入会
今回からが言わば本編です。
ここからがスタート!
大男が向かった先にあったのは、一つのギルド。
【冒険者ギルド】があった。
「嬢ちゃん、ここが俺のオススメの職場だ。」
「冒険者…ギルド。」
『冒険者』…王国騎士と違って金さえあればなんでもする職業、いわゆる何でも屋。
しかし、傭兵と違って国に拠点を作り信用を得ているため、『信用できる何でも屋』だ。
主な内容は魔獣退治や害獣駆除などの荒事。
ただ、暗殺者と違い対獣の荒事が多い。
対人スキルはあまり活かせないのでは?
そう思っていた私を見て察したのか、大男は豪快に笑って私に言う。
「心配すんな、お前さんは十分ここでやっていける力を持ってる。『先生』を信じろ。」
それに、と彼は続ける。
「人間を殺せる技術を持つ嬢ちゃんは特別だ、ここにいる奴にはできないことができる。それは『強み』だぜ、胸張って頑張りやがれ。」
「わかった…信じる。」
その言葉に大男は笑った。優しい笑顔だ。
顔はいかついのに、優しい表情だ。
「それじゃぁ、入るか!入るときは『頼もう!』って言うのがマナーだぜ、わかったな?」
「なるほど、わかった。」
大男は頼りになる、感謝しないといけない。
そう思い、冒険者ギルドの扉を開けた。
「頼もう!」
中には周囲の男たち。
その誰もが、私を見て変な顔をしていた。
……何か間違ったか?
入る前に言ってしまったからか?
入るときに言う…だったよな?
困惑する私を見てなぜか笑っている大男。
それを見て察したような、何処か呆れた顔をしている女性がギルドの受付からでてきた。
受付嬢だと思う、制服だし。
「…カインズさん、彼女は?」
「おう、新入り予定だ。面白れぇだろ?」
「有る事無い事吹き込むのが面白いですか。」
…有る事無い事?……まさか。
「ねぇ、嘘…ついた?」
私の質問に大男が笑って言う。
「おう!よくわかったな!」
輝かしい笑顔に殺意が湧く。
さっき感謝しようと思った私の気持ちを返せ。
「……殺す。」
「…いや、悪かった。マジで、マジで悪かったって!ほんとそれはシャレにならん!ナイフしまえよ!なんで懐から三本もナイフが出てくんだよ!……うぉっ!投げるな!殺す気か!?」
「チッ、おしい。」
「殺す気かぁ!」
「何してるんですか、カインズさん。」
受付嬢らしき女性の言葉に我に帰る。
「…殺すのはあと、まずは仕事。」
「……あぁ、それまでに殺意を治めてくれ。」
大男…カインズという名前だったのか。
まぁいい、私の中ではもう大男で定着してる。
大男の言葉はもう信用してやらない。
「入会希望の子供ですか?貴方らしくない人選だと思うのですが?」
受付嬢の言葉に少し棘があるのは先ほどのやりとりではなく、私が『子供の』だからだろう。
しかし、大男は気にしない。
「お前の言い分はわかる、こいつはガキだ。しかしこの嬢ちゃんはここにいる奴以上の実力があると俺は知ってる。…常識は多少ずれてるがな。」
「まぁ、先ほどのやりとりで察しました。」
「だろ?弄ると面白いぜ?俺も初めてやったがまさか本当に信じるとは…。ハハハハッ」
あぁ…イライラする。
私の殺意が大男に向く、それを察した受付嬢。
全く気づいていない大男。
「カインズさん、そろそろ本題に…。」
「おう!そうだな。…それにしてもあの真面目な顔で『頼もう!』って…ククッ思い出すだけで笑えてくるなぁ。」
……やっぱ…今殺そうかな?
