネー伯爵の言葉にラディリエさんの表情が曇る。

「シュビネー伯爵、そう言う詮索はやめてください。それに、間違ってますから。」

「……そうか、そうだったな。…悪かったよ、ごめんね?ナナちゃん。」

「大丈夫、気にしてない。」


そして、シュビネー伯爵の表情が決意で満ちた。

「よし!なら早速その殺人鬼のとこに行って話を聞かないとな。それで、誰なんだい?その犯人は。」

シュビネー伯爵……。

「知らない。」

「え?」

「貴方からの、情報に無い。」

「……。そうだったな…それについてはわたしが調べよう。……私も少し焦っていたようだ、反省しないといけない。」


そして、今日は解散した。


「ナナちゃん、犯人がわかったよ。犯人の名前は『メアリー・モーニス』。貴族の子爵だったがすでに没落していて、今は爵位も無い平民だ。」

その言葉にネイデンさんが反応した。

「…『メアリー・モーニス』、知っている。シュビネー、私は彼女を知っている!」

「…知り合いか?ネイデン。」

「いや、彼女の父の不正を私が糾弾したことがある。よくある税金の着服だよ、しかし私は彼を許すことができなかった。…今思い出した、殺された女性たちは私の糾弾に賛同してきた者たちの血縁だ。…だからみんな顔なじみだったのか……。」

ネイデンさんが俯いたまますすり泣く。

シュビネー伯爵がネイデンさんの肩に手を置き、慰める。

「彼女の犯行動機はわかりました、しかしジャック・カルーダはなぜ殺人を?彼の動機がわからないですけど…。」

「…快楽殺人者。」

私の呟きにラディリエさんが目を見開く。

「……快楽…殺人者?」

「昨日の帰りに警備隊の人たちに死体を見せてもらった。」

「…あぁ、来てたね。凄くジロジロ見ててこっちが気持ち悪くなったよ。」

シュビネー伯爵の話は無視だ。

「1件目と4件目の切り方は同じ、2件目と3件目の切り方も同じ。でも1件目と2件目は違う。」

「ええっ!?でも警備隊の人たちは同じだって言ってたんでしょう?」

ラディリエさんの疑問は正しい。

しかし、見る人は素人だったんだよね。

戦闘技術は確かに人並み以上にあったけど人の殺し方はまだまだアマチュアだった。

「…凶器は刃物、切ったところは同じ。でも癖は違う。武器を操る『癖』は違う。」

「…『癖』?」

ラディリエさんが首を傾げて聞き返す。

……少し可愛いと思ったのは内緒だ。

「ジャック・カルーダは人を切るときに傷口を開くように手首をこねる癖があった。……サディストや快楽殺人者に多い癖、無理に痛みを与えようとするクズに多い。」

「……。」

皆が黙る、私を見てなんで知ってる?って顔をしてる。……しょうがないじゃん、『先生』から教わったんだから…。

「ナナちゃんの口が悪く…これもこれで良いかも…。」

………ラディリエさんの言葉は聞かなかったことにする。…聞かなかっことにしたい。


「ナナちゃん、ありがとう。これでやっと犯人を捕まえることができる。しかし、もう少し手伝ってくれ。」

「…何をする?」

「メアリー・モーニスは今日の晩、パーティに出席するらしい。目的は…わかるね?」

「…誰を殺すんだ?」

ネイデンさんが俯いた顔を上げてシュビネー伯爵を睨む。

「ニルナ・ラデルカイン、君の糾弾に賛同したヒルディレイト・ラデルカインの孫だ。」

ネイデンさんの顔が真っ青になる。

「安心しろ、彼女は私が絶対に守る。傷一つ付けることなく助けることを約束…いや、誓うよ。私の家名にかけて誓う。」

「シュビネー…ありがとう。」



「でも、守るのは私……なんでもない。」

突っ込もうとしたら3人の視線が刺さる。



そして、パーティが始まる時間がやってくる。

謎が解ける回かと思いきやまだ半分

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