ギルドの入会は割と簡単だった。
大男はギルドになぜか信用されているようで、あのクソ野郎の紹介というだけであっさりと入会できたのだ。…あのクソ野郎のおかげで。
アイツ…しつこくバカにしやがって。
いつか絶対殺してやる。
その後、あの受付嬢のラディリエさんから細かい話を聞いた。
主な内容は仕事上の注意だ。
ボードに貼り付けられた依頼書を受付に持っていき、その後依頼主から話を聞く。
そして依頼を完了して、依頼主からサインを受け取り、受付にそのサインを提出する。
ここまでしてやっと仕事を完了したと言える。
「つまり、帰ってくるまでが仕事なんです!」
とはラディリエさんの言葉だ。
そして、ギルド内でのマナーもきつく言われた。
例えば…
ギルド内での揉め事は自己責任。
しかし傷害沙汰は罰則があることもある。
「ナイフで怪我させるなんて罰則の基本形よ!」
…でもあそこまで煽ることはないと思う。
こうして、私の入会は終わった。
そしてその後、私はラディリエさんと個室で話をした。少し話したいことがあるそうだ。
大男は帝国行きの馬車を用意すると言ってギルドから出て行った。…逃げられた。
「えーと、ナナちゃん…だっけ?」
「はい、ナナでいい…です。」
「まあまあ、癖みたいなものだから気にしないで。…ナナちゃんはなんで冒険者になろうと思ったの?カインズさんの紹介なんて、なかなかできることじゃないのよ?」
その質問の返答に困る。
所属を強要された暗殺組織を潰して仕事に困ったところに大男がここを紹介してきたなんて。
口が裂けても言えない。
すると、ラディリエさんが慌てて言った。
「あ!いや、言えないならいいのよ?うん。ごめんなさいね?…少し詮索しすぎたわね、ここに入会する人は『訳あり』も多いから、そういう話は聞かないのがマナーなのよ。」
「…大丈夫、気にしてない。」
すると、彼女は笑った。
「…ありがとう、そういえば宿とかはもう決めてあるの?それにお金もどれくらい持ってる?」
「……決まってない。」
それにお金なんて持ってたっけ?
そもそも奴隷に給料なんてないよな?
まずい…私一文無しじゃないか?
「…お金はあるの?」
「……ない、はず。」
「…はず?」
「…給料……なかった。」
「………。」
私の言葉にラディリエさんが黙ってしまう。
給料が無いって働いて無いみたいじゃ無いか。
いや、この歳で働いてないのは普通か?
常識がわからないのはかなり辛い。
「よう、馬車が手に入ったぜ!そろそろ俺は行くから最後の挨拶を…って、どうした?」
そこに大男が帰ってきた。
ラディリエさんが大男に詰め寄る。
「カインズさん!給料が無いってなんですか?ナナちゃんがさっき言ってましたけどまさかタダ働きさせてたんですか!?犯罪ですよ!」
ラディリエさんが叫ぶように大男にまくし立てるが、大男は落ち着いている。
「ああ、話せば長くなるが…簡単に言えば嬢ちゃんは元奴隷だ。暗殺組織の奴隷だった。」
「…え?…奴隷?」
「いや…正確に言えば奴隷じゃない。ただ、奴隷のように扱われていた。」
ラディリエさんの表情が険しくなる。
…そういえば、確かに私は正確にいえば奴隷じゃ無いのか。親が奴隷だったけど。
「だが嬢ちゃんはその組織を一人で潰して俺のとこに来た。そこで職に困ってる嬢ちゃんに俺がここを紹介したんだ。」
「え?ちょっとま……」
「一人で潰したんですか!?この子が?」
私が突っ込もうとしたところにラディリエさんが食いついてしまった…。
「ああ、だから嬢ちゃんの実力は本物だ。」
「いや、そこは貴方の紹介ですから信じてますけど……それにしても奴隷みたいな扱いって。幾ら何でも酷すぎる…。」
「…まぁな、だから給料もねぇし常識もねぇ。ただこのギルドには常識ねぇのがかなりいるが。」
「…そうですね、なら仕方がない。ナナちゃんには今から宿代を稼いでもらいましょう。」
その言葉に私は身構える。
「……今から?」
「えぇ、今からできる仕事です。お給料は私が紹介する宿代一週間分にしましょう。」
「…おいラディリエ、それ大丈夫なのか?」
大男の心配する声を無視してラディリエさんは笑顔で私に仕事内容を言う。
「私の晩御飯に付き合ってください。」
少しグダグダしてるかな?